03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
1. 開発の背景
Cal. 2236の直接の前身は、1999年に登場したCal. 2235である。2235はレディ・デイトジャストをはじめ、小径のデイトモデルを長く支えてきた。ロレックスによれば、現行の28mmのレディ・デイトジャストは、同社のデイト付き腕時計として最も小さい。
2000年、ロレックスは自社開発のパラクロム・ヒゲゼンマイを導入し、以後は男性用キャリバーへ広げていった。その一方で、シリコンの時計応用を探る共同研究にも加わっていた。拠点はヌーシャテルのCSEM(スイス電子工学・マイクロテクノロジー・センター)である。パテック フィリップ、スウォッチ グループとともに資金を投じた研究であった。
2. 技術的革新
研究の成果が製品として現れたのは、2014年のバーゼルワールドであった。宝飾性の高いデイトジャスト パールマスター34に、シロキシ・ヒゲゼンマイを備えたCal. 2236が搭載された。ロレックス初のシリコン製ヒゲゼンマイの披露先が宝飾モデルであったことを、専門メディアは意外な選択と報じている。
新素材の初採用先に小型機が選ばれた理由を、ロレックスは詳しく語っていない。ただし小径のテンプは慣性が小さく、ヒゲゼンマイのわずかな形状誤差が歩度に表れやすい。姿勢差を形状で抑えるシロキシの特性は、小型機が抱えるこの弱点に応えるものと読める。
もう1つの革新は、部品を外部から調達せず、製造工程ごと内製化した点にある。シロキシはDRIE(深掘り反応性イオンエッチング)で自社製造される。ガンギ車のニッケル・リン合金部品も、社内で成形されると伝わる。特許は製法、形状、テン真への取り付け方法に及ぶとされる。パワーリザーブも先代から約6時間延び、約55時間に達した。
3. 派生と展開
2015年、2236はレディ・デイトジャスト28に採用された。ケースは26mmから28mmへ改められ、搭載キャリバーも2235から交代した。ヨットマスター37にも搭載され、2018年にはデイトジャスト31へ展開された。2026年現在も、ロレックスは2236をデイトジャスト31の搭載キャリバーとして案内している。
2020年には、デイト機構を持たない派生機Cal. 2232が登場した。搭載先はオイスター パーペチュアル28、31、34である。シロキシ、ニッケル・リン合金製ガンギ車、約55時間のパワーリザーブを2236と共有する。シロキシはその後、2023年登場のCal. 7140(パーペチュアル 1908)にも採用された。2025年にはランドドゥエラーのCal. 7135へも広がっている。婦人用モデルで始まった技術が、新世代キャリバーの共通要素へ育ったことになる。
4. 業界での位置
シリコン製ヒゲゼンマイの製品化では、2006年のパテック フィリップ「スピロマックス」とブレゲが先行した。オメガも2008年に続いている。温度補償型シリコンヒゲの基本技術は、CSEMが2002年に出願した欧州特許で保護されていた。その利用は、共同研究の参加企業などに限られていたとされる。ロレックスは、先行2社から8年後の2014年に自社版を世に送り出した。
各社が示した解は一様ではなく、ヒゲゼンマイの形状や製造体制はブランドごとに異なる。ロレックスは従来のマイクロステラ付きテンワを踏襲しつつ、ヒゲゼンマイの形状と取り付けに独自の設計を求めた。基本特許は2022年に満了し、シリコン部品は業界全体へ広がりつつある。2236は、その流れの中でロレックスが自社の流儀を示した最初の実例といえる。
04 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
基本構成と数値の意味
Cal. 2236は、中央3針と3時位置のデイト表示を備える自動巻キャリバーである。直径は20.00mmとされ、石数は31石である。振動数は28,800vph (4Hz)で、テンプ(時を刻む振り子にあたる輪)が毎秒4往復、すなわち8回の振動を刻む。秒針が1/8秒刻みで進むのはこのためである。振動数を上げれば外乱の影響を受けにくくなる一方、消費するエネルギーは増える。4Hzはその均衡点として、現代の自動巻で広く用いられる値である。パワーリザーブは約55時間で、外した状態でも2日以上動き続ける。
シロキシ・ヒゲゼンマイ
調速の中核は、ロレックスが自社で製造するシロキシ・ヒゲゼンマイ(Syloxi)である。ヒゲゼンマイとは、テンプに復元力を与える渦巻き状のばねを指す。素材はシリコンで、表面を酸化ケイ素の層が覆う。名称もこの2つの素材に由来する。シリコン単体は温度によって弾性率が変わる。逆向きの性質を持つ酸化層がそれを打ち消し、温度変化に対する歩度の安定をもたらす。シリコンは磁化しないため、磁気による精度の乱れも受けにくい。
形状面の特徴は、平ヒゲでありながら同心的に伸縮する点にある。巻線の間隔と厚みを長さ方向で変化させる特許形状により、姿勢差を抑える設計とされる。パラクロム・ヒゲゼンマイは外端を持ち上げた巻き上げヒゲで同じ目的に取り組むが、シロキシはこれを一平面内で図る。高さに余裕の少ない小型機と相性のよい構成と考えられる。テン真への取り付けも、ピン留めや接着に頼らない独自の方式と伝わる。ロレックスは、衝撃を受けた場合でも従来のヒゲゼンマイに比べて最大10倍の精度を保つと説明している。
脱進機と耐震装置
脱進機(ゼンマイの力を一定のリズムで解放する機構)はスイスレバー式で、ガンギ車にニッケル・リン合金を用いる。常磁性の素材であり、シリコン製のヒゲゼンマイと合わせて、振動系の主要部品を磁気の影響から遠ざける。
テンプの軸受けには、ロレックスが2005年に開発したパラフレックス耐震装置(Paraflex)を備える。ばねの形状をコンピューター解析で最適化し、耐衝撃性を最大50%高めたとされる機構である。精度の調整は、テンワに取り付けた2つの金製マイクロステラ・ナットで慣性モーメントを直接変える方式による。テンプは両持ちの受けで支持されるとされる。
自動巻と香箱
巻き上げは、1931年にロレックスが実用化したパーペチュアル・ローターによる両方向巻きである。香箱では主ゼンマイの固定方法に特許技術を導入し、パワーリザーブの延長に寄与したとされる。時刻合わせの際に秒針を止めるストップセコンド機能を備え、デイトは日付の変わり目に瞬時に切り替わる。日付の早送りも可能である。
認定基準と保守性
Cal. 2236は、まずCOSC(スイス公式クロノメーター検査協会)でムーブメント単体の認定を受ける。そのうえで、ケーシング後の完成品としてスーペラティブ・クロノメーターの社内試験を経る。ロレックスが2015年に再定義した基準で、精度は日差-2/+2秒と、COSCが単体に認める-4/+6秒より狭い。試験は精度に加え、パワーリザーブ、防水性、自動巻性能にも及ぶ。
保守の面では、シリコン製ヒゲゼンマイは金属製のように手作業で形を整え直すことができないとされる。交換部品の供給を製造元に委ねる点は、シリコン部品を採用した現代のキャリバーに共通する性格である。