系譜と歴史
1. 開発の背景
ルイ・ヴィトンのワールドタイムは、2014年のバーゼルワールドで発表されたエスカル ワールドタイムに始まる。手描きの旗で都市を表した円盤は、同社の時計を象徴する意匠となった。当時の機械は、ETA 2892-A2を土台に、ラ・ファブリク・デュ・タンが製作したワールドタイム機構を重ねたものとされる。同工房はミシェル・ナヴァスとエンリコ・バルバシーニが2007年に興し、2011年にルイ・ヴィトンの傘下に入った。
初代は都市・時・分を3枚の回転円盤で示し、中央の三角形の指標で時刻を読む構成であった。時と分の円盤が連続的に動くため、正時の前後では読み取りに迷いやすかったと複数の専門誌が指摘している。
2024年、エスカルは時刻表示のみのコレクションとして再出発し、複雑機構はいったん姿を消した。その間に工房は自動巻の自社開発を進め、2025年には設計から手がけた初の自動巻LFT MA01.01を送り出す。ただしこの系列は小径で、スピンタイム用は直径23mmにとどまった。専門誌SJXは、40mm前後のケースには小さいと評している。
2. 新しい中型ファミリー
2026年1月のLVMHウォッチウィークで、ルイ・ヴィトンはエスカルに5つの複雑機構モデルを加えた。その土台となったのが、中型の新しい自動巻ファミリーである。Cal. LFT VO12.01はその中核の一つで、ワールドタイムの復活を担った。
設計の主眼は、初代の個性を保ちながら読みやすさを改めることにあった。時の表示を跳躍式の円盤に、分を中央の針に替え、正時の曖昧さを取り除いている。都市と時刻をリュウズだけで合わせる操作系は、初代から受け継がれた。同誌は、その造りと仕上げを、ジュネーブの工業的な高級時計製造の水準に並ぶものと評している。
3. 派生と展開
同じ設計系列からは、2つの派生機が同時に発表された。LFT VO05.01は、文字盤中央にフライングトゥールビヨンを据えたワールドタイムである。ナヴァスによれば、中央に空間を空けるため、回転円盤や跳躍する時の円盤、基幹部の部品を外周側へ移したという。分は針ではなく、トゥールビヨン周囲の指標で示す。
LFT VO15.01は、中心4本針のデュアルタイムを備えたツインゾーン用の機械で、本機と同じ基盤に立つとされる。本機が24の標準時を一望させるのに対し、VO15.01は30分・45分ずれの時差まで分単位で追う。1つの基盤から、旅の時刻を扱う2つの解法が並んで示された。
4. 業界での位置
腕時計のワールドタイムは、1930年代にルイ・コティエが確立した方式を長く基本としてきた。都市リングの内側で24時間リングが1日1回転し、現地時刻は時針と分針が示す構成である。今日の多くのワールドタイムも、針による現地時刻の表示を踏襲している。
ルイ・ヴィトンのワールドタイムは、2014年の初代から時針を持たない。現地の時は、24時間ディスクを三角形の指標で読み取る構成である。Cal. LFT VO12.01は、その円盤を毎正時に跳躍する方式に改めた。これにより、ワールドタイムの24時間表示とジャンピングアワーが1枚の円盤に重なった。初代以来の針に頼らない表示系を、読み取りの確かさの面から作り直した点が、この機械の要点である。