設計思想
1. シルバーから始まった39.5mm
Slim d'Hermèsの39.5mm自動巻は、2015年にシルバー文字盤で世に出た。スチールケースの基準機がW041759WW00である。ケースを整えたのは、クリエイティブディレクターのフィリップ・デロタルである。数字の書体は、グラフィックデザイナーのフィリップ・アペロワが手がけた。
初年度の自動巻は、文字盤の色を選べなかった。翌2016年、ブランドはこの器に色を持ち込む。加わったのはスレートグレーとミッドナイトブルーの2色で、後者が本機にあたる。新しいケースや機構ではなく、色で幅を広げた点に、このRefの位置がある。
2. 変えたのは色と革
SJXによれば、新色のモデルは色を除いて前年の時計と同一とされる。39.5mmのケース、内側へ折れるラグ、6時位置のスモールセコンド、Cal. H1950という骨格は動かない。設計を一から見直すのではなく、完成した器に色を差すという判断だった。
色と組で語られたのがストラップである。WorldTempusは、ミッドナイトブルーにマットなインディゴのアリゲーターを合わせたと伝える。同誌は、これらのストラップがエルメスの革工房で仕立てられ、馬具と革の技術に連なるものだとしている。文字盤とストラップを同じ色調で揃える提案には、革から出発したメゾンの来歴が表れている。
3. 明暗を入れ替えた書体
シルバー文字盤では、黒い数字が淡い地に置かれる。本機ではこの関係が反転し、明るい数字が紺の地に浮かぶ。アペロワの数字は細い線と切れ目で組まれ、切れ目が地の色をのぞかせる。地が暗くなれば、切れ目の見え方も変わる。
39.5mm自動巻の色文字盤は、この書体が明暗を入れ替えても成り立つかを示す、最初の例の一つになった。同時に出たスレートグレーのW043203WW00は、中間調の地で書体を受け止める。対して本機は、暗い地と明るい数字の対比をはっきり打ち出した。
4. 青の広がり
紺の地に明るい数字を抜く構成は、本機にとどまらなかった。2017年1月、シリーズの永久カレンダーにプラチナケースのモデルが加わる。濃い青の文字盤にシルバートーンの数字を置き、本機と同じ明暗の関係をとった。時刻のみのドレスウォッチで先に示された配色が、上位の複雑機構でも採られたことになる。
意匠分析
ケースは39.5mmのスチールで、ベゼルを細く抑えて文字盤の面積を広くとる。この比率が、径の数字よりも大きな見た目を生む。側面から見て目を引くのはラグで、ストラップへ向かって内側へ鋭く折れる。円形ケースの単純さに、角度のある線が一本加わる。
文字盤は三つの層で組まれる。数字を載せる外周のチャプターリング、中央の円盤、6時位置のスモールセコンドである。シルバー文字盤では、外周にサンレイ仕上げ、中央と秒の小窓に細かな同心円の仕上げが施される。層ごとに光の返り方が違い、平面の文字盤に浅い奥行きが出る。本機の紺の文字盤について、SJXは新色をメタリックな仕上げと伝えている。
数字は細い線と切れ目で組まれたアペロワの書体で、本機では明るい色で刷られる。針は細いバトン型で、数字の線の細さと釣り合う。装飾を足さず、書体と余白の配置で読みやすさを組み立てる構成である。
ムーブメントは、エルメスが4分の1を出資するヴォーシェが製造するCal. H1950。マイクロローターで巻き上げる自動巻きで、厚さは2.6mm、ムーブメントの直径は30mmある。巻き上げの錘をムーブメントの内側に収めたことが、この薄さの一因である。振動数は毎時21,600振動 (3Hz)、パワーリザーブは42時間、石数は29石。サファイアクリスタルの裏蓋から、手作業で面取りした受けと、Hの文字を散らした装飾が見える。ムーブメントの径が裏蓋の窓を大きく満たし、薄型ケースの裏側にも密度を残す。防水は30m防水で、公式は革ストラップの着用時に水へ触れないよう求めている。
系譜と歴史
2015年、エルメスはSlim d'Hermèsを発表し、39.5mmの自動巻モデルをシルバー文字盤で投入した。本機W043204WW00は、その翌年に加わった色違いのRefである。2016年2月、WorldTempusとSJX Watchesがスレートグレーとミッドナイトブルーの新色を報じた。SJXの記事は、これらを同年のバーゼルワールドで披露する予定だと伝えている。スレートグレーのモデルはW043203WW00で、WatchBaseは本機と同じく2016年の追加として記録する。同じ年には、ベゼルに66個のダイヤモンドを並べたスチールモデルも加わった。WorldTempusは、女性に向けた39.5mmのオパーリンシルバー文字盤モデルも同年に用意されたと伝える。
生産期間中の仕様変更について、公式・専門メディアの記録は確認できなかった。文字盤の刷りやストラップの小変更を含め、発表時から構成が変わったという報道は見当たらない。
生産終了の時期を示す公式発表も確認できない。WatchBaseは本機の生産終了年を記載していない。2026年10月時点のエルメス公式サイトには、基準機W041759WW00の製品ページがある。一方で、本機のページは見当たらない。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Slim d'Hermès watch, 39.5 mm (W041759WW00)
- 02 専門メディア Hermès Slim d’Hermès Email Grand Feu
- 03 専門メディア Hermès Introduces the Slim d'Hermès Perpetual Calendar in Platinum
- 04 専門メディア Introducing the Slim d’Hermes, Now in Slate Grey or Midnight Blue
- 05 専門メディア Up Close With The Slim d’Hermes – Simple, Original And Affordable
- 06 専門メディア Hermès W041759WW00 : Slim d'Hermès GM Stainless Steel / Silver
- 07 専門メディア Hermès W043203WW00 : Slim d'Hermès GM Stainless Steel / Graphite
- 08 専門メディア Hermès W043204WW00 : Slim d'Hermès GM Stainless Steel / Blue
- 09 専門メディア Hermès caliber H1950
- 10 専門メディア Slim d’Hermès
- 11 専門メディア Hermès Slim D’Hermès Quantième Perpétuel Platine Watch
- 12 専門メディア Hermès Slim d’Hermès Watch Review: The Verdict Three Years After Debut