設計思想
25周年の節目に問われた現代化
Seamaster Professional Diver 300Mは1993年に登場し、1995年公開の『GoldenEye』でピアース・ブロスナン演じるジェームズ・ボンドが着用したことで、Omegaを代表する顔の一つとなった。2018年は同シリーズ生誕25周年にあたり、Omegaはバーゼルワールドで全14モデルから成る第4世代コレクションを一斉に発表した。本Ref 210.30.42.20.01.001は、その中で最も伝統的な構成、すなわちオールステンレススチール・ケース、黒セラミック・ベゼル、黒ダイヤル、ステンレスブレスレットという核となる組み合わせを担うピースである。
前任Refからの世代交代
本Refの直接の前任は、Cal.2500を搭載した41mm径のRef 212.30.41.20.01.003である。新世代で最も大きな変更は、ケース径が41mmから42mmへと1mm拡大された点にある。これは外観上の刷新だけでなく、わずかに大径化した新世代ムーブメントCal.8800を収めるための設計判断でもあった。前任で平坦な黒地だった文字盤は、研磨仕上げの黒セラミックに改められ、レーザー彫刻による波模様が復活した。ベゼル・インサートの素材は前世代から引き続き黒セラミックだが、目盛の充填材は塗料から白エナメルへと変更され、長期使用での白さの保持が改善されている。デイト表示の位置は3時から6時へ移された。
第4世代の基準点としての位置
第4世代Seamaster Diver 300Mは、Omegaが2015年のGlobemaster以降、自社製ムーブメントへ順次展開してきたMaster Chronometer規格を本シリーズへ初めて全面適用した世代である。本Refはその新基準を最もオーソドックスな素材構成で表現したモデルであり、同じ第4世代プラットフォームに連なる派生Refの基点として機能する。チタン製の『No Time to Die』仕様210.90.42.20.01.001、グリーンセラミックの210.30.42.20.10.001、ジェームズ・ボンド60周年記念のCanopus Goldモデル210.55.42.20.99.001など、共通の基盤の上に構築された一連のモデルが、本Refの周囲に位置を占めている。
意匠分析
ケース形状はLyre Lugと呼ばれる二股のラグを残しながらも、ヘアラインとポリッシュの境界が前世代より明確に切り分けられている。リューズはねじ込み式で、3時位置のケースサイドには竜頭ガードを持たない。10時側のヘリウムエスケープバルブは、それまでのねじ込み式の円筒ノブから、ケース外周になめらかに溶け込む円錐形デザインへと再設計された。風防はドーム型のサファイア・クリスタルで、両面に反射防止コーティングが施される。
文字盤の地は研磨仕上げのジルコニア・セラミック(ZrO2)で、表面の波模様はレーザー彫刻により形成される。前任Refでは平坦な黒地として省略されていた波模様が、ガラスのような光沢を持つ黒地に光と影で浮かび上がる構造として復活した格好である。アプライドのスティック/ドット・インデックスはロジウム鍍金に白いSuper-LumiNovaを充填し、同じくロジウム鍍金のスケルトン針は先端まで夜光を備える。秒針の先端には赤いアクセントが入り、無彩色の文字盤に唯一の差し色として機能する。ベゼル・インサートは研磨黒セラミックで、ダイバーズ目盛には白エナメルが充填される。
ブレスレットは伝統的な5列リンク構成を引き継ぐが、エンドリンクとクラスプは新規設計である。Omega特許のフォールドオーバー式ラック・アンド・プッシャー機構と、ウェットスーツ越しの装着を想定したダイバー・エクステンションを備える。ケースバックは外周を波形に縁取り、中央にはサファイアの覗き窓を持つ。窓越しにはCal.8800の自動巻きローターとブリッジに施されたアラベスク模様のジュネーブ波仕上げを確認できる。
系譜と歴史
発表は2018年3月、スイスで開催されたBaselworld 2018の場でなされた。Seamaster Diver 300Mシリーズ生誕25周年を機に第4世代として一斉に発表された全14モデルのうち、本Refはオールステンレススチール6モデルの一角を成し、その中で最もオーソドックスな黒×黒の組み合わせを受け持つ基幹Refとして位置付けられた。発表時の希望小売価格は4,400スイスフランからのコレクション内に置かれ、本Refは2018年内に正規流通網へ並んだ。
2019年12月には派生Refとして『No Time to Die』仕様のチタン製210.90.42.20.01.001がアナウンスされ、翌2020年2月より発売されている。2022年には同じ42mm系のラインナップにグリーンセラミック文字盤の210.30.42.20.10.001が追加され、ベースとなる素材構成を共有する兄弟Refが拡充された。2024年にはCal.8806を搭載するデイトなし仕様の210.30.42.20.01.010が常設コレクションに加わっている。本Refは2026年5月時点でOmega公式オンラインカタログに引き続き掲載されており、第4世代の中核Refとして現行生産が続けられている。