03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
1. 自社製クロノグラフへの渇望
Calibre Heuer 02の開発は、2009年に投入されたCalibre 1887の延長線上で構想された。1887はタグ・ホイヤーがライセンスを得たセイコー6S37を起点とするものであり、純然たる自社製と呼ぶには議論の余地があった。LVMH傘下で「アヴァンギャルド」を掲げるブランドとして、自前のクロノグラフ機構をゼロから設計する。それが「カリバー1969」と呼ばれた計画で、後のCalibre Heuer 02の原点である。「1969」の名は、自動巻クロノグラフが登場した年にちなむとされる。
2. CH80計画の凍結、そして復活
2014年、同キャリバーは「CH80」としてカレラに収めて発表された。「80」は80時間という長大なパワーリザーブを意味する。しかし、2014年に LVMH の時計部門を率いることになったジャン=クロード・ビバーのもとで、生産は凍結された。プロジェクトは死蔵されたかに見えたが、2016年にはトゥールビヨン版「Heuer 02T」が先行投入され、2017年には3針クロノ仕様としてAutaviaへの搭載が実現する。「Heuer 02」の名称が正式に与えられたのはこのときである。
3. 派生機構の系譜
Heuer 02はモジュール的に拡張可能な設計思想を持ち、複数の派生機構を生んだ。トゥールビヨン版の Heuer 02T は、COSC認定を受けたトゥールビヨンとして注目を集めた。2018年のバーゼルワールドでは、GMT機構を加えた45mmのCarrera Heuer 02 GMTが登場した。2019年には、カーボン複合素材のヒゲゼンマイを用いた Nanograph 版も発表されている。
4. TH20-00への進化
その後、タグ・ホイヤーはCalibre Heuer 02の改良版を「TH20-00」と呼ぶようになり、新しいキャリバー命名体系(TH30系、TH50系など)に組み込んだ。公式の説明によれば、TH20-00 は両方向巻き上げを採り、受けにはコート・ド・ジュネーブ、コラムホイールにはロジウムメッキが施される。十年越しの紆余曲折を経て、Calibre Heuer 02系列はようやく現代タグ・ホイヤーの基幹ムーブメントの座を確立したのである。
05 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
1. 基本構成と寸法
Calibre Heuer 02は、168のパーツから成るとされる自動巻クロノグラフキャリバーである。33石、振動数は28,800vph (4Hz)で、単一の香箱から約80時間のパワーリザーブを実現する。
2. コラムホイールと垂直クラッチ
クロノグラフ制御の中核には、コラムホイール(円柱状の歯車型カム)が据えられている。スイッチング部品としてレバー式カムよりも操作感が滑らかで、製造には高い精密加工を要する高級仕様である。動力伝達には垂直クラッチを採用する。これは平面に重ねた摩擦円板でクロノグラフ秒針を駆動する方式で、水平クラッチに見られる始動時の針飛び(ジャンプ)を抑え、長時間作動時でも輪列への負荷が小さい。コラムホイールと垂直クラッチの組み合わせは現代の高級自動巻クロノグラフの一つの規範であり、Heuer 02はこの基本パッケージを過不足なく備える。
3. テンプとヒゲゼンマイ
標準仕様では金属ヒゲゼンマイを採用するが、2019年に登場した派生のHeuer 02T Nanographでは、タグ・ホイヤーが独自開発したカーボン複合素材のヒゲゼンマイが搭載されているとされる。
4. 自動巻機構とレイアウト
初代Heuer 02の巻き上げは片方向式とされ、改良型TH20-00では両方向巻き上げとなった。3針クロノ仕様では、3時位置に30分積算計、9時位置に12時間積算計、6時位置にスモールセコンドを配する3-6-9コンパックス・レイアウトを採る。これは1963年初代Carreraのトリ・コンパックス構成への意識的な回帰でもあった。デイト窓はモデルにより4時30分、6時、12時位置に置かれる。
5. 仕上げと派生
サファイアバック越しに動きを観察できる構造となっている。Heuer 02T、Heuer 02 GMT、TH20-00と、ファミリーは複数の機構派生を展開する。開発・製造はジュラ州シュヴネの自社施設で行われる。2018年のCarrera Heuer 02では43mmのモジュラー・ケースに収められて13のバリエーションで展開され、2019年のモナコ、2020年のCarrera Sport Chronograph 44mm と Carrera Chronograph 42mm でも基幹ムーブメントとなった。本キャリバーは、十年越しの開発と改良の累積として、現代タグ・ホイヤーの機構的アイデンティティを形成している。