設計思想
1. 2020年、Carreraに与えられた回答
CBN2A1A.BA0643は、2020年7月にTAG Heuerが発表したCarrera Sport Chronograph 44mmの青文字盤仕様である。同時に発表されたのは、黒セラミックベゼルに黒文字盤のCBN2A1B.BA0643、スチールベゼルに緑文字盤のCBN2A10.BA0643、そして黒文字盤に18Kローズゴールドのリューズとプッシャーを組み合わせた両素材モデルCBN2A5A.FC6481である。本機はそのうち、青セラミックベゼルと青サンレイ文字盤、Hシェイプのインテグレーテッドブレスを組み合わせた構成を担う。
2015年、当時のCEOジャン=クロード・ビヴェールのもとで投入されたCarrera Heuer 01は、45mmのモジュラーケースとスケルトン文字盤でCarreraの姿を大きく書き換えた。続くHeuer 02搭載モデルも2017年以降、スケルトン主体で展開され、意匠的に攻めた方向へ振れていた。
本Refを含む2020年のSport Chronograph 44mmは、その流れに対する明確な揺り戻しとなる。トリコンパクスの3-6-9配置、立体的なアプライドインデックス、タキメータースケールの刻まれたベゼル ―― 1963年のRef. 2447が示した「視認性を最優先にしたドライバーズクロノグラフ」の文法を、44mmという現代的なサイズで再構築している。
2. シリーズ内での位置
本Refを含む4本は、自社製ムーブメントCal. Heuer 02を「古典的なCarreraの体裁」で標準ラインに据えた最初の世代である。先行する45mm Heuer 01世代から1mm小型化され、ラグも短く設計し直されたが、44mmという径は当時のスポーツクロノグラフとしては大きい部類に入る。
TAG Heuerは同じ2020年に、ベゼルにタキメーターを持たない薄型の「Carrera Chronograph 42mm」(CBN2010系列)も並行して展開した。本機の44mmはベゼル付きのスポーティな選択肢として42mmと役割分担される構造である。
3. 60周年への布石
Carreraは2023年に発表60周年を迎え、TAG HeuerはWatches and Wonders 2023で39mmのGlassbox世代と、Cal. Heuer 02の進化版であるCal. TH20-00を発表した。本Refはその刷新の直前世代であり、Heuer 02を古典的なCarreraの装いで標準ラインに据えた区切りを担う一本といえる。
意匠分析
44mmのスチールケースはファインブラッシュとポリッシュを組み合わせて構成される。ケース厚は公式値で15.27mm、ラグからラグまで49.2mm、ラグ幅は22mmである。ラグ内側のベベルが鏡面に磨かれ、上面はサテン仕上げで、稜線をくっきり立てる。これは1963年のRef. 2447から一貫する角張ったラグの解釈であり、サイズが拡大した44mmにあっても識別性を担保する。
リューズは黒PVDコートのスチール製でねじ込み式、ケースバックもスチール製のスクリューダウン仕様にサファイアを嵌めている。100m防水を確保したうえで、ローターの動きを直接観賞できる構成である。
文字盤は青のサークルブラッシュ仕上げを基調とし、外周のミニッツトラックと中央エリアの間に細かなフルーテッド模様が刻まれる。アプライドのバトンインデックスはロジウムプレートされ、ホワイトSuper-LumiNovaが充填される。針もバトン型で、根元側に黒のラッカーストライプを通して視覚的なリズムを与える。
サブダイヤルのレイアウトは古典的な3-6-9配置を採るが、その内訳に固有の選択がある。3時位置に30分積算計、9時位置に12時間積算計、そして6時位置にスモールセコンドと日付窓が同居する。Cal. Heuer 02の機構配置に従って6時の小針が秒の経過を示し、その下に白地のデイトディスクが顔を覗かせる。3時と9時のサブダイヤルにはスネイル仕上げのアズラージュが施され、本体ダイヤルからわずかに沈む。
固定式ベゼルはマット仕上げの青セラミックで、外周のエッジを鏡面で磨き、白く刻まれたタキメータースケールがコントラストを与える。ドーム形状にベベル加工を施したサファイア風防は両面ARコーティングを備え、視認性とヴィンテージ的なシルエットを両立させている。
ブレスレットは新設計の「Hシェイプ」インテグレーテッドブレスで、3列構成のセンターリンクが両側のラグへ流れ込む。中央リンクはポリッシュ、外側リンクはサテンで仕上げを切り分ける。フォールディングクラスプはダブルセーフティのプッシュボタン式である。先代Heuer 01世代のCarrera 45mmブレスと比べて、厚みと重量がいずれも抑えられている。
系譜と歴史
2020年7月9日、TAG HeuerはCarrera Sport Chronograph 44mmコレクションを発表し、本Refはその4本のうちの一本として世に出た。同時に発表されたのは、CBN2A1B.BA0643(黒文字盤・黒セラミックベゼル)、CBN2A10.BA0643(緑文字盤・スチールベゼル)、そしてCBN2A5A.FC6481(黒文字盤・両素材・レザーストラップ)である。発表時の希望小売価格は欧州5,450ユーロ、米国5,750ドル、スイス5,600スイスフランで設定された。発表年は新型コロナウイルス感染症の影響でBaselworldが中止された年であり、本コレクションはオンラインプレスリリースと自社メディアを通じて披露された。
本Refにはレザーストラップ仕様の派生CBN2A1A.FC6537が同シリーズ内に存在し、ブレス仕様の本機と並んで現行ラインナップにとどまる。
2023年3月のWatches and Wondersで、TAG HeuerはCal. Heuer 02ファミリーの新世代「Cal. TH20-00」を発表した。本Refもその後、双方向自動巻きローター、シールド型スケルトンローター、メーカー保証5年を備える同等ムーブメントを搭載する個体へ移行している。一方でTAG Heuer公式サイト上では引き続き「Heuer 02」の名称で記載されており、文字盤6時下方にあった「HEUER 02 80 HOURS」の刻印が省かれた個体も流通する。
同44mmケースを共有する派生は60周年(2023年)以後も拡張が続き、緑文字盤・グリーンセラミックベゼル・ラバーストラップのCBN2A1N.FT6238等が追加された。Sport Chronograph 44mmという括りは、青と黒の基幹Refを残しつつ、派生を交換しながら継続している。