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HERMèS · SERIES · SINCE 2015 · 現行

Slim d'Hermès

スリム ドゥ エルメス

文字盤の書体から極薄のマイクロローターまで、グラフィックの論理で設計されたエルメスの現代ドレスウォッチ

since 2015 現行 掲載モデル 39.5 mm
01 — 概要 / SUMMARY

Slim d'Hermès(スリム ドゥ エルメス)は、2015年にエルメスが発表したドレスウォッチのシリーズである。グラフィックデザイナーのフィリップ・アペロワが手がけた抜き文字の数字と、ヴォーシェ製の極薄マイクロローター自動巻Cal. H1950を核に、引き算の美学で構成される。タイムオンリーのManufacture、永久カレンダーのQuantième Perpétuel、待つ時間を奏でるL'Heure Impatiente、機械を露わにするSquelette Luneへと派生し、1991年のCape Cod以来となる、エルメスの新しい定番シリーズである。

02 — STORY · 物語

Slim d'Hermès(スリム ドゥ エルメス)、これまでの軌跡

The story of this series
01

Cape Cod以来の、本格機械式という空白

エルメスが時計を手がけてきた歴史は長い。だが自社開発の機械式を核に据えた本格的なシリーズという点では、長く空白があった。1978年にビエンヌでラ・モントル・エルメスを設立して以降、ArceauやHeure H、1991年のCape Codといった意匠性の高いモデルを生んできたものの、機械の中身まで自前で語れる円形の定番は持たなかった。

転機は2006年である。この年エルメスは、フルリエの専業ムーブメントメーカーであるヴォーシェ・マニュファクチュールに25%を出資した。自社で薄型の機械を仕立てる足場が、ここで整う。2012年にはダイヤル製造のナテベールも傘下に収め、文字盤と機械の両方を手の内に持つ準備が進んだ。Slim d'Hermèsは、こうして整った地盤の上に立つ、Cape Cod以来となる完全な新ラインだった。

02

2015年、書体から始まった時計

2015年、エルメスはSlim d'Hermèsを発表した。設計を率いたのはクリエイティブディレクターのフィリップ・デロタルである。彼が必要としたのは二つだった。極薄の自動巻と、文字盤の新しい顔である。

機械はヴォーシェと共同開発した自社キャリバーCal. H1950。直径30mm、厚さ2.6mmのマイクロローター自動巻で、毎時21,600振動 (3Hz)、約42時間のパワーリザーブを持つ。橋(ブリッジ)は手作業で面取りされ、エルメスの機械に共通する「Hを散らした」装飾が施される。

もう一つの顔、文字盤の数字は、グラフィックデザイナーのフィリップ・アペロワに委ねられた。ルーヴル美術館のアートディレクターを務めた経歴を持つ彼は、ソー・エルメスの視覚表現を手がけた縁でこの仕事に加わる。アペロワが描いたのは、輪郭に余白を含む抜き文字の数字だった。時計の文字盤としては前例の少ない発想であり、これがシリーズの決定的な個性になる。

発表時のラインは、スモールセコンドのみのManufactureと、永久カレンダーのQuantième Perpétuelの二本が軸だった。後者はH1950に、アジュノール(Agenhor)のジャン=マルク・ヴィドゥレクが設計した厚さ1.4mmの永久カレンダーモジュールを重ね、ムーンフェイズと第二時間帯まで備えながら全体を薄く収めた。女性向けには25mmと32mmのクォーツモデルも用意された。

03

工芸と「詩」へ

シリーズは早くから、技術一辺倒ではない方向へ広がっていく。2016年のSlim d'Hermès Émail Grand Feuは、ル・ロックルのドンゼ・カドランが手がけるグランフー(大火焔)エナメルの文字盤をまとった100本限定で、アペロワの数字をエナメルの白の上に置いた。

2017年のL'Heure Impatienteは、エルメスの時計観を端的に示す一本である。待ち望む予定の時刻を12時間以内でセットすると、その1時間前から6時位置のカウントダウンが動き出し、定刻に一度だけ音が鳴る。アジュノールが5年をかけて開発したこの「せっかちな時間」モジュールは厚さ2.2mm、131部品からなる。これを載せるためにエルメスは、あえてやや小径のCal. H1912を選び、ケース内に音を響かせる空気の余地を確保した。時計が感情をかき立ててよいという発想が、ここに形を得た。

