設計思想
1. 50周年と160周年のあいだに
CBL2111.BA0644は、ふたつの周年のあいだに置かれたRefである。2019年はモナコ誕生から50周年、2020年はTAG Heuerの前身であるHeuerが1860年に創業して以来の160周年であり、本Refはその継ぎ目にあたる2020年10月に発表された。
50周年に向けた2019年の動きの中で、TAG Heuerはモナコにとって半世紀ぶりの大きな機構刷新を行っている。1969年のオリジナルCalibre 11以後、モナコの自動巻きクロノグラフは長らく既製ベースムーブメントにDubois-Depraz製クロノグラフモジュールを組み合わせた構成が主流であった。2017年に登場した自社設計のキャリバーHeuer 02を載せるためには、モナコの角型ケース内部を作り直す必要があり、その成果が2019年11月にレザーストラップ仕様で投入されたCBL2111.FC6453である。
本Ref CBL2111.BA0644は、このCBL2111.FC6453の青文字盤・ケース構成を引き継いだうえで、もうひとつの大きな変化を加えた。約20年ぶりとなるスチールブレスレットの復活である。
2. ブレスレットの再来
モナコにとって、金属ブレスレットは長らく不在の選択肢であった。1970年代初頭にはNSA(Novavit S.A.)製の「Mark 1」と呼ばれるH字型ブレスレットがRef. 1133系に組み合わされていたが、ヴィンテージ期以降のモナコは長年レザーストラップを基本としてきた。ブレスレットを伴う新作モナコの正式な投入はおよそ20年ぶりとされ、本Refはその系譜の継ぎ目に位置する。
新設計のブレスレットは、ヴィンテージ オリジナルの折り曲げ板金構造をソリッドリンクに置き換え、表面仕上げにブラッシュとポリッシュの切り分けを設けた現代的な解釈となっている。発表時のリリース文では、ラショードフォンのTAG Heuerミュージアムにあるアーカイブを起点にしたと説明されている。
3. 兄弟Refとの関係
2020年10月の同時発表では、本Refを含む3つのモデルが並んだ。同じスチールブレスレット仕様で黒文字盤のCBL2113.BA0644、レザーストラップで黒文字盤のCBL2113.FC6177、そして本Refの3者である。前年発表のCBL2111.FC6453(青文字盤・レザー)を加えれば、青/黒 × レザー/ブレスレットの4つの組み合わせが揃う構成となった。色とストラップだけが異なるこの構成は、キャリバーHeuer 02世代のモナコにとっての標準パレットを成している。
意匠分析
本Refの構造は、1969年のRef. 1133でエルヴィン・ピケレー(Erwin Piquerez)が手がけた角型ケースの輪郭を引き継ぎつつ、ムーブメントの世代交代に伴う再設計を内側に抱えている。
ケースは39mm角、厚さ15.21mm、ラグ間距離22mmのファインブラッシュド/ポリッシュ仕上げのスチール製。前世代のCalibre 12搭載モデル(CAW2111系)も39mm角であったため寸法上の差分は大きくないが、本Refはリュウズが3時位置に置かれている点で1969年オリジナル(リュウズ9時、当時のCal. 11由来)と趣を異にする。キャリバーHeuer 02が伝統的なクラウン位置を採用しているためであり、操作性の面では一般的な構成に近づいた。
文字盤はブルーのサンレイブラッシュ仕上げで、3時位置に30分積算計、9時位置に12時間積算計を持つコンパックス・レイアウト。6時位置に小秒針と斜めにデートウィンドウを配する。インデックスとアワー/ミニッツハンドにはホワイトのSuper-LumiNovaが充填され、センターセコンドと積算計の針には赤のアクセントが入る。地の青、銀の積算計、白と赤の小要素という色彩の組み立ては、ヴィンテージ モナコの文法を引き継いだ構成といえる。
サファイアクリスタルにはドーム状の面取りが施され、ケース外周のエッジと組み合わさって立体感を生む。サファイア製のシースルー裏蓋からは、Heuer 02の象徴である赤く塗られたコラムホイールが視認できる。
ブレスレットは1970年代のRef. 1133系に組み合わされたNSA製ブレスレットを下敷きにしたH字型構造。ただし当時の折り曲げ板金リンクではなく、各リンクをソリッド構造として再設計されている。中央リンクはポリッシュ、外側リンクはブラッシュド、エッジは面取り研磨されており、現代のスポーツウォッチに求められる仕上げ密度に揃えられた。バックルはプッシュボタン式のフォールディングクラスプを採用する。
系譜と歴史
CBL2111.BA0644の物語は、前年2019年11月6日にスイス・ラショードフォンで発表された姉妹Ref CBL2111.FC6453から始まる。同Refは、モナコ誕生50周年を締めくくる位置づけで投入され、半世紀の歴史の中でモナコが初めてTAG Heuer自社開発のキャリバーHeuer 02を搭載した個体である。ブルー サンレイ文字盤とアリゲーターレザーストラップという構成で、これが現在のCBL2111ベースモデルの起点となった。
翌2020年10月8日、TAG Heuerは同じくラショードフォンより、キャリバーHeuer 02搭載モナコの追加3モデルを公式発表する。本Ref CBL2111.BA0644(青文字盤・スチールブレスレット)、CBL2113.BA0644(黒文字盤・スチールブレスレット)、CBL2113.FC6177(黒文字盤・レザーストラップ)が同時に披露された。同時期のTAG Heuerは創業160周年を迎えており、ブランド全体の節目に合わせた発表となった。
本Ref固有のトピックは、約20年ぶりにモナコへ金属ブレスレットが復活したことにある。1970年代のRef. 1133系に与えられていたH字型の意匠を下敷きとした新設計のブレスレットが、本Refと姉妹Ref CBL2113.BA0644に与えられた。
販売は2020年10月から、TAG Heuer公式オンラインストア、直営ブティック、正規販売店を通じて開始された。2024年以降、TAG Heuerのムーブメント呼称体系の再編により、本Refのキャリバーは公式仕様上「TH20-00」とも記載されるが、機械的な内容は登場時のキャリバーHeuer 02と同一とされる。本記事執筆時点では現行ラインナップに継続している。