設計思想
ファットレディからの世代交代
GMTマスターIIの初代は1983年に登場した16760である。新開発のCal.3085を収めるためケースが厚くなり、「ファットレディ」の通称で呼ばれた。素材はSSのみ、ベゼルも赤黒の通称コークだけという限定的な展開だった。1989年、薄型化された新ムーブメントCal.3185の完成を受けて、第2世代が登場する。SSの16710、SSと18Kイエローゴールドを組み合わせた16713、金無垢の16718という3素材構成となり、GMTマスターIIは初めてロレゾール(ロレックスにおけるコンビの呼称)を得た。16713はその二色金仕様の基幹として、約17年にわたり生産されることになる。
ルートビアの系譜を継ぐ
二色金のGMTマスターには、1970年代の1675/3以来、茶系のベゼルや文字盤を組み合わせた仕様が存在し、「ルートビア」の愛称で親しまれてきた。俳優クリント・イーストウッドが愛用したことから、彼の名で呼ばれることもあると伝わる。先代の二色金GMTマスター16753が1980年代末に生産を終えると、この系譜は16713へ引き継がれた。ただし単純な後継ではない。16753が短針と24時間針の連動するGMTマスターだったのに対し、16713は短針を単独で動かせるGMTマスターIIである。意匠の継承と同時に、機構面では世代の飛躍を伴っていた。
二色金という時代の気分
1980年代末から1990年代にかけて、SSとゴールドのコンビは高級スポーツウォッチの主流の一角を占めた。同時期のサブマリーナ16613と同様、16713はツールウォッチの機能とドレスウォッチの装飾性を一本で両立させる選択肢だった。なお、単機能版のGMTマスター16700は1999年まで併売されたが、ロレゾールが用意されたのはII系のみである。二つの時刻を実用的に追う旅行者の道具でありながら、金の輝きをまとう。この二面性こそが16713の本質であり、当時の市場感覚を映す鏡でもあった。
後継への交代と長い空白
2006年のバーゼルワールドで、セラクロムベゼルを備えた後継機116713LNが発表され、16713は役目を終えた。ただし116713LNのベゼルは黒のみで、茶と金のルートビアは用意されなかった。ブラウンベゼルの二色金GMTが復活するのは、2018年の126711CHNR(エバーローズゴールド仕様)まで待つことになる。結果として16713は、イエローゴールドとルートビアベゼルを組み合わせた最後の二色金GMTマスターIIとなった。アルミベゼル世代のロレゾールという固有の立ち位置が、このRefの記憶を今も特別なものにしている。
意匠分析
16713のケースは直径40mm、厚さ11mm。先代世代の16760が厚いケースで知られたのに対し、Cal.3185の薄型化によって標準的なオイスターケースのプロポーションへ回帰した。基本形状はSSモデルの16710と共通だが、ベゼル、リューズ、ブレスレット中央リンクに18Kイエローゴールドを配し、印象は大きく異なる。リューズはツインロックで、防水は100m。深度性能よりも日常の堅牢性を担保する設計である。
ベゼルはアルミインサートの回転式で、2種が用意された。黒インサートは目盛りをゴールドで刷り、ケースの金色部分と呼応させる。もう一方が茶と金の二色からなる通称ルートビアで、本機の代名詞となった。アルミは紫外線で退色する性質を持ち、個体ごとに色調の差が生まれる点も後年は個性として語られる。
文字盤は黒、ブラウンのサンレイ仕上げ、シャンパン、ダイヤモンドとルビーをあしらったセルティなど複数が存在する。注目すべきはインデックスの近代化である。先代16753までの二色金GMTがドーム状のニップルインデックスを用いたのに対し、16713はイエローゴールドの縁取りを持つアプライドインデックスと夜光を組み合わせた。針も金色のメルセデスハンドで、現行世代へ続く意匠の文法がここで確立された。
Cal.3185は毎時28,800振動(4Hz)、パワーリザーブ約50時間。テンプを両持ちのブリッジで支え、マイクロステラナットで緩急を調整する。最大の特徴は短針の独立操作で、リューズ操作により短針だけが1時間刻みで動き、日付も連動して切り替わる。秒を止めずに現地時刻へ合わせられる、いわゆるトラベラーGMTの機構である。
ブレスレットはオイスターとジュビリーの2種で、いずれも中央リンクに金を用いる。初期は中空エンドリンクだったが、後年ソリッドエンドリンクへ改められ、剛性感が向上した。
系譜と歴史
WatchBaseの記録では、16713の生産開始は1989年4月である。同年、SSの16710、金無垢の16718とともに第2世代GMTマスターIIの一角として展開された。初期の個体はトリチウム夜光(文字盤下部にT<25表記)で、ブレスレットは中空エンドリンク、ラグには穴が開けられていた。1998年頃に夜光がルミノバへ切り替わり、2000年前後にはスーパールミノバへ移行、文字盤表記もSwissからSwiss Madeへ変わった。2000年頃にはブレスレットがソリッドエンドリンク化される。同じ頃、スレートグレーのセルティダイヤルが短期間だけ追加されたとされる。2002〜2003年頃にはラグ穴が廃止され、ケース刻印が16713Tへ変わったと伝わる。2003年頃からは風防の6時位置に王冠のレーザー刻印が入る。生産末期の個体には、パラクロムヒゲゼンマイを備えたCal.3186の搭載例があるとされる。生産終了時期について、WatchBaseは2005年と記録する一方、複数の専門メディアは2006年までとしており、記録は分かれる。いずれにせよ2006年のバーゼルワールドでセラクロムベゼルの116713LNが発表され、16713は約17年におよぶ生産の幕を閉じた。茶と金のルートビアベゼルがGMTマスターIIへ戻るのは、2018年の126711CHNRを待つことになる。