設計思想
「101」が背負ってきたもの
LM101は2014年、レガシーマシンの3作目として登場した。LM1(2011年)とLM2(2013年)が複雑化の道を示した後、MB&Fはあえて逆を選び、時刻とパワーリザーブ、そして文字盤上に浮かぶテンプだけに絞った「機械式時計の基礎=101」を打ち出した。搭載キャリバーはMB&Fが初めて設計から自社で完結させたもので、仕上げの規範はカリ・ヴティライネンが監修した。40mmという径もまた、44mmの兄機に対する明確な回答だった。52.SL.BLを理解するには、この「純化の系譜」が前提になる。
2021年世代の再設計
2021年、LM101は7年ぶりに大きく手を入れられた。狙いは複雑化ではなく、さらなる削ぎ落としである。ベゼルは細められ、文字盤上の「Legacy Machine」刻印は撤去され、2枚のサブダイヤルはわずかに拡大された。パワーリザーブの目盛りは5つの数字から45・30・15の3つへ整理されている。機構面では、2020年のH. Moser & Cie.とのコラボレーションモデルで初採用されたStraumann製ダブルヘアスプリングが通常コレクションに降り、部品数は229から231へ増えた。裏側のブリッジにはNAC処理による黒色仕上げが加わり、19世紀調の仕上げに現代的な陰影を与えている。
ステンレスという事件
この世代で最も語られたのは素材である。MB&Fは貴金属とチタンを基本としてきた工房であり、ステンレススチールの前例は2017年のHodinkee限定LM101、わずか10本に限られていた。52.SL.BLはそのステンレスを、限定ではない通常コレクションとして初めて採用した機械である。価格もレガシーマシン系で最も手の届く位置に置かれ、独立系時計への関心が急速に高まった2021年という時期において、MB&Fへの新たな入口として機能した。ライトブルーのトッププレートという、貴金属版より明度の高い色を与えられた点も、スチールの性格付けとして読める。
兄弟機とその後
52.SL.BLには、パープル文字盤のホワイトゴールド版52.WL.P、ロイヤルブルー文字盤のレッドゴールド版52.RL.BLという同世代の兄弟機が存在する。3本は寸法も機構も共有し、素材と色で性格を分けた構成である。その後の2025年には、チタンケースに耐衝撃機構を組み込んだLM101 EVOが登場し、LM101系は日常使用へさらに歩み寄った。クラシックな本機はその後も継続しており、2021年世代はLM101の現行の基準点であり続けている。
意匠分析
ケースは直径40mm、風防を含む厚さ16mm。2021年世代はベゼルが先代より細められ、ドーム型サファイアの存在感が一段と増した。ベゼルとラグ上面はポリッシュ、ケースバンドとラグ側面はブラッシュ仕上げで、丸みのあるフォルムに光の階調を与えている。
文字盤側の主役は、サンレイ装飾を施したライトブルーのトッププレートである。これはムーブメントの地板上面そのものであり、その上に2枚の白いサブダイヤルが浮かぶ。サブダイヤルはラック・タンデュ(laque tendue)と呼ばれる伸展ラッカーで艶を与えられ、固定ビスを見せないよう下側から留められる。縁には金色のリングが回り、右上の時分表示には青く焼き付けたゴールド針が載る。6時位置のパワーリザーブは45・30・15のみを刻む簡潔な表示で、視線を散らさない。
そして直径14mmのフライングバランスが全景を支配する。一体削り出しの上で鏡面に磨かれたダブルアーチに吊られ、4つの調整ネジを備えたテンワが毎時18,000振動 (2.5Hz)でゆっくりと往復する。2021年世代はここにStraumann製ダブルヘアスプリングを組み込み、片持ち構造で生じやすい重心の偏りを2本のひげゼンマイで相殺する。
裏返せば、ボックス型サファイアの下にNAC処理で黒く染めたブリッジが現れる。ジュネーブ波、面取り、ゴールドシャトンに収めた大粒のルビーといった19世紀流の手仕上げを、黒地が引き締める構成である。手巻きで45時間のパワーリザーブを備え、ストラップは手縫いのアリゲーターまたはカーフにステンレス製尾錠を合わせる。
系譜と歴史
52.SL.BLは2021年5月11日、ホワイトゴールドの52.WL.P、レッドゴールドの52.RL.BLとともに専門メディアを通じて一斉に公開された。サロンでの披露ではなく、通常コレクションへの追加という形での発表である。発表時の価格はスチール仕様がCHF 49,000(税抜)、米国向けはUSD 56,000(税抜)で、貴金属版2本のCHF 59,000より低く設定されている。本数を区切った限定ではないものの、MB&Fの年産規模は小さく、実質的には少量生産である。
ステンレス仕様には発表直後から注文が集中したとされ、2021年末の時点で納品が2025年に及ぶ長い順番待ちが生じていたと伝わる。3本の中で最も入手に時間を要する仕様となったのは、素材の希少性と価格設定の双方によるものとみられる。
生産期間中、文字盤や機構に関する公式な仕様変更は確認されていない。2025年9月にはジュネーブ・ウォッチ・デイズでチタンケースのLM101 EVOが発表されたが、これは別系統の派生であり、52.SL.BLを置き換えるものではない。2026年6月現在、本機はMB&F公式サイトのレガシーマシン現行ラインアップに掲載され、生産は継続している。