LM101
2014年登場、MB&F初の自社開発キャリバー。14mmの浮遊テンプを文字盤上に頂き、毎時18,000振動で緩やかに時を刻む
LM101は、2014年にMB&Fが発表した、同社初の自社開発による手巻キャリバーである。創業以来の「Friends」体制で社外に委ねてきたムーブメント開発を、自社の技術陣が初めて主導した点に画期がある。意匠と仕上げの監修は独立時計師カリ・ヴティライネンが担う。毎時18,000振動 (2.5Hz) の緩速テンプは直径14mmに及び、文字盤の上に懸架されて常に視界へ躍り出る。単一香箱で45時間のパワーリザーブを備え、石数は23石。Legacy Machineで最も小ぶりな40mmケースに収まり、各種金属のLM101や、2025年のLM101 EVOへと展開した。
| Maker | MB&F |
|---|---|
| Reference | LM101 |
| Type | Handwound |
| Display | Analog |
| Frequency | 18,000 bph (2.5 Hz) |
| Jewels | 23 石 |
| Power reserve | 45 h |
| Hands | Hours, Minutes |
| Additional | Power Reserve Indicator |
系譜と歴史
1. 「Friends」体制から自社開発へ
MB&Fは2005年、マキシミリアン・ブッサーがジュネーブに創業した独立系である。エンジニア出身のブッサーは、ジャガー・ルクルトとハリー・ウィンストンで経験を積み、後者では独立時計師と組むOpusシリーズを主導した。MB&Fの名は「Maximilian Büsser & Friends」に由来し、設計を社外の才能と分かち合う体制を指す。
2011年のLegacy Machine No.1 (LM1) と2013年のLM2は、いずれもクロノードのジャン=フランソワ・モジョンがムーブメントを構築し、ヴティライネンが仕上げを監修した。外部の専門家に委ねる手法は、ブッサーの構想を高い完成度で結実させてきた。
2014年のLM101は、この流れに転機をもたらす。ムーブメントの開発を初めて自社の技術陣が主導し、ヴティライネンは意匠と仕上げの監修に回った。LM1の機構と近縁ながら、設計は新規である。小型で簡素なLMを内製で生み出すことは、ブランドの自立を示す布石となった。
2. 緩速テンプという選択
LM101の核心は、毎時18,000振動 (2.5Hz) という緩やかな歩度にある。現代の量産機が毎時28,800振動 (4Hz) を主流とするなか、ブッサーはあえて懐中時計時代の低振動数を選んだ。直径14mmの大型テンプを文字盤の上に懸架する、三次元設計のためである。
低い振動数は、大きく緩やかなテンプの運動を肉眼で楽しませる。ブッサーが幼少より魅せられた、アンティーク懐中時計の大径テンプへの敬意でもある。Legacy Machineの名が指す「遺産」とは、19世紀の時計技術が現代に芽吹いていたら、という仮想に根ざす。
3. 進化の系譜
LM101の機構は、10年をかけて静かに更新された。2020年、H.モーザーとの協業によるPerformance Artで、シュトラウマン製のダブルヒゲゼンマイを初めて採用する。翌2021年には標準モデルもこれに倣い、ステンレススチール仕様が加わった。
2025年のLM101 EVOは、より日常的な装着を狙った改良版である。チタンケースにFlexRingと呼ぶ緩衝機構を備え、橋にはNAC処理の暗色仕上げを施す。パワーリザーブは45時間から60時間へ延び、構成部品も増えた。自社開発のキャリバーは、独立系らしい手仕事を保ちつつ、静かに歩みを進めている。
技術解説
緩速の大型テンプ
LM101の設計を貫くのは、直径14mmに及ぶ大型テンプである。テンプとは、ヒゲゼンマイと組んで一定の周期で振動し、歩度を司る調速部品を指す。一般に径が大きいほど慣性モーメントが増し、外乱に対して安定しやすい。LM101はこのテンプを毎時18,000振動 (2.5Hz) という低い振動数で駆動する。現代の主流である毎時28,800振動 (4Hz) の半分強にあたり、一振りの周期が長い。
テンプ・ヒゲゼンマイ・脱進機(アンクルとガンギ車から成り、動力を間欠的に伝える機構)が、ひとつの調速系を構成する。低い振動数は理論上、外乱の影響を受けやすい面もあるが、大径テンプの大きな慣性がこれを補う。緩やかな運動は、文字盤上での視認性という意匠上の狙いとも合致する。
文字盤側への懸架
テンプは機械の裏ではなく、文字盤側の上方に配される。これを支えるのが、二本のアームが弧を描くアーチ橋である。標準モデルでは、この橋を一塊の金属から削り出し、鏡面へと手研磨する。テンプは四つの調整ねじを備え、緩急針に頼らず歩度を整える形式をとる。
ヒゲゼンマイは初期モデルでは、終端を持ち上げたブレゲ・オーバーコイル形状を採り、可動式のヒゲ持ちで留めた。2021年以降はシュトラウマン製のダブルヒゲゼンマイへ移行する。二枚のヒゲを上下対称に重ねる構造は、伸縮時に生じる重心の偏りを打ち消し、姿勢差の低減に寄与するとされる。
香箱と動力伝達
動力源は単一の香箱(ぜんまいを納める部品)である。標準仕様で45時間、2025年のEVOでは60時間のパワーリザーブを確保する。EVOは、巻き上げ過多を逃がすすべりブレを組み込んだ単一香箱を用いる。輪列を経た動力は、一方の小針盤に時刻を、もう一方にぜんまいの残量を伝える。手巻のため、装着者は日々の巻き上げを通じて、ぜんまいの張りを手元に感じ取ることになる。
仕上げと造作
仕上げは、ヴティライネンが監修する19世紀様式の手仕事に貫かれる。コートドジュネーブ(筋状の装飾)、手彫りのエングレービング、金無垢のシャトン(石を保持する受け座)を伴う磨き込んだ座ぐり、そして機械では再現しがたい内角の面取りが、橋の随所に見て取れる。石数は23石、構成部品は初期の229点から、2021年は231点、EVOでは233点へと増えた。
EVOにはFlexRingと呼ぶ緩衝環がケースとムーブメントの間に挿入され、手巻機構を衝撃から守る。公式クロノメーターの認定は受けないが、調速の安定は大径テンプの慣性と入念な手調整に拠る。製造数の限られた独立系ゆえ、保守には熟練した時計師の手が前提となる。