Calibre Heuer 02
2013年に「カリバー1969」として発表、CH80を経て市場投入された、タグ・ホイヤーの自社製自動巻クロノキャリバー
Calibre Heuer 02は、タグ・ホイヤーが自社開発した自動巻クロノグラフキャリバーである。コラムホイールと垂直クラッチを採用した本格機構を備え、振動数28,800vph (4Hz)、石数33、約80時間のパワーリザーブを実現する。2013年にカリバー1969として発表され、翌年CH80へ改称されるも生産は一時凍結、2017年から「Heuer 02」の名で本格生産が始まった経緯を持つ。カレラ、オータヴィア、モナコの主力モデルに加え、トゥールビヨン派生のHeuer 02Tやカーボン製ヒゲゼンマイ仕様、GMT機構搭載版、後継TH20-00と、十年越しに発展した自社製クロノの基幹である。
| Maker | TAG Heuer |
|---|---|
| Reference | Calibre Heuer 02 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 33 石 |
| Power reserve | 80 h |
| Movement ⌀ | 32 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Small Seconds |
| Date | Date |
| Chronograph | Chronograph, Column wheel |
系譜と歴史
1. 自社製クロノグラフへの渇望
Calibre Heuer 02の開発は、2009年に投入されたCalibre 1887の延長線上で構想された。1887はSeikoから設計図を購入したベースムーブメントを大幅に改修したものであり、純然たる自社製と呼ぶには議論の余地があった。LVMH傘下で「アヴァンギャルド」を掲げるブランドとして、自前のクロノグラフ機構をゼロから設計する。それが2013年11月に発表された「カリバー1969」、後のCalibre Heuer 02の原点である。「1969」の名は、自動巻クロノグラフ実用化を巡る同年の歴史的競争へのオマージュであった。
2. CH80計画の凍結、そして復活
2014年のバーゼルワールドで、同キャリバーは「CH80」(Calibre Heuer 80) へと改称され、新型Carrera CH80に搭載されて市場投入が予告された。「80」は80時間という長大なパワーリザーブを意味する。コラムホイールと垂直クラッチを備えた本機は、当時の同価格帯では破格の本格設計であった。しかし同年6月、LVMHウォッチ部門責任者に就任したジャン=クロード・ビバーの判断で生産は無期限凍結される。背景には、Chevenez工場の生産能力、1887の在庫消化、そして製品ヒエラルキー再構築の意図があったとされる。プロジェクトは死蔵されたかに見えたが、2016年にはトゥールビヨン版「Heuer 02T」が先行投入され、2017年には3針クロノ仕様としてAutaviaへの搭載が実現する。「Heuer 02」の名称が正式に与えられたのはこのときである。
3. 派生機構の系譜
Heuer 02はモジュール的に拡張可能な設計思想を持ち、複数の派生機構を生んだ。Heuer 02T COSCは、量産トゥールビヨンとしては異例の低価格でCOSC認定を取得した個体として注目を集めた。2019年のBaselworldで発表されたHeuer 02T Nanographは、TAG Heuer Instituteが開発したカーボンコンポジット製ヒゲゼンマイを搭載し、耐磁性・耐衝撃性・温度安定性に新たな指標を提示する。同2018年にはGMT機構を追加したHeuer 02 GMTがCarrera Heuer 02 GMTに搭載され、青と黒のセラミックベゼルとともに登場した。
4. TH20-00への進化
2023年、タグ・ホイヤーはCalibre Heuer 02の改良版を「TH20-00」と命名し、新しいキャリバー命名体系(TH20系=Heuer 02ファミリー、TH30系、TH50系ソーラーグラフ等)に組み込んだ。最大の変更は片巻きから双方向巻き上げへの移行であり、ローター形状もブランドの盾型ロゴを模した造形へと刷新され、保証期間も2年から5年へと延長されている。十年越しの紆余曲折を経て、Calibre Heuer 02系列はようやく現代タグ・ホイヤーの基幹ムーブメントの座を確立したのである。
技術解説
1. 基本構成と寸法
Calibre Heuer 02は、直径31mm (13¾リーニュ)、厚さ約6.9mmの自動巻クロノグラフキャリバーである。168のパーツと33石を組み合わせ、振動数は28,800vph (4Hz)、ボールベアリング式ローターによって約80時間のパワーリザーブを実現する。香箱は1個で、この容量と機構効率の最適化が80時間という長大な持続時間の根拠となっている。手巻き上げにも対応し、耐衝撃機構にはKif式が採用される。クロノグラフ作動時のリザーブは仕様や派生によって異なるが、おおむね65時間前後とされる。
2. コラムホイールと垂直クラッチ
クロノグラフ制御の中核には、コラムホイール(円柱状の歯車型カム)が据えられている。スイッチング部品としてレバー式カムよりも操作感が滑らかで、製造には高い精密加工を要する高級仕様である。動力伝達には垂直クラッチを採用する。これは平面に重ねた摩擦円板でクロノグラフ秒針を駆動する方式で、水平クラッチに見られる始動時の針飛び(ジャンプ)を抑え、長時間作動時でも輪列への負荷が小さい。コラムホイールと垂直クラッチの組み合わせは現代の高級自動巻クロノグラフの一つの規範であり、Heuer 02はこの基本パッケージを過不足なく備える。
3. テンプとヒゲゼンマイ
調速機構には、スイスのAtokalpa社製のテンプ・ヒゲゼンマイ・アンクル等が用いられているとされる。多くのスイス製ムーブメントが採用するNivaroxではなくAtokalpa調速機構を選んだ点は、Calibre 1887との設計思想上の差として注目された。緩急針はEtachronシステムが用いられている。標準仕様では金属ヒゲゼンマイを採用するが、2019年に登場した派生のHeuer 02T Nanographでは、TAG Heuer Instituteが独自開発したカーボンコンポジット製ヒゲゼンマイが搭載されている。CVDによる気相成長で六角格子状に形成されるこのヒゲは、軽量でありながら温度・磁気・衝撃に対して高い安定性を示すと公表されている。
4. 自動巻機構とレイアウト
ローターはボールベアリングで支持され、初代Heuer 02では反時計回りのみで巻き上げる片方向式であった。2023年の改良型TH20-00では双方向巻き上げへ変更され、リザーブ充填の平均速度が改善されている。3針クロノ仕様では、3時位置に30分積算計、9時位置に12時間積算計、6時位置にスモールセコンドを配する3-6-9コンパックス・レイアウトを採る。これは1963年初代Carreraのトリ・コンパックス構成への意識的な回帰でもあった。デイト窓はモデルにより4時30分、6時、12時位置に置かれる。
5. 仕上げと派生
ジュネーブシール等の伝統的仕上げは付与されないが、地板・ブリッジ・ローターには現代的なサテン仕上げとブラスト仕上げが施され、サファイアバック越しに動きを観察できる構造となっている。Heuer 02T、Heuer 02T Nanograph、Heuer 02 GMT、TH20-00、トゥールビヨン搭載のTH20-09と、ファミリーは複数の機構派生を縦に展開する。組立は3つの主要モジュールから構成されるためメンテナンス性が高く、Chevenez自社工房で一貫して生産される。本キャリバーは、十年越しの開発と改良の累積として、現代タグ・ホイヤーの機構的アイデンティティを形成している。