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COMPLICATION · JUMPING HOUR

ジャンピングアワー

Jumping Hour

針に代えて回転する円盤の数字を窓越しに示し、毎正時に瞬間で切り替える、機械式の数字時刻表示機構

INVENTOR
ヨゼフ・パルヴェーバー
YEAR
1883
CLASS
時刻表示 · 時間表示拡張
搭載モデル
4 本
01 — OVERVIEW

概要

ジャンピングアワー(jumping hour、跳ね時針とも)は、回転する円盤の数字を文字盤の小窓(guichet)に映し、毎正時にその数字を瞬間的に切り替えて時刻を示す表示機構である。針を用いない「機械式のデジタル表示」として、電子式デジタル時計よりはるか以前に成立した。ザルツブルクの時計師ヨゼフ・パルヴェーバーの方式の権利をIWCが1884年に得て、時と分を数字で示す懐中時計を作ったことが、実用化の起点として知られる。精度を高める複雑機構ではなく、時刻の見せ方そのものを変える表示系の機構に分類され、現代では懐中時計時代の意匠を継ぐ独自の存在感をもつ。

02 — PRINCIPLE

仕組み・原理

01基本原理

ジャンピングアワーは、時刻を「数字」で示す表示機構である。文字盤の下に1から12までの数字を記した円盤を置き、文字盤に開けた小窓を通して、いま指し示すべき数字だけを見せる。通常の時計が12時間で1回転する時針をもつのに対し、この機構は時針をもたない。円盤は1時間に1ステップずつ進み、毎正時に次の数字へと切り替わる。

切り替わりの瞬間が、この機構の核心である。針が連続的に動くのとは異なり、円盤は59分台を静止して待ち、正時に達した瞬間、次の数字へ一気に跳ぶ。この不連続な動きが「ジャンピング(跳躍)」の名の由来であり、時刻の読み取りに曖昧さを残さない点が表示上の利点とされる。

02跳躍を生む仕組み

瞬間的な跳躍は、エネルギーを蓄えて一気に放出することで生まれる。多くの設計では、輪列から1時間に1回転する部材が、時間をかけてバネを少しずつ巻き上げる。正時に達するとこの部材が係合を外れ、蓄えられた力が解放されて円盤を次の位置へ弾く。

円盤が正確な位置で止まり、そこに留まるためには、別の部品が要る。星形の歯車(スターホイール)の谷に、先端をバネで押し付けた爪(ジャンパー)を噛ませる構造が一般的である。ジャンパーは円盤を一段ずつ確実に位置決めし、振動などで数字がずれることを防ぐ。

03分の表示と「ドラッグ」

時を数字で示す一方、分の表示には複数の流儀がある。最も多いのは通常の分針を併用する形だが、分もまた円盤に委ねる設計も少なくない。

分円盤の動き方は二通りある。1分ごとに跳ねる「ジャンピングミニッツ」と、連続的に少しずつ送られる「ドラッグ(這う)」方式である。カルティエのタンク・ア・ギシェが採るのは後者で、分は弧状の窓の中をゆっくり移動する。時のみを跳ばせ、分は滑らかに送るこの組み合わせが、古典的なジャンピングアワーの典型といえる。

04機構が抱える課題

円盤は針より重い。回転させるには相応のエネルギーを要し、これが輪列から取り分けられると、テンプの振り角(振幅)が落ちて精度に影響しうる。負荷は時・分の円盤が同時に跳ぶ正時に最も高まる。

この課題への解の一つが、定力機構(ルモントワール)である。輪列の途中に補助バネを置き、一定間隔でエネルギーを蓄えては送り出すことで、脱進機とテンプへ届く力を安定させる。別の解として、計時用と表示用に香箱と輪列を分ける設計もある。ジャンピングアワーは表示のための機構であって、それ自体が精度を高めるわけではない。この点を踏まえた設計が、現代の高級実装では重視されている。

03 — HISTORY

歴史

01数字で時を示す前史

時刻を数字で示す発想そのものは、ジャンピングアワーの実用化より古いとされる。ただし、懐中時計の時代までの例は断片的で、機構として体系化されるのは19世紀末を待つことになる。

