設計思想
1. 二つの素材で始まった39.5mm
2015年3月、Quill & Padはエルメスの新シリーズSlim d'Hermèsを報じた。設計を率いたのは、クリエイティブディレクターのフィリップ・デロタルである。彼が目指したのは、日常に着けられる新しい定番だった。同誌はこれを、エルメスの時計群の背骨となるラインとして紹介している。
シリーズは25mm、32mm、39.5mmの3サイズで構成された。小さな2サイズはクォーツで、自社のCal. H1950を積むのは39.5mmだけだった。その39.5mmは、発表の時点でスチールと18Kローズゴールドの2つのケースを備えていた。本機W041762WW00は、このうち金の側にあたる。
2. 永久カレンダーと同じ金
発表時のシリーズには、もう一本の柱があった。H1950に厚さ1.4mmのモジュールを重ねた永久カレンダーである。モジュールはアジュノールの設計で、ケースはローズゴールドのみが用意された。
Monochrome Watchesは、時刻表示の基本形とこの永久カレンダーを、2015年のシリーズの主軸と位置づけている。本機は基本形でありながら、上位機と同じ金のケースをまとう。スチールの基準機が日常の入口を担う一方で、本機は素材の面で永久カレンダーと地続きの一本だった。
3. 骨格を共有し、素材で分かれる
ケースの意匠、文字盤の構成、ムーブメントは、スチールの基準機と共通である。違いはケースと留め具の素材、そして組み合わせるストラップにある。本機は褐色のアリゲーターと組み合わされた仕様とされる。
Quill & Padは、ケースを傘下のジョセフ・エラール、文字盤を同じく傘下のナテベールが手がけたと伝えている。ストラップはスイス・ブリュッグの自社工房で仕立てられるという。ケース、文字盤、革の3つを、エルメスはグループの内側で揃えていた。
4. 金の系譜のその後
2015年に始まったローズゴールドの系譜は、シリーズの中で続いていく。2025年12月、永久カレンダーがローズゴールドと茶の文字盤で再び登場した。Watchonistaは、同じ時期に5Nローズゴールドのケースを持つSquelette Luneが加わったと伝えている。チタンのケースにローズゴールドのベゼルを合わせたGMTも、同じ記事で紹介された。
一方、時刻表示だけのローズゴールドの39.5mmは、2026年10月時点のエルメス公式サイトに見当たらない。本機は、金で仕立てた基本形として2015年の構成を今に伝える一本である。
意匠分析
ケースは直径39.5mmの18Kローズゴールドである。ベゼルは細く、文字盤の開口が広い。aBlogtoWatchは、この比率のために実寸より大きく装着されると評した。ラグは短く、ストラップに向かって内側へ傾く。WatchBaseも、この内向きのラグをシリーズの特徴に挙げている。Quill & Padが伝えた発表時の諸元では、ケース厚は8.14mmで、スチールと共通とされる。
文字盤はオパーリン・シルバーで、外周の時字環、中央の円盤、6時位置のスモールセコンドの3層からなる。公式がスチール版に記す仕上げは、時字環がサンレイ仕上げ、中央と秒の小窓がスネイル仕上げである。層ごとに光の返り方が変わり、平らな文字盤に浅い段差の陰影が生まれる。
暖色の金のケースに、銀白色の文字盤が収まる。色の対比はケースと文字盤の境で生まれ、文字盤の内側は配色を変えない。アペロワの数字は細い線と切れ目で組まれ、針は細いバトン型である。金を足しても文字盤の装飾は増やさず、書体と余白で読ませる構成が保たれた。
留め具は、ケースに合わせたローズゴールドのピンバックルとされる。防水は30m防水で、公式は革ストラップの時計を水に触れさせないよう求めている。
ムーブメントのCal. H1950は、ヴォーシェのVMF 5401を基にした機械である。aBlogtoWatchによれば、主な変更はスモールセコンドの追加とされる。厚さは2.6mmで、巻き上げは機械の内側に収めたマイクロローターが担う。毎時21,600振動 (3Hz)、パワーリザーブは42時間、石数は29石である。サファイアクリスタルの裏蓋から、手作業でアングラージュを施した受けと、Hの字を散らした装飾が見える。
系譜と歴史
Slim d'Hermèsは2015年に発表された。Quill & Padは同年3月18日に新シリーズとして報じ、コレクションは同年のバーゼルワールドで披露された。39.5mmの時刻表示モデルは、この時点でスチールとローズゴールドの2つのケースを備えていた。本機W041762WW00は後者にあたり、WatchBaseは製造開始を2015年、非限定のモデルとして登録する。
日本ではOPENERSが同年4月のバーゼルワールド報告で、39.5mmの発売を2015年秋の予定と伝えた。aBlogtoWatchも、Slim d'Hermèsが市場に出たのを2015年後半としている。同年9月にはMonochrome Watchesが時刻表示モデルの実機を紹介し、ローズゴールド版が選べることにも触れた。
生産期間中に、本機の文字盤やケースを改めたという報道は見当たらない。ムーブメントの変更を伝える記録も確認できなかった。
生産終了を告げる公式の発表は確認できない。2026年10月時点で、エルメス公式サイトの39.5mm時刻表示モデルのページに示されるのは、スチールケースだけである。本機の掲載は見当たらず、現在も製造されているかどうかは公式資料から確かめられない。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Slim d'Hermès watch, 39.5 mm | Hermès Greece
- 02 専門メディア Hands-on Review of the New Slim d’Hermès Time-Only Watch
- 03 専門メディア Introducing: The Slim d’Hermès Quantième Perpétuel, now in Rose Gold and Brown
- 04 専門メディア Hermès | Baselworld 2015 Live Report | HERMÈS
- 05 専門メディア Introducing Slim d’Hermès: The Elegant New Backbone Of The Hermès Collection
- 06 専門メディア Hermès W041762WW00 : Slim d'Hermès GM Rose Gold / Silver
- 07 専門メディア Hermès caliber H1950
- 08 専門メディア Keeping Slim for the Holidays: Hermès Introduces Two New Slim d’Hermès Models
- 09 専門メディア Hermès Slim d’Hermès Watch Review: The Verdict Three Years After Debut
- 10 専門メディア 爱马仕SLIM D'HERMÈS系列W041762WW00参数介绍