系譜と歴史
1. 開発の背景
ルイ・ヴィトンが本格的に機械式時計へ参入したのは、初代タンブールが登場した2002年である。当初のムーブメントは、ETAやデュボア・デプラ、ラ・ジュー・ペレ、ゼニスといった外部の専業メーカーから調達していたとされる。
転機は2011年に訪れた。ミシェル・ナヴァスとエンリコ・バルバシーニが2007年にジュネーブで創業した工房、ラ・ファブリク・デュ・タンを買収したのである。2014年にはジュネーブ近郊のメイランに製造拠点を開設する。以後、スピンタイムやトゥールビヨン、ミニッツリピーターなど複雑機構の自社開発を重ねた。
一方で、日常使いの3針自動巻に専用機はなかった。2023年、タンブールは厚さ8.3mmの一体型ブレスレットモデルへ全面刷新される。この薄型ケースのために開発されたのがLFT023である。ブランドは本機を、同工房が設計した初の専用3針自動巻と位置づけている。
2. 共同開発という選択
LFT023は、ラ・ファブリク・デュ・タンが単独で作り上げた機械ではない。パートナーは、ムーブメント専業のル・セルクル・デ・ゾルロジェ(Le Cercle des Horlogers)である。同社はラ・ショー・ド・フォンに拠点を置き、時計ブランドのスピーク・マリンと同じオーナーの傘下にある。
専門誌の報道によれば、ラ・ファブリク・デュ・タンは設計と外観・装飾の定義を担い、一部部品も製造したという。基本構造はル・セルクル・デ・ゾルロジェのマイクロローター機と共通するとされる。スピーク・マリンのCal. SMA03-Tとは、いわば同系統の兄弟機にあたる。
ただし両機の仕立ては異なる。SMA03-Tは直径30mm・厚さ3.9mmで、ローターにタングステンを用いる。対するLFT023は30.6mm・4.2mmで、22Kゴールド製のローターを採る。受けの仕上げや石の色も含め、共通の骨格にそれぞれの設計思想を載せた例といえる。完全自社製とも汎用エボーシュとも異なる、専用設計の共同開発機と位置づけられる。
3. 派生と展開
LFT023 PSは、6時位置にスモールセコンドを備える仕様を指す。PSはセンターセコンド仕様のCSと区別するための呼称で、公式資料ではいずれも単にLFT023と表記される。初搭載はステンレススチールのRef. W1ST10とRef. W1ST20で、2023年7月に発表された。同年秋には金無垢やバイカラーが加わった。2025年にはセラミックケースのモデルや、オニキス文字盤、プラチナケースの限定モデルにも展開している。
2024年には、エスカル初の3針モデルにセンターセコンド仕様のLFT023 CSが搭載された。公表石数は32石とされ、受けの意匠にも細かな差異があると伝えられる。
4. 業界での位置
近年、マイクロローター自動巻を積む薄型の一体型ブレスレットウォッチが相次いでいる。ブルガリのオクト フィニッシモや、ショパールのアルパイン イーグル XPSがその例である。LFT023も同じ系譜に属するが、モノグラムを多用しない抑制的な意匠で独自の輪郭を示した。
2025年、ラ・ファブリク・デュ・タンは中央ローター式のCal. LFT MA01.01を発表する。脱進機など一部を除く部品の製造と組み立てを自社工房で行う自動巻とされる。受けの仕上げには、LFT023で示された意匠の語法が引き継がれた。発表当時、ブランド側はLFT023を今後のムーブメント設計の方向性を示すものと語ったと伝えられる。その言葉どおり、本機は同工房の新世代ムーブメントの起点に位置づけられる。