設計思想
50周年と世代刷新の文脈
2019年は、TAG Heuerモナコにとって特別な年だった。1969年に世界初の角型自動巻きクロノグラフとして登場した同シリーズは、ちょうど半世紀の節目を迎えていた。年間を通じて10年ごとに5つの限定版を順次発表する記念企画と並行して、TAG Heuerはレギュラーラインの心臓部にも大きな手を入れた。長くETA 2892ベース+Dubois-Dépraz製クロノモジュールという外部供給ベースのモジュラー式ムーブメントCalibre 12を搭載してきた3時クラウン側のモナコを、自社で開発・製造する統合型クロノグラフムーブメント「Calibre Heuer 02」へと刷新したのである。新ムーブメントは80時間のパワーリザーブと、12時間積算計を新たに備えた3サブダイヤル配置を可能にした。
第一弾として2019年11月に登場したのは、青文字盤に青アリゲーターレザーストラップという、シリーズの象徴ともいえる組み合わせを纏ったCBL2111.FC6453だった。
1年遅れて登場した派生
本機CBL2113.FC6177は、その第一弾から約1年後の2020年10月、世代の派生展開として追加された3本のうちの一つである。同時発表されたBA0644(ステンレスブレスレット)2種と、本機を含む新しい組み合わせは、Heuer 02世代モナコのラインを単一の象徴的1本から「色とストラップを選べる4本」へと広げる役割を担った。
なかでも本機は、黒文字盤と黒アリゲーターレザーという最も色彩を抑えた構成にあたる。シリーズの代名詞である「青のスティーブ・マックィーン」がCBL2111だとすれば、本機はその対極にある、夜の色の派生として位置づけられる。
オールブラックという選択
黒系統の文字盤を持つモナコ自体は、前世代のCalibre 12時代にも存在していた。しかし本機が踏襲しているのは「黒で揃える」という発想であって、文字盤のレイアウトもテクスチャも新世代として全面的に刷新されている。黒の地に銀のインデックス、そして単一の赤いクロノ針——色数を絞ったこの構成は、モナコの角型ケースが本来持つグラフィカルな印象を、青文字盤版よりもいっそう静かに、しかし強く立ち上げる。
意匠分析
CBL2113.FC6177の意匠は、シリーズ共通の遺伝子と本機固有の色彩配合という二層から成り立っている。
ケースは39mm角型のステンレススチール製で、サテンとポリッシュを組み合わせた仕上げ。ベゼル上面と側面はサテン、ラグの上端は鏡面に磨き上げられ、1997年再生産時にMiodrag Mijatovicが設計した基本形状を踏襲する。厚みは15.21mmで、前世代のCalibre 12搭載モデルと比較して約1mm増している。これは統合型ムーブメントCalibre Heuer 02(現呼称TH20-00)を収容するための物理的な要請による。クリスタルは特徴的なドーム型・面取りサファイアで、無反射コーティングが施される。リューズとクロノプッシャーはケース右側面の3時方向に配置され、統合型ムーブメントによって水平な一直線上に並ぶ。前世代のモジュラー式Calibre 12では、リューズとプッシャーがわずかに段差を持っていた点と対照的である。リューズはスクリュー式ではなくプッシュ式で、防水性能は100mに保たれる。
文字盤は黒のサンレイブラッシュ仕上げ。光の角度によって放射状の光沢が走り、フラットな黒では生まれない奥行きを与える。アプライドのバーインデックスは銀調で、スーパールミノヴァを充填する。サブダイヤルは3時に30分積算計、9時に12時間積算計、6時にスモールセコンドを配する3つ構成で、3時と9時のサブダイヤルはモナコの伝統的な意匠である角型フレームに囲まれる。6時のサブダイヤル内にはクロスヘアが引かれ、その下に日付窓が組み込まれる。中央のクロノグラフ秒針のみが赤で着色され、黒と銀を基調とする文字盤に唯一の彩を加える。
ストラップは22mm幅の黒アリゲーターレザー。バックルはポリッシュ仕上げのステンレススチール製フォールディングクラスプで、プッシュボタン式の解放機構を備える。兄弟Refの中で本機が担う固有性は、文字盤色とストラップ色の一致にある。青文字盤+青アリゲーターのCBL2111.FC6453、黒文字盤+ブレスレットのCBL2113.BA0644とは異なり、本機は「全要素を黒で揃える」という選択肢として用意されている。
系譜と歴史
2019年11月、TAG Heuerはモナコ50周年の節目に、自社製ムーブメントCalibre Heuer 02を搭載した新世代モナコの第一弾として、青文字盤に青アリゲーターレザーストラップを組み合わせたCBL2111.FC6453を発表した。本機CBL2113.FC6177は、それから約1年後の2020年10月、世代の派生展開として追加された3本のうちの一つである。同時発表されたのは、本機(黒文字盤+黒アリゲーターレザー)に加え、黒文字盤にステンレススチールブレスレットを組み合わせたCBL2113.BA0644、そして青文字盤にブレスレットを組み合わせたCBL2111.BA0644の計3本。本機の発表時希望小売価格はCHF 6,000(EUR 6,000、USD 6,350)であった。ブレスレット仕様は2021年1月から市場流通が開始されている。
2023年3月、TAG Heuerは自社製ムーブメントの呼称体系を刷新し、Calibre Heuer 02はTH20-00へと名を改めた。両眼振りローターへの変更や仕上げの見直しを伴う改定で、保証期間も従来の2年から5年へと延長されている。本機の形式番号自体は据え置かれているものの、公式カタログ上のムーブメント表記はTH20-00へと切り替わった。
その後、Heuer 02/TH20-00世代の39mmモナコには色違いの派生が断続的に追加されており、緑文字盤のCBL2116.FC6497、紫文字盤のCBL2118.FC6518などが登場している。本機CBL2113.FC6177自体は、2026年5月時点でも公式カタログに掲載される現行品として販売が継続されている。