系譜と歴史
1. 60年余りの空白
ロレックスと月齢表示の関係は、1940年代末にさかのぼる。1949年のRef.8171と1950年のRef.6062は、トリプルカレンダーに月齢表示を組み合わせたモデルであった。しかし両機の生産は1953年頃に終わり、以後ロレックスのカタログから天文表示は長く姿を消す。
転機は2014年のチェリーニ・コレクション刷新である。ロレックスは39mmの金無垢ケースでドレスラインを再構築し、タイム、デイト、デュアルタイムの3系統を揃えた。いずれも実用的な機能に絞った構成であった。2017年のバーゼルワールドで、そこにRef.50535「チェリーニ ムーンフェイズ」が加わる。その心臓部がCal.3195である。1950年代前半以来、60年余りを経た月齢表示の復帰であった。
2. 「読む月齢」という設計
Cal.3195の核心は、ロレックスが特許取得と説明する月齢モジュールにある。公称精度は122年で1日。補正を前提とする装飾的な表示から、一度合わせれば長く狂わない機能へと月齢表示を引き上げる試みといえる。
表示の作法も独特である。発表の場でロレックスは、他社の月齢表示とは異なるものを目指したと説明したと伝えられる。一般的な月齢表示は窓の縁で満ち欠けを演出する。対してCal.3195は盤面そのものを回し、固定された指標で月齢を読ませる。周縁の日付を中央の針で指し、6時位置に月齢を置く配置にも来歴がある。専門メディアは、Ref.6062やRef.8171の文字盤構成との共通性を指摘している。
3. 3100系からの派生と終幕
Cal.3195は、ロレックスの基幹自動巻き群である3100系に連なる。チェリーニ各機にはCal.3132、3165、3180が用いられた。Cal.3195は、これらと同じ土台に月齢機構を重ねた派生機と位置づけられる。専門メディアの中には、日付なしのCal.3130を基盤とするとの記述もある。
搭載モデルはRef.50535の1機種に限られ、ケース素材も18Kエバーローズゴールドのみであった。2022年時点の公式資料は、本機を天文機能を備えた唯一のロレックスとしている。2023年、チェリーニ・コレクションは幕を下ろし、ドレスラインはパーペチュアル 1908へ引き継がれた。Cal.3195の生産も、この時点で終えたとみられる。
4. 継承と業界での位置
2026年9月、ロレックスは年次カレンダーと月齢表示を備えたパーペチュアル パデローネを発表した。搭載するCal.7190はCal.7135を基盤とする5Hzの新世代機であり、Cal.3195の直系ではない。ただし1朔望月で1回転する青いエナメル盤と、隕石を用いた月という表現は受け継がれている。専門メディアも、同機をチェリーニ ムーンフェイズの発展形として読めると評した。
高級時計の分野では、100年を超える長期精度を掲げる月齢機構は珍しくない。Cal.3195は、基礎設計を一から起こさず、量産実績のある3100系に月齢機構を統合したとされる。複雑機構にも同じ耐久性と精度認定を求める、ロレックスの設計姿勢を映したキャリバーである。