03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
1. Executiveを支える基礎構造として
ユリス・ナルダンは、2001年の「Freak」でシリシウム(シリコン)製脱進機を実用化した先駆である。脱進機やヒゲゼンマイにシリコンを用いる技術は、同社のものづくりの根幹を成してきた。2010年代に入ると、同社はETA供給の先細りを背景に基幹ムーブメントの内製化を進める。2012年のUN-118を皮切りに、自社キャリバー群を整えていった。
UN-171は、その流れのなかで2016年に登場した手巻キャリバーである。現代的なExecutiveコレクションのために設計され、初搭載モデルは「Executive Skeleton Tourbillon」(ref. 1713-139)であった。狙いは、華美な装飾彫りではなく、ムーブメントそのものを意匠とする「建築的スケルトン」の確立にあった。
2. 軽さと耐久を両立する設計
UN-171の核は、6時位置に置かれたシリシウム製のフライングトゥールビヨンである。上部ブリッジを持たない片持ち式の回転機構が、宙に浮くような視覚を生む。振動数は18,000vph (2.5Hz)と低めに抑えられ、消費エネルギーを節約する。これにより、単一の大型香箱から170時間(約7日)という長時間駆動を得ている。チタンとセラミックの軽量ケースと相まって、大径ながら軽量という性格が際立つ。
3. X字構造へと連なる派生
UN-171の基礎構造は、その後のスケルトン機群へと展開する。2018年の「Executive Tourbillon Free Wheel」には、構成部品を文字盤上に配したUN-176が用いられた。2019年以降のSkeleton Xには、トゥールビヨンを持たず大型シリコン振動子を据えたUN-371が載る。2020年のBlast Tourbillonには、同社初のマイクロローター自動巻トゥールビヨンであるUN-172が採用された。いずれもシリコン部品とX字の橋(ブリッジ)構造を共有し、UN-171を出発点とする系譜を形づくっている。
05 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
UN-171の機構は、シリコン部品とフライングトゥールビヨンを軸に組み立てられている。
調速機構には、脱進車(脱進機を構成する歯車)とヒゲゼンマイにシリシウム(シリコン)を用いる。シリコンは非磁性で、温度変化や磁気の影響を受けにくい。摩擦が小さく、脱進部の注油を要しない点も利点である。半導体製造に通じる微細加工技術で成形されるため、形状精度が高く、個体差が小さい。軽量で慣性モーメントが小さいことも、調速の安定に寄与する。
ヒゲゼンマイをシリコンで作る意義も大きい。金属合金のヒゲと異なり磁気に乱されず、酸化膜の働きにより温度変化による伸縮も補いやすい。設計どおりの形状を再現できるため、振り角によらず周期を一定に保つ等時性を確保しやすい。耐磁性は、これらシリコン部品によって機構そのものから得られる。鉄製の軟磁性インナーケースを設けずとも磁気に強く、内甲を持たないスケルトン機と相性がよい。
6時位置のフライングトゥールビヨンは、テンプ・ヒゲゼンマイ・脱進機を収めた籠(キャリッジ)を1分で1回転させる。重力による姿勢差を平均化し、姿勢ごとの誤差を抑える機構である。上部ブリッジを廃した片持ち構造のため、籠が宙に浮くように見える。スケルトンの意匠と機能がここで一体化している。
振動数は18,000vph (2.5Hz)である。これは1秒あたり5振動に相当する。一般的な28,800vph (4Hz)より低く、単位時間あたりの消費エネルギーが小さい。この低振動数の選択が、長いパワーリザーブの一因となる。動力源は単一の大型香箱で、ここから170時間(約7日)を引き出す。低振動数とシリコンの低摩擦が、長時間駆動を支えている。
仕上げと構造面では、Executiveの象徴である隆起した長方形ブリッジが中央を貫く。地板とブリッジは大きく肉抜きされ、可動部の多くが両面から見通せる。表面はPVDとルテニウムでコーティングされ、陰影のある見え方を与える。細く残された橋には面取りや磨きが施され、肉抜き後も装飾としての密度を保つ。輪列(歯車の連なり)は必要最小限にまとめられ、視線が機構の奥まで届く。プレートの少なさは構造的な繊細さと表裏一体であり、スケルトン機ならではの設計判断といえる。
精度は、低振動数とシリコン部品の安定性、そしてトゥールビヨンによる姿勢差補正の三者で担保される。クロノメーター認定の有無は版や年式により異なるため、個別の確認が望ましい。