03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
1. 開発の背景
Cal.3131の出発点は、2007年のミルガウス復活にある。ミルガウスは1956年に登場した、強い磁場の中で働く技術者や科学者のための時計である。1980年代後半に一度カタログから姿を消したのち、Ref.116400として再び世に出た。その心臓部として用意されたのが、Cal.3131である。
土台となったのは、日付なし三針のCal.3130である。3130は、1988年登場の基幹キャリバーCal.3135の系譜に連なる三針版である。サブマリーナやエクスプローラーにも用いられてきた。
初代ミルガウス以来、ロレックスの耐磁は軟鉄製のインナーケースで磁気を遮る方式に拠っていた。遮蔽だけに頼る構成では、シールドが受け止めきれない磁場に対して内部部品は無防備になる。Cal.3131は、磁化しにくい素材を内部に用いるという第二の防御線をここに加えた。
2. 技術的革新——素材による耐磁
3130に対する変更の核心は、時を刻むリズムを司る部品を、磁気の影響を受けにくい素材に置き換えた点にある。ひとつはブルーパラクロム・ヒゲゼンマイである。ロレックスは2000年、常磁性合金のヒゲゼンマイ「パラクロム」を発表した。2005年には表面処理を改め、青色の改良版を投入している。改良版を最初に得たのはGMTマスターII用のCal.3186で、Cal.3131はそれに続く早い時期の採用例とされる。
もうひとつが、ニッケル・リン合金製のガンギ車である。ロレックスはこの部品を、UV-LIGAと呼ばれる微細加工技術によって社内で製造するとしている。素材の開発から量産工程までを自社で抱える体制が、この部品の前提となった。
3. 派生・展開
Cal.3131を直接の母体とする派生キャリバーは確認されていない。一方、同じCal.3130を出自とする兄弟に、2010年登場のCal.3132がある。3131が耐磁に重心を置いたのに対し、3132はParaflex耐震機構を備える。こちらはエクスプローラー Ref.214270などに搭載された。同じ土台から、異なる目的へ枝分かれした関係である。
2016年、Cal.3131はエアキング Ref.116900に採用された。パイロットウォッチの系譜を持つこのモデルは、ミルガウスと同じ40mmケースと磁気シールドを共有する。2022年、エアキングはRef.126900へ更新される。ムーブメントは、クロナジー脱進機を持つ新世代のCal.3230に置き換わった。翌2023年にはミルガウスも生産を終え、Cal.3131は現行ラインから退いた。
4. 業界での位置
2000年代は、磁気への対策が「遮る」から「影響を受けない素材を使う」へと広がった時期である。シリコンをはじめとする非磁性素材の実用化が、各社で進んだ。2013年にはオメガが、シールドに頼らない構成で15,000ガウスの耐磁性を謳う時計を発表している。
Cal.3131は、この二つの考え方を一つのムーブメントで併用した点に特徴がある。伝統的な軟鉄シールドを残しつつ、内部部品の素材でも磁気に備える。優劣の問題ではなく、従来の構造と新素材をどう結びつけたかを示す構成として読める。ニッケル・リン合金の脱進機部品は、2015年以降のクロナジー脱進機へと引き継がれている。
05 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
Cal.3131は、日付機構を持たない三針の自動巻きキャリバーである。時・分・秒の三針を中央に配し、リューズを引くと秒針が止まるハック機能を備える。石数は31石、直径は28.50mmとされる。主要な構成要素を順に見ていく。
磁気シールド——外側の防御
ムーブメントを収めるケース内部には、強磁性合金製の磁気シールドが組み込まれる。シールドは二つの部品から成り、一方はムーブメントに、もう一方はケースにねじ留めされる。透磁率(磁束の通しやすさ)の高い素材は磁束を引き込むため、外部の磁場はシールドの壁を伝って迂回する。こうしてムーブメントの周囲に、磁場の弱い空間がつくられる。
ミルガウスは、この構成で1,000ガウス(約80,000A/m)の耐磁性を謳う。耐磁時計の国際規格ISO 764が求める4,800A/mの、16倍を超える値である。日付窓を設けず、裏蓋を開口部のないソリッドバックとした構成も、シールドの連続性を保つうえで理にかなうとされる。ロレックスによれば、シールドには磁束密度を示す、矢印を添えた記号「B」が刻まれている。
ガンギ車——ニッケル・リン合金
脱進機(テンプの振動に合わせて動力を小出しにする機構)は、スイスレバー式を採る。その中核をなすガンギ車が、ニッケル・リン合金製である。この合金は常磁性で、磁場に置かれても磁化しにくい。鋼製の部品は強い磁場で磁化すると、周囲の部品と引き合い、振動の周期を乱す要因となりうる。
製法はUV-LIGAと呼ばれる。紫外線で感光性樹脂に型を描き、そこへ電気めっきで金属を成長させて部品をかたちづくる。切削では難しい精密な歯形を、高い再現性で得られる点が利点である。なお一部の資料は、アンクル(ガンギ車と噛み合うレバー)も同合金製とする。ただしロレックス自身の説明が明示するのは、ガンギ車である。
ヒゲゼンマイ——ブルーパラクロム
テンプの往復運動を律する渦巻き状のばね、ヒゲゼンマイにはブルーパラクロムが用いられる。ニオブとジルコニウムを主成分とする常磁性合金で、磁場の影響をほとんど受けない。表面の酸化層が青色を呈し、長期的な安定性を高める。ロレックスは、温度変化に強く、衝撃を受けた際の精度も従来のヒゲゼンマイの最大10倍に達するとしている。外端はブレゲ巻き上げとされ、伸縮の同心性を保つ。
テンプと耐震機構
調速機であるテンプは、緩急針を持たないフリースプラング方式である。歩度はリムに配したマイクロステラ・ナットで調整する。テンプは両端を支える全面ブリッジに据えられ、衝撃時の安定性を確保する。耐震装置には、兄弟機のCal.3132が採用したParaflexではなく、従来型のKIF式が用いられるとされる。
振動数・動力・認定
振動数は28,800vph (4Hz) である。テンプは1秒間に4往復(8振動)し、秒針は1秒を8歩で刻む。振動数が高いほど、姿勢変化や外乱の影響が平均化されやすいとされる。巻き上げは両方向回転のパーペチュアル・ローターが担い、パワーリザーブは48時間。エアキングで後を継いだCal.3230が約70時間を得たのに対し、3131の48時間は3100系の標準値である。
Cal.3131は、スイス公認クロノメーター検定協会(COSC)の検定に合格したクロノメーターである。2015年以降は、ロレックス独自のスーペラティブ・クロノメーター基準の下で出荷された。ケーシング後の日差-2/+2秒を求める基準である。