設計思想
1. 日常の定番として
Slim d'Hermèsは、エルメスの時計に日常使いの定番を据える試みとして生まれた。開発を率いたのは、ラ・モントル・エルメスのクリエイティブディレクター、フィリップ・デロタルである。Quill & Padの取材によれば、彼が必要としたのは極薄の自動巻と、まったく新しい文字盤の顔の二つだった。
機械はエルメスが資本参加するヴォーシェが手がけ、開発は2011年に始まって発表までに4年を費やした。文字盤の数字は、パリのグラフィックデザイナー、フィリップ・アペロワがこのシリーズのために描いた専用書体である。2015年の発表時には永久カレンダーのモデルも並んだが、本Refが属するのは時・分とスモールセコンドだけを示す基本形である。
2. ストラップで分かれる番号
エルメスは、同じケースと文字盤でもストラップが違えば別の製品番号を与える。39.5mmのスチールにオパーリン・シルバー文字盤という同じ仕様でも、番号は分かれる。黒のアリゲーターはW041759WW00、ハバナのアリゲーターはW041760WW00である。
WatchBaseは本Refを「GM Stainless Steel / Silver」の名で登録している。W041759WW00と同じ名称である。名称だけでは両者を区別できず、違いを示すのは掲載写真である。そこに写る本Refは、鮮やかな青のアリゲーターと組み合わされている。
馬具と革製品から出発したメゾンにとって、ストラップは付属品ではない。Slim d'Hermèsのストラップは自社の革工房で仕立てられ、色と革の選択がそのまま製品の識別になる。本Refの番号は、エルメスが時計の個性をどこに置いているかを示している。
3. 2016年の色と、性別を問わない設計
Slim d'Hermèsは25mm、32mm、39.5mmの3サイズで始まり、機械式を積むのは39.5mmだけだった。小さな2サイズはクォーツである。デザインは当初から性別を問わないことを意図していたと伝わる。
2016年、エルメスはこの39.5mmに色鮮やかなアリゲーターを合わせ、女性にも向けて打ち出した。当時、自社の機械式を求める女性にとって、Slim d'Hermèsの選択肢はこの大きさに限られていた。本Refは、その展開に連なる一本とみられる。ローズゴールドのW041762WW00とともに、39.5mmは素材とストラップの組み合わせで性格を描き分けていった。
意匠分析
39.5mmのスチールケースは、ベゼルを細く取り、文字盤の開口を広げている。そのため実寸より大きく見えるという評がある。ラグは短く、ストラップへ向かって内側へ折れる。円いケースと内へ傾くラグの角度の対比が、このシリーズの輪郭を決めている。風防と裏蓋はともに反射防止処理を施したサファイアクリスタルである。防水性能は30m防水(3bar)で、公式は革ストラップの時計を水に触れさせないよう求めている。
文字盤はオパーリン・シルバーで、三つの面に分かれる。外周の時字環にはサンレイ仕上げが施される。中央の円盤と6時位置のスモールセコンドは、渦を描く細い筋目のスネイル仕上げである。光の受け方が面ごとに変わり、色を抑えた文字盤に浅い段差の陰影が生まれる。
数字はフィリップ・アペロワの専用書体で描かれる。線はところどころで途切れ、小さな余白を抱える。この余白が、広い文字盤に置かれた数字を軽く見せる。針は細いバトン型で、書体の線の細さと釣り合っている。
本Refの個性はストラップにある。WatchBaseの写真では、銀白色の文字盤に鮮やかな青のアリゲーターが合わされている。公式サイトに載る同じケースのスチール仕様は、黒とハバナのどちらもスチールのピンバックルで留める。
ムーブメントのCal. H1950は、ヴォーシェのVMF 5401を基にエルメス向けに仕立てた機械で、厚さは2.6mmである。巻き上げにはムーブメントの中に収まるマイクロローターを使い、中央に大きなローターを重ねないことで薄さを保つ。毎時21,600振動 (3Hz)で、パワーリザーブは42時間。ブリッジは手作業でアングラージュ(面取り)を施され、「H」の文字を散らしたエルメス独自の装飾で覆われる。
系譜と歴史
Slim d'Hermèsは2015年に発表された。Quill & Padが新作として報じたのは同年3月である。39.5mmのGMはスチールとローズゴールドのケースで始まった。スチールにオパーリン・シルバー文字盤と黒のアリゲーターを合わせた仕様がW041759WW00である。この番号は2026年現在も公式サイトに掲載されている。
2016年、エルメスは39.5mmに色鮮やかなアリゲーターストラップを合わせた仕様を加えた。WorldTempusは、サファイアブルー、エレファントグレー、ゼラニウム、カシス、ブラックの5色を報じている。いずれもオパーリン・シルバーの文字盤を女性へ向けて打ち出したもので、ダイヤモンドでベゼルを囲んだ版も用意された。同じ年、男性向けにはスレートグレーとミッドナイトブルーの文字盤が加わっている。
WatchBaseは本Refの製造年を2015年とする。一方、同サイトの写真の本Refは、サファイアブルーに近い青のアリゲーターと組み合わされている。そのため、2016年の追加分に属するとみられる。本Refの発表年は、公式資料ではまだ確かめられていない。
2026年10月時点で、エルメス公式サイトの39.5mmスチールの製品ページが示すストラップの選択肢は3つある。黒アリゲーターのW041759WW00、黒のストラップのW052839WW00、ハバナのW041760WW00である。本Refはそこに含まれず、生産終了の時期を示す公式の記録も見つかっていない。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Slim d'Hermès watch, 39.5 mm | Hermès Greece
- 02 公式 Slim d'Hermès watch, 39.5 mm | Hermès Greece
- 03 専門メディア Hands-on Review of the New Slim d'Hermès Time-Only Watch (live photos, specs & price)
- 04 専門メディア Introducing Slim d'Hermès: The Elegant New Backbone Of The Hermès Collection
- 05 専門メディア Hermès W043196WW00 : Slim d'Hermès GM Stainless Steel / Silver
- 06 専門メディア Hermès caliber H1950
- 07 専門メディア Slim d'Hermès Manufacture 39.5mm
- 08 専門メディア Slim d'Hermès
- 09 専門メディア Slim d'Hermès, black and magnolia white dials
- 10 専門メディア Hermès Slim D'Hermès Quantième Perpétuel Platine Watch
- 11 専門メディア Hermès Slim d'Hermès Watch Review: The Verdict Three Years After Debut