系譜と歴史
開発の背景 — ファットレディの宿題
ロレックスのGMT-Master IIは、1983年のRef.16760で幕を開けた。「ファットレディ」と呼ばれるこの初代は、独立時針を備えたCal.3085を搭載する。GMT-Master IIは、複数の時間帯を同時に追う乗務員や旅行者のために生まれた系譜である。新機構を収めるためケースは厚みを増し、均整をやや欠いた。実用性は高かったが、姿には改善の余地が残った。1980年代後半、ロレックスは自動巻の基盤を刷新する。1988年に基幹のCal.3135を発表し、堅牢性と整備性を一段引き上げた。GMT機の中核も、この新世代へ移す必要があった。
Cal.3135を母体とした再設計
その答えがCal.3185である。3135の構造を母体とし、独立時針機構を組み込んだ。先代3085が27石・厚さ7.2mmだったのに対し、3185は31石・6.45mmへ薄型化した。これにより、1989年登場のRef.16710は、初代より薄く整ったケースを取り戻した。機能は3085と同等のまま、姿と信頼性を磨き直した世代といえる。3185はGMT-Master IIだけでなく、Explorer II Ref.16570にも搭載された。24時間表示と組み合わせ、堅牢な実用時計の中核を長く担った。Ref.16710は1989年から2007年まで生産され、GMT-Master IIの中で最も普及した世代の一つとなった。
パラクロムへの世代交代
3185は1988年から2000年代半ばまで、長く現役を務めた。転機は、ロレックスがヒゲゼンマイ素材を自社開発したことにある。2005年、ニオブとジルコニウムの合金による「パラクロム・ブルー」ひげゼンマイを備えたCal.3186が登場した。常磁性で耐衝撃性に優れ、温度変化にも強い。3186はまず金無垢のGMT-Master II Ref.116718に搭載され、順次3185を置き換えた。日送り機構も見直され、時刻調整時に生じる24時間針の遊びは解消された。素材技術の前進が、長寿のCal.3185に静かに幕を引いた。