02パルヴェーバーと懐中時計の時代

転機は1880年代に訪れる。ザルツブルクの時計師ヨゼフ・パルヴェーバーが、時と分をともに回転する数字円盤で示す方式を考案し、特許を得たとされる(1883年とする資料が多い)。この針のない表示に注目したのが、当時IWCを率いていたヨハネス・ラウシェンバッハ=シェンクである。IWCは1884年にこの方式の権利を得て、時と分を2つの窓に大きな数字で示す「パルヴェーバー」懐中時計を作った(最初の製品の年は、1885年や、同社の資料にもとづく1886年とする記述もある)。当初は好評で、6年ほどの間に約2万個が作られたが、人気はやがて衰え、1890年に生産を終えている。機構はその後、しばらく表舞台から退く。

03腕時計への移行とアールデコ

ジャンピングアワーが再び脚光を浴びたのは、1920年代のアールデコの時代である。直線と幾何学を尊ぶこの時代の美意識に、無駄を削いだ数字表示はよく合った。1928年にはカルティエがタンク・ア・ギシェを発表する。文字盤を廃し、金のケースの上面に、12時側の跳ね時の窓と6時側の弧を描く分の窓だけを開けたモデルで、リュウズも12時位置に置かれた。1930年代には窓の形などを変えた一点物がいくつも作られている。表示機構が意匠そのものを決定づけた例として知られる。

04現代の展開と派生

現代の作り手は、跳躍の原理をさらに押し広げた。2009年、A.ランゲ&ゾーネはツァイトヴェルクを発表し、時だけでなく分も瞬間表示とした。円盤を一瞬で動かすための力と、テンプへ届く力の安定を両立させるため、定力機構を組み込んでいる。なお、数字が文字盤上を移動する「ワンダリングアワー(さまよう時)」は、しばしば混同されるが系統の異なる別の機構である。2025年のカルティエのタンク・ア・ギシェの復刻に続き、オーデマ ピゲやチャペック、クロノスイスなどが跳ね時表示の新作を相次いで出しており、ジャンピングアワーは再評価の時期を迎えている。

04 — NOTABLE IMPLEMENTATIONS

代表的な実装

ジャンピングアワーは、価格帯もブランドも大きく異なる複数の系譜に枝分かれしている。

機構の出発点に立つのが、IWCのパルヴェーバー懐中時計(1880年代から1890年)である。パルヴェーバーの方式を最初期に実用化した一群であり、IWCは創業150年の2018年、その表示を腕時計に移した「トリビュート・トゥ・パルヴェーバー」を発表して系譜を現代へつないだ。時と分の円盤を動かす力が計時に響かないよう、計時用と表示用に二つの香箱と輪列を分けている。

意匠の到達点として外せないのが、カルティエのタンク・ア・ギシェ(1928年初出)である。跳ね時と、ゆっくり送られる分の円盤という構成を、ケース上面の二つの窓だけで成立させた。2025年にはカルティエ プリヴェの一作として、新しい自社製のキャリバー9755 MCを積んで復活し、この機構が再び注目を集める契機となった。

機構的な深度を代表するのが、A.ランゲ&ゾーネのツァイトヴェルク(2009年)である。時・分の双方を瞬間表示とし、定力機構で跳躍の負荷からテンプを守る設計は、この機構が到達しうる複雑性の一例を示す。数字と窓の意匠は、ドレスデンのゼンパー・オペラハウスの五分時計を思わせる。

近年は、オーデマ ピゲのネオフレーム ジャンピングアワー、チャペックのタイム ジャンパー、クロノスイスのネオ ディジタール、復活したニトンのプリマなど、高級時計の領域でも新作が相次いでいる。比較的手に取りやすい価格帯の解釈も少なくなく、ジャンピングアワーは世代と価格帯を越えて再評価の時期を迎えている。

05 — REFERENCES

この機構を搭載する 4 本のモデル

06 — SOURCES

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

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