設計思想
「101」が背負うもの
LM101は2014年に誕生した、レガシーマシン最小のモデルである。LM1とLM2に続く、より複雑なLM3ではなく、あえて簡潔な一本として生まれた。名称の「101」は入門講座を意味する英語表現を思わせ、機械式時計の本質——時刻、パワーリザーブ、そしてテンプ——だけに絞り込むという宣言だった。同時にこのモデルは、MB&Fが初めて完全に自社で設計開発したムーブメントを積む転換点でもあった。仕上げと美観の監修は独立時計師カリ・ヴティライネンが担い、19世紀懐中時計の様式に忠実な手仕上げが施される。
52.RL.BLを理解するには、この「原点としてのLM101」が7年を経て迎えた更新である、という文脈が要る。
2021年、第2世代への移行
2021年5月、MB&FはLM101の新世代3モデルを同時発表した。ステンレススティール×ライトブルー(52.SL.BL)、ホワイトゴールド×パープル(52.WL.P)、そして本機レッドゴールド×ロイヤルブルーである。スティールの採用はMB&Fでは異例で、コレクションの門戸を広げる意図が読み取れる。
技術面の核心は、シュトラウマン製ダブルヒゲゼンマイの採用である。2本のヒゲゼンマイを180度対向で重ねることで重心の偏りを相殺し、等時性と姿勢差を改善する機構で、2020年のH.モーザーとのコラボレーション「LM101 MB&F × H. Moser」で初めて試された解が、レギュラーモデルへ還流した格好だ。部品数はわずかに増えたとされる。
レッドゴールドという継承軸
レッドゴールドは2014年の初代(51.RL.W)から続くLM101の基幹素材であり、52.RL.BLはその直系後継にあたる。ただし白文字盤の初代に対し、本機はロイヤルブルーのダイヤルプレートで印象を一変させた。クラシックなケース素材に現代的な色彩を重ねる構成は、3モデル共通の世代戦略である。
その後の展開
2021年世代の3本はいずれも限定ではなく、通常コレクションとして継続生産されている。2025年には創業20周年に合わせ、チタンケース、ねじ込みリューズ、80m防水、FlexRing緩衝機構を備えたLM101 EVOが派生として登場したが、これは日常使いに振った別系統であり、本機系統と併存する。
意匠分析
52.RL.BLの設計を読み解く鍵は「引き算」にある。第2世代では初代の幅広いベゼルが大幅に細められ、ダイヤル外周にあった「Legacy Machine」の刻印も省かれた。その分だけ開口部が広がり、わずかに拡大された2つのサブダイヤルと、中空に浮かぶテンプへ視線が集中する構成となった。
ダイヤルプレートはロイヤルブルーのサンレイ仕上げ。時分とパワーリザーブを示すサブダイヤルは多層ラッカーによる純白のドーム形で、青地に浮かぶ2枚の白皿という強いコントラストを生む。時分針はブルーゴールド製だが、初代の白地では青針が映えたのに対し、本機では青地に金縁の針が沈み込みすぎない絶妙な調律がなされている。
中央上方には直径14mmの巨大なフライングテンプが、ミラーポリッシュされた2本のアーチ状ブリッジに吊られて毎時18,000振動 (2.5Hz)でゆったりと振れる。2021年世代からはシュトラウマン製ダブルヒゲゼンマイを備える。テンプの真下にヒゲゼンマイが2層重なる様子は、ドーム型サファイアクリスタル越しに肉眼で確認できる。
ケースは18Kレッドゴールド(5N+)で直径40mm。厚みの多くはドーム風防によるもので、ケースバンド自体は薄く絞られている。40mmはレガシーマシンで最も小さく、MB&Fで最もコンパクトな機械である。裏蓋側もボックス型サファイアとすることでミドルケースの厚みを視覚的に抑える、レガシーマシン共通の手法だ。裏側ではジュネーブ波目とゴールドシャトン、内角を含む面取りの手仕上げが、ヴティライネンの監修した19世紀流の作法で施される。
系譜と歴史
52.RL.BLは2021年5月、LM101の第2世代を構成する3モデルの一つとして発表された。ステンレススティール仕様の52.SL.BL、ホワイトゴールド仕様の52.WL.Pとの同時発表で、いずれも限定数を設けない通常コレクションである。ストラップは手縫いのアリゲーターまたはカーフで、ケースに合わせたレッドゴールド製ピンバックルが付属する。
本機が採用したダブルヒゲゼンマイには前史がある。2020年、MB&FはH.モーザーとの相互コラボレーションでLM101にシュトラウマン製ダブルヒゲゼンマイを初搭載しており、2021年世代はこの技術をレギュラーモデルへ展開したものとされる。2021年世代の狙いは、テンプを際立たせ、時分とパワーリザーブのサブダイヤルを拡大し、文字盤の刻印の一部を除き、ベゼルを細くすることにあった。
発表以降、52.RL.BL自体の仕様変更は公表されていない。2025年にはブランド創立20周年に合わせ、チタンケース・80m防水のLM101 EVOが発表されたが、これは系統の異なる派生であり、本機の後継ではない。
出典
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