03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
1. 開発の背景
Cal. 4132の出発点は、2000年に登場したロレックス初の自社開発クロノグラフ、Cal. 4130にある。同機では、垂直クラッチに付いた駆動爪が1分ごとに計数輪列を送り、分積算計と時積算計を一本の輪列で動かす。ロレックスが1995年を優先日とする特許EP0772104で示した計数輪列が、この設計の原型とされる。可動部品が少なく、1本のジャンパー(ばねで歯を押さえる位置決め部品)で輪列全体を保持できる点が長所である。
その一方で、時積算の減速比は限られた空間の中で決まっていた。24時間化に関する同社の特許文書によれば、毎分1回転する秒輪列から数えて、12時間表示には720分の1の減速が要る。24時間表示ではこれが1,440分の1となる。車を増やせば場所を取り、表示ごとに別の地板を用意する必要も生じる。
2023年、ル・マン24時間レースは第1回開催から100年を迎えた。2001年からオフィシャルタイムピースを務めるロレックスは、記念モデルに24時間積算を与えた。レースの全行程を一度の計測で追える仕様である。
2. 技術的革新
ロレックスは発表の約3年前、2020年7月21日にこの課題の解決策を欧州で特許出願している(EP3944026)。発明者欄にはJulien CattaneoとPierre-Alain Graemigerの名が記載されている。発想の要は、時積算側の車1個を、同じ占有空間に収まる遊星歯車機構(エピサイクロイド輪列)へ置き換える点にある。特許は、同じ地板と駆動車、時積算車を用いたまま、12時間仕様と24時間仕様を組み分ける組立方法も請求項に含めている。
ロレックスは追加機構が7部品から成ると説明する。専門誌の分析でも、受けや地板を含む他の部分に変更はないとされる。同特許は2024年に米国で、2025年に欧州で登録に至った。
3. 派生・展開
初搭載機は、2023年6月10日、第91回大会の会場で公開された18ctホワイトゴールドのRef. 126529LNである。ベゼルのタキメーター目盛りでは「100」だけが赤く配される。インダイアルは往年の「ポール・ニューマン」文字盤の意匠を引く。ケースバックはサファイアクリスタル製で、デイトナでは同年3月発表のプラチナモデルに続く2例目とされる。
Ref. 126529LNは2024年にカタログから外れ、同年中に18ctイエローゴールドのRef. 126528LNが現れた。2025年には18ctエバーローズゴールドのRef. 126525LNの存在も報じられている。後の2型について公式発表はないとされるが、いずれもCal. 4132を搭載すると伝わる。2026年9月時点で確認できる範囲では、本機はル・マン記念モデル専用で、通常のデイトナには用いられていない。
4. 業界での位置
クロノグラフでは12時間積算が通例で、伝統的な設計では時積算計を香箱から摩擦機構を介して駆動する例が多い。手巻きのレマニア系や自動巻のValjoux 7750がその例で、この方式なら24時間化は歯数比の変更で済む。対してCal. 4130系は、全積算計をクラッチ側の一本の輪列にまとめたため、同じ手法をとれなかった。
遊星歯車そのものは時計界で珍しい機構ではない。パワーリザーブ表示や2つのテンプを持つ時計の差動装置に用いられ、特許の先行技術にも輪列や天文表示への応用が並ぶ。特許が示すCal. 4132の特徴は、太陽車の一方をムーブメント本体に固定した遊星歯車を、クロノグラフの計数輪列へ組み込んだ点にある。
05 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
基本構成
Cal. 4132は、Cal. 4131の構造を受け継ぐ自動巻クロノグラフムーブメントである。振動数は28,800vph (4Hz)で、テンプ(往復回転して時を刻む調速輪)は1秒間に8振動する。クロノグラフ秒針も、これに合わせて1/8秒刻みで進む。パワーリザーブは約72時間、直径は30.5mmとされる。特許によれば、24時間化しても機構の占有空間はほぼ変わらない。
クロノグラフの発停は、円柱状の部品で各レバーを順に制御するコラムホイールと、上下方向に断接する垂直クラッチが担う。垂直クラッチは、計測開始時に秒針が跳ねる現象を抑える方式である。自動巻機構は両方向巻き上げ式のローターによる。自動巻部はほぼ一体で取り外せ、クロノグラフ部に手を入れやすい半モジュール構造をとる。
計数輪列の構成
クロノグラフ作動中、垂直クラッチの駆動爪は1分に1歯ずつ、30歯の駆動車を送る。駆動車は30分で1回転し、中間車を介して分積算計を同じ速さで回す。同軸の小さな歯車は時積算側へ動力を分ける。12時間仕様ではここから72歯の車、9枚歯のカナ(小歯車)、90歯の時積算車を経て、1/24に減速される。これにより時積算針は12時間で1周する。これらの歯数は、特許図面を解析した専門誌の記述による。
遊星歯車による24時間化
Cal. 4132では、この72歯の車の位置に遊星歯車機構が収まる。72歯の車はそのまま遊星キャリア(遊星車を載せて回る車)となり、入力を受け持つ。キャリアの板を貫く軸には2枚の歯車を一体にした遊星車が支えられる。一方の歯車はムーブメント本体に固定された太陽車と、もう一方は出力側の太陽車と噛み合う。
キャリアが回ると、遊星車は固定太陽車の周りを公転しながら自転する。出力側の太陽車は、結果としてキャリアの半分の速さで同じ向きに回る。この1/2の減速が加わって総減速比は1/48となり、時積算針は24時間で1周する。
キャリアの歯数と出力側カナの歯数は12時間仕様の部品と揃えてあり、前後の車はそのまま使える。分と時の積算計は、中間車に掛かる1本のジャンパーでまとめて位置決めされる。歯を押さえるこのばね部品の働きも、24時間仕様で変わらない。
共通の調速機構
脱進機は、テンプの往復に合わせて動力を小出しにする機構である。本機ではニッケル-リン合金製のクロナジー・エスケープメント(Chronergy)がこれを担う。ヒゲゼンマイはテンプを往復させる渦巻きばねで、常磁性合金製のブルー・パラクロム(Parachrom)を用いる。終端はロレックス・オーバーコイルとし、姿勢による精度差を抑える。テンプは金製のマイクロステラ・ナットで慣性モーメントを調整する可変慣性式である。これを両端で支えるトラバーシング・ブリッジは高さ調整が可能で、パラフレックス(Paraflex)耐衝撃装置と組み合わされる。24時間化の改修は、この調速系には及んでいない。
仕上げと認定
これまでに知られる搭載機は、いずれもサファイアクリスタルのケースバックを備える。機械は外から見られる前提で仕上げられている。ブリッジには、帯の間に細い研磨溝を加えたロレックス・コート・ド・ジュネーヴ装飾が施される。Ref. 126529LNでは、肉抜きされた18ctイエローゴールド製ローターを最適化ボールベアリングが支える。認定はSuperlative Chronometerである。COSC認定に加え、ケーシング後の社内検査で日差-2/+2秒の精度が求められる。