設計思想
1. 取り残されつつあった基幹モデル
2006年、ダイバー300Mは2220.80へ更新された。1993年以来の外観を保ったまま、ムーブメントをコーアクシャル脱進機搭載のCal.2500へ切り替えた改良型である。同年公開の『カジノ・ロワイヤル』では、ダニエル・クレイグがこのRefを着用したとされる。
その後、オメガの関心は2007年に登場した自社設計のCal.8500系へ移っていく。プラネットオーシャンやアクアテラが新世代の機械と素材をまとう一方、ダイバー300Mはアルミベゼルと波模様の文字盤という1990年代の意匠を保ち続けた。本機は、その差を外装から埋めるための一手として登場したと読める。
2. 変えたものと、変えなかったもの
変わったのは、手に触れ、目に入る部分である。傷と褪色が避けられなかったアルミのベゼルインサートはセラミックに置き換えられ、文字盤は平滑な光沢面になった。
変わらなかったのは骨格だ。41mmのケースも、ETA系を母体とするCal.2500系ムーブメントも、先代から引き継がれた。Cal.8500系を採用しなかった理由について、公式な説明は見当たらない。既存のケースに収まる機械を選び、刷新の範囲を外装に絞った結果と推察される。外観の変化に比して内部の変化が小さい点に、本機の過渡的な性格がよく表れている。
3. 波のない唯一の世代
1993年の初代から2011年頃まで、ダイバー300Mの青い文字盤には波模様が入るのが通例だった。本機はそれを外した。シリーズの記号を手放したこの判断は、発表当初から愛好家の間で賛否を呼んだと伝わる。
2018年の後継では、波模様がレーザー彫刻によって復活した。結果として本機とその兄弟は、標準的なダイバー300Mの中で平滑な文字盤を持つ数少ない世代として記憶されることになった。
4. 兄弟と後継
同世代には、黒文字盤と黒セラミックベゼルを組み合わせた212.30.41.20.01.003がある。両者の直前には、Cal.2500と波模様の文字盤、スチールベゼルを組み合わせた黒の212.30.41.20.01.002が存在したとされる。
後継は、2018年のバーゼルワールドで発表された210.30.42.20.03.001である。ケースは42mmへ拡大され、厚さは13.56mmとなった。ムーブメントは自社設計のCal.8800となった。後継が機械と規格を一新したのに対し、本機は1993年から続いた41mmの骨格を最後まで使い切った世代にあたる。
意匠分析
ケースは1993年の初代2531.80から続く41mmの骨格を受け継ぐ。スキャロップ状の刻みを持つベゼル、ねじれた形状のラグ、10時位置のヘリウムエスケープバルブという三つの記号は、この世代でも手を加えられていない。ラグ幅は20mm。後継の42mmケースより一回り小さく、細めの手首にも収まりやすい。
本機の意匠上の核心は、ブルーのセラミック製ベゼルインサートである。アルミ時代のようなマットな風合いはなく、光沢のある面に白の60分目盛りが入る。この光沢は文字盤とも呼応する。波模様を廃した文字盤は艶のあるブルーラッカー仕上げで、ベゼルと質感が揃うことで、正面から見たときに一枚の面としてまとまる。インデックスは円形とバーを組み合わせたアプライドで、夜光を充填した立体的な造形が光沢面に影を落とす。
針はシリーズ伝統のスケルトン型を継承する。夜光は文字盤と針が青く発光し、分針とベゼルの12時のピップだけを緑に光らせる仕様とされる。潜水中に経過時間を読む分針を、暗所でも色で即座に見分けられる配慮である。日付窓は3時位置に置かれる。
ブレスレットはヘアラインとポリッシュを組み合わせたリンク構成で、折り畳み式のクラスプで留める。
ムーブメントはCal.2500系(D版とされる)である。ETA 2892-A2を基にしたCal.1120へ、ジョージ・ダニエルズが考案したコーアクシャル脱進機を組み込んだもので、完全な自社設計ではない。グループ内の基幹エボーシュを大きく改変した、いわば第三の類型に属する。コーアクシャル脱進機は、ガンギ車を同軸に重ねて衝撃を分担させ、摩擦を抑える構造である。振動数は毎時25,200振動 (3.5Hz)、パワーリザーブは48時間。COSCのクロノメーター認定を受けるが、後継が取得したMETASのマスター クロノメーター認定の対象ではない。裏蓋はソリッドで、機械は外から見えない。
系譜と歴史
212.30.41.20.03.001は、2012年頃に市場へ投入されたとされる。発表の場と正確な月については、オメガの一次資料で確認できていない。販売店の記録や愛好家の証言を総合すると、流通が本格化したのは2012年から2013年にかけてと見られる。同時期に黒文字盤・黒セラミックベゼルの212.30.41.20.01.003が用意され、両者は兄弟として並行して生産された。
搭載するCal.2500Dは、1999年に量産化されたCal.2500系の最終版にあたる。
生産期間中、外装に目立った仕様変更は確認されていない。文字盤の刷りやブレス構成に関する小変更の記録も、現時点では見当たらない。
2018年3月、バーゼルワールドでダイバー300Mの誕生25周年を記念した刷新版が発表された。ブルー仕様の後継は210.30.42.20.03.001で、ケースは42mmとなり、ムーブメントはマスター クロノメーター認定のCal.8800へ移った。これを機にラインナップの主役は新世代へ移行したが、本機の生産は2019年頃まで続いたとする販売店の記録もある。正確な生産終了年は公表されていないものの、現在は生産終了品である。
出典
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