04

複雑機構の成熟とスケルトン

その後シリーズは、複雑機構を静かに増やしていく。2017年には永久カレンダーにプラチナのモデルが加わり、2018年には独立したGMTモデルが続いた。39.5mmという径と、抑えた厚みは保たれたままである。

2021年には、機械そのものを見せるSlim d'Hermès Squelette Luneが登場する。H1950系をスケルトン化したCal. H1953を搭載し、6時位置に南北両半球を示すダブルムーンフェイズを置いた。地板や橋を削り込みながら、シリーズの薄さと静けさは崩れない。飾るためではなく、構造を読ませるための透かし彫りだった。

05

10年目の現在地

2025年、Slim d'Hermèsは発表から10年を迎えた。同年12月には、初代をなぞるローズゴールドのQuantième Perpétuelが再び登場し、ローズゴールドのSquelette Luneと新しいGMTも加わった。

エルメスにとって時計は、売上の数%を占めるにすぎない事業である。それでも時計部門は、多くの高級ブランドが伸び悩む局面で、生産能力を着実に広げてきた。書体一つから始まったこのシリーズは、いまやエルメスが機械式時計を語るときの背骨になっている。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

Slim d'Hermèsが最も大切にするのは、足すことではなく引くことである。設計の中心にあるのは文字盤の数字であり、これはグラフィックデザイナーのフィリップ・アペロワが描いた専用書体に拠る。数字の輪郭には細い切れ目と余白が刻まれ、視線が抜ける。この抜け感が、広い盤面に置かれてもなお軽やかで、シリーズ固有の表情を生む。

盤面は三つの層で構成される。外周のシャプター(時字環)、中央のディスク、そして6時位置のスモールセコンド。段差が浅い陰影を作り、平面でありながら奥行きを感じさせる。ケースは円形だが、ラグは内側へ向けて斜めに削がれ、薄いベゼルとともに端正な輪郭を描く。シリーズの設計は、クリエイティブディレクターのフィリップ・デロタルが率いた。

薄さもまた、このシリーズが手放さなかった価値である。巻き上げ機構をローター径の内側に収めるマイクロローターを採用することで、自動巻でありながらケースを薄く保つ。複雑機構を載せた永久カレンダーでさえ全体で約9mmにとどまる事実が、薄さへの執着を物語る。針は細いバトン型に徹し、数字の抜け感と呼応する。読みやすさは夜光やコントラストではなく、書体と余白の配置から導かれる。

同時代のドレスウォッチ、たとえばパテック フィリップのCalatravaやA. ランゲ&ゾーネのSaxonia、ピアジェのAltiplanoと比べたとき、Slim d'Hermèsの輪郭はやや異なる。伝統的なローマ数字やギヨシェ装飾に寄らず、書体というグラフィックの論理を時計に持ち込んだ点に独自性がある。色を抑え、装飾を抑え、サイズを抑える。その自制の上に、抜き文字の数字だけが静かに主張する。派手にしないという判断こそが、このシリーズの設計言語である。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
2015-現在
Cal. H1950
ヴォーシェ製、極薄マイクロローター自動巻の基幹機。
2015-現在
クォーツ(25 / 32mm)
25・32mmの女性向けモデルに搭載される。
2017-現在
Cal. H1912
やや小径の自動巻。複雑機構の搭載余地を確保。
2021-現在
Cal. H1953
H1950系をスケルトン化した透かし彫り仕様。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
2015

シリーズ誕生

Manufacture Quantième Perpétuel
時刻のみと永久カレンダーで始動、抜き文字数字を確立。
2016-2017

工芸と詩的複雑機構

Émail Grand Feu L'Heure Impatiente
グランフーエナメルと、待つ時間を奏でる複雑機構を追加。
2017-2018

複雑機構の拡張

Quantième Perpétuel(Pt) GMT
プラチナの永久カレンダーと独立したGMTを加えた。
2021

機械美の開示

Squelette Lune
スケルトン化とダブルムーンフェイズで機械を見せる。
2025-現在

10周年の現在地

Quantième Perpétuel(RG)ほか
初代をなぞる復刻と新作で10周年を画した。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

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06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 5 モデル

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