設計思想
1. 2015年からの転換点として
本機が世に出た2020年は、Carreraシリーズにとって明確な節目の年だった。それまでの5年間、Carreraクロノグラフの中心にあったのは2015年のバーゼルワールドで発表された「Carrera Heuer 01」(CAR2A1Z系)であり、スケルトン文字盤、45mm径、16.5mm厚という、文字通り「見せる」設計が時代を象徴していた。Calibre Heuer 01は自社製ムーブメントの幕開けを告げた重要な機械だったが、5年が経ち、より広いユーザー層に向けたバランスの取れた次の表現が必要とされていた。
その回答が、本機を含む2020年7月9日発表の「Carrera Sport Chronograph 44mm Calibre Heuer 02 Automatic」だった。海外メディアの評では、Carreraシリーズにとってこれはスケルトン文字盤の登場以来の大規模なリデザインとされ、ケース、インデックス、針、文字盤、書体に至るまでほぼ全ての構成要素が再検討された。にもかかわらず、一見してCarreraと分かる骨格は守られている。
2. 160周年の記念事業との関係
2020年はTAG Heuerにとって創業160周年にあたる年でもあった。同年のCarreraは、ブランドの記念事業の中核に据えられていた。1月のLVMH Watch Weekでは「Carrera 160 Years Silver Limited Edition」(1,860本限定、Heuer 02搭載の1960年代Ref. 2447S復刻)が先陣を切り、その後「Montreal Limited Edition」、「160 Years Special Edition Dato 45」(12時位置日付)と続いた。
これらの限定モデルが過去のCarreraへのオマージュを担った一方、本機CBN2A1B.BA0643は限定ではなく通常コレクションとして「これからのCarreraの基準形」を提示する役割を任された。同時発表の派生3本(ブルーのCBN2A1A、グリーンのCBN2A10、ローズゴールド・コンビのCBN2A5A)とともに、新世代Carreraの色とマテリアルのレンジを定義したシリーズの中で、本機は黒文字盤・黒セラミックベゼル・スチールブレスレットという、最も標準的な仕様を担う基準点となった。
3. ムーブメントの進化と現在地
発表時に搭載されていたのは2016年デビューの自社製Calibre Heuer 02である。コラムホイールと垂直クラッチを備え、80時間のパワーリザーブを確保するTAG Heuerの主力クロノグラフ機械だ。
2023年3月27日、TAG Heuerはこのムーブメントの進化版を公式に発表し、新たに「TH20-00」のコードネームを与えた。スケルトン化されたコート・オブ・アームズ型ローターへの変更、巻き上げの両方向化、保証期間の2年から5年への延長などが含まれる。本機の現行生産分はこのTH20-00を搭載しており、メーカーURL上でもその移行が反映されている。文字盤デザインも僅かに整理され、当初記載されていた「HEUER 02 80 HOURS」の表記は外されている。基準型としての本機は、こうした世代をまたぐ細かな改訂を吸収しつつ、Carrera Sport Chronograph 44mmの中心に居続けている。
意匠分析
44mmのステンレススチールケースは、ポリッシュ仕上げとファイン・ブラッシュ仕上げを面ごとに切り替えることで、平面の張りと奥行きを同時に表現している。ケース厚は15.75mm、ラグ間距離は50mmで、前世代のCarrera Heuer 01(CAR2A1Z、45mm径・16.5mm厚)と比べて径で1mm切り詰められた。ラグ自体も短くされ、装着時の手首への沈み込みが改善されている。発表時にTAG Heuerが人間工学的改良として強調した変更点である。
固定式ベゼルは黒セラミック製で、タキメーター目盛が刻まれる。スチールではなくセラミックを選んだことで、長期使用での日焼けや傷の目立ちにくさを担保している。風防はドーム型でベゼルから僅かに盛り上がる形状をとり、ダブルARコーティングで反射を抑える。バックも同じくサファイアクリスタルのスクリュー式で、Calibre Heuer 02の地板とローターを覗かせる。
文字盤の意匠は本機の最大の見どころである。円形ブラッシュ仕上げの黒地に、3時のミニッツカウンター、9時のアワーカウンター、6時のスモールセコンドと日付窓を配する、対称性を強く意識した3-6-9トリコンパックス配置を採る。とりわけ9時カウンターには「12」「4」「8」のアラビア数字が打たれ、3時カウンターの表記とビジュアル的に対をなす。フランジは内側へ斜めに切り下げられ、インデックスも文字盤中央へ向けて僅かに傾けて植字された。視線を時刻表示の中心へ収束させる処理である。
植字インデックスと時分針には白色のSuper-LumiNovaが充填され、暗所でのコントラストを確保する。クロノグラフ針と日付窓周りには赤のアクセントが入る。ブレスレットはH字型と呼ばれる中駒構造で、前世代より薄く再設計され、バックル部はダブル・セーフティ・プッシュボタンを備えたフォールディング式である。
ムーブメントは発表時に自社製Calibre Heuer 02を搭載していた。Chevenez工房で組まれるコラムホイール式・垂直クラッチの自動巻クロノグラフで、168部品・33石・毎時28,800振動 (4Hz)で80時間のパワーリザーブを確保する。
系譜と歴史
2020年7月9日、TAG Heuerは本機を含む「Carrera Sport Chronograph 44mm Calibre Heuer 02 Automatic」を4本同時発表として世に出した。同時にデビューしたのは、ブルー文字盤・ブルーセラミックベゼルのCBN2A1A.BA0643、グリーン文字盤・スチールベゼルのCBN2A10.BA0643、スチール×ローズゴールドのコンビケースに黒文字盤のCBN2A5A.FC6481の3本である。CBN2A1B.BA0643はその中で、黒文字盤・黒セラミックベゼル・スチールブレスレットの最も標準的な組み合わせを担う基準型として位置づけられた。
発表時の希望小売価格はEUR 5,450/USD 5,750、スイス本国ではCHF 5,600とアナウンスされた。発表は2020年がTAG Heuerの創業160周年にあたることを背景としており、ブランドはこの年Carreraを記念事業の中心に据えていた。1月のLVMH Watch Weekで先行公開された「Carrera 160 Years Silver Limited Edition」(1,860本限定)に続く本シリーズは、限定ではなく通常コレクションとしての位置づけだった。
その後の主要な変化は、2023年3月27日にTAG Heuerが「Calibre Heuer 02」のリブランドを公式発表し、後継ムーブメントが「TH20-00」のコードネームを与えられたことである。ローター形状がコート・オブ・アームズ(盾型)モチーフに刷新され、巻き上げ機構も従来の一方向から両方向に変更された。本機の現行生産分はこのTH20-00を搭載しており、メーカー公式サイトの製品ページURLにも「th20-00」の表記が用いられている。保証期間も2年から5年へと延長された。
2026年現在も、本リファレンスは現行コレクションとして継続供給されている。