設計思想
1. スチール2本で始めた刷新
2023年のタンブール刷新は、時計部門の方針転換と一体で進められた。部門を率いるジャン・アルノーは、流行に合わせた短い開発周期を改め、製品群の多くを整理した。その基盤として一から設計し直されたのが、一体型ブレスレットを持つ新しいタンブールである。
発表時に用意されたのは、スチールの2本だけだった。金や宝飾ではなくスチールで幕を開けた理由を、ブランドは日常に着ける時計という位置づけを示すためと説明している。
2本は同じ構造を持ち、文字盤の色だけが異なる。ブランドはグレーのW1ST10を同系色でまとめたトーン・オン・トーンと呼び、本機の青を対比の効いた深い青と紹介した。静かな質感と明快なコントラストという2つの見せ方を、最初から並べて示したことになる。
2. 前任を持たないRef
W1ST20に直系の前任Refはない。2002年のRef. Q11310以来、タンブールは厚いケースに張り出したラグを組み合わせた造形で知られてきた。本機はラグを廃し、厚さを8.3mmまで絞った。専門誌は、旧世代になかった独立したベゼルが、薄さの印象をさらに強めていると指摘している。
同じ時期に残されたタンブール ストリートダイバーは、専門誌の比較で径44mm・厚さ12.8mmとされ、旧来の量感を保つ。2つを並べると、刷新が寸法の上でどれほど大きな断絶だったかが分かる。一方で、裾広がりの側面と周縁の12文字は引き継がれた。記号を残したまま、寸法と構成を組み直したのである。
3. 青が担った役割
一体型ブレスレットのスチール製スポーツウォッチにおいて、青い文字盤は定番の色である。専門誌も本機の青を、この分野の古典、あるいは予想どおりの選択と評した。ただしルイ・ヴィトンにとって、この選択には別の意味もあった。
初代タンブールは、モノグラムを思わせるブラウンと山吹色で旅の出自を語った時計である。しかし刷新の最初の2本には、メゾンの色ではなくグレーと青が選ばれた。ブラウンの文字盤が戻るのは、同年秋のローズゴールド仕様W1PG10においてだった。
まずこの分野に共通する色で時計としての出来を問い、ブランドの色は後に回した順序と読める。流行の文脈を離れ、本格的な時計として立つという刷新の狙いを、専門誌は発表時に伝えていた。本機の青は、その姿勢を端的に示す選択だったといえる。
4. コレクションの中の青
その後、2023年秋には金を用いた3仕様が加わった。2025年には、セラミックの仕様と宝飾の限定モデルも登場している。それでも一体型ブレスレットのタンブールに、青い文字盤は追加されていない。確認できる範囲では、コレクションで青い文字盤を持つのは本機だけである。素材の格で広がっていく仕様群の中で、本機はスチールと色の組み合わせだけで個性を示す。発表から3年を経ても、W1ST20は刷新の出発点をそのままの形で伝えている。
意匠分析
本機の設計を語ることは、ほぼ文字盤の青を語ることに等しい。ケースからムーブメントまでの構成が、グレー文字盤のW1ST10と変わらないためである。
文字盤は周縁から中央へ段を下る構成をとる。外周の分目盛りリングと内側の時字リングはマイクロサンドブラストによる梨地で、両者の間を鏡面の段差が区切る。5分ごとの目盛りは刻み込みで表し、時字は6時を除く偶数時にアラビア数字、奇数時にバーを置く。6時位置のスモールセコンドは渦巻き模様、中央部は縦方向のブラッシュ仕上げである。数字、インデックス、針はいずれも18Kホワイトゴールドで、数字と針に夜光塗料が施される。
グレーのW1ST10では、ホワイトゴールドのパーツは地色に近く、質感の差で読ませる構成になる。深い青の本機では、同じパーツが明度の差によって浮かび上がる。梨地、ブラッシュ、渦巻きという3種の仕上げも、青の上では反射の強弱として現れる。中央の縦ブラッシュは光の向きで表情を変え、周囲の光によっては別の色に見えるほどだと評された。
針は先細りのファセットを持つ透かし構造で、外側の空洞に夜光を充填する。旧世代より細身とされ、文字盤の余白を広く残す。数字と目盛りを除けば、文字盤上の表記は2つの署名だけである。12時側の「LOUIS VUITTON PARIS」と、スモールセコンド下の「FAB. EN SUISSE」である。
ケースは裏側へ向かって広がる太鼓型の側面を保つ。ベゼル部分で測った幅は36〜37mmほどという計測報告もあり、径40mmより小ぶりに見える一因となっている。薄いベゼルの側面は梨地で、12文字が鏡面のレリーフとして並ぶ。裏蓋はわずかに膨らみ、手首に沿う形をとる。
ブレスレットはラグを介さず、ケース側面下部の切り欠きに取り付けられる。幅はケース側の23mmから18mmへ絞られ、ブラッシュ仕上げのリンクを鏡面の丸い中間リンクがつなぐ。クラスプは3枚ブレードの隠し式で、薄さを優先して微調整機構を省いたと説明されている。
ムーブメントはCal. LFT023で、ルイ・ヴィトンの工房が専業メーカーと共同開発した自動巻である。ジュネーブ天文台のクロノメーター認定を受ける。裏側から見える軸受石は無色透明である。スチールと青で組み立てられた時計の中では、マイクロローターのローズゴールドが数少ない暖色として目を引く。
系譜と歴史
2023年7月5日、ルイ・ヴィトンは一体型ブレスレットを備えた新しいタンブールを発表した。発表時のラインナップはスチールの2本で、グレー文字盤のW1ST10と、ブルー文字盤の本機W1ST20である。注文は同社ブティックで受け付けられ、最初の納品は同年9月と報じられた。
同年秋には金を用いた3仕様が加わった。スチールとローズゴールドのW1SP10、ローズゴールドのW1PG10、イエローゴールドのW1YG10である。これでコレクションは5仕様となり、追加された3本の文字盤はシルバーグレー、ブラウン、白系だった。
2025年2月には、ブラウンのセラミックとローズゴールドを組み合わせたW1CR10が加わった。同時に、イエローゴールドのW1YG20とプラチナのW1PT10という、宝石をセットした限定モデル2本も発表された。いずれも径40mm・厚さ8.3mmの寸法を保ち、Cal. LFT023を搭載する。
2026年9月時点で、W1ST20は公式サイトに現行品として掲載されている。同じ時点の公式サイトには、グレーの中央部を黒い時字リングで囲んだW1ST30も載る。ケースバックに「1 of 100」と刻まれたスチールの限定モデルである。本機のケース寸法、防水性能、搭載キャリバーは、発表時の報道と一致している。確認できる範囲では、生産期間中の仕様変更は公表されていない。
出典
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