設計思想
1. スチールで始まった刷新と、本機の位置
2023年の刷新で、ルイ・ヴィトンが最初に前面へ出したのはスチールのタンブールだった。ブランドは、発表をスチールの2本で飾ることで、日常使いの時計という性格を強調したと説明している。貴金属の仕様は、それに続く段として位置づけられた。
同年秋に加わった3本のうち、金無垢の2本はケースもブレスレットも金で仕立てられた。これに対し本機だけが、スチールを主素材に残したまま金を取り入れている。スチールで示した造形を崩さずに、貴金属の格をどこまで足せるか。本機は、その問いに対する一つの答えとして読める。
2. W1ST10から何を変え、何を残したか
本機の基準となるのは、グレー文字盤のスチール版W1ST10である。ケースの寸法、文字盤の構成、Cal. LFT023という中身は共通する。ケースの胴とブレスレットの幅広のリンクも、スチールのまま据え置かれた。
変わったのは、金を置く場所である。ベゼルと竜頭、ブレスレットの中間リンクがローズゴールドとなった。文字盤の時字、数字、針も、ホワイトゴールドからローズゴールドへ改められている。部品の数で見れば限られた変更だが、時計全体の色調は単色から暖色を含む2色へ移った。
ブランド側の説明では、本機はスチール版の簡潔な作風を最も色濃く受け継ぐ仕様とされた。装飾を足すのではなく、仕上げと細部に視線を集める。その考え方を崩さずに、金の温かみだけを加えた点に本機の要がある。
3. 抑制されたバイカラー
スチールと金を組み合わせるバイカラーは、日常の時計に金の華やぎを持ち込む手法として長く用いられてきた。一方で、金の面積と置き場所しだいで印象が大きく変わる手法でもある。
本機が選んだのは、金を少数の部品に絞る方法だった。オランダの専門誌は実機レビューで、本機を趣味のよいバイカラーと評した。同誌は、かつて大ぶりで主張の強かったタンブールが、声を張らない洗練へ転じたとも記している。本機の抑えた金の使い方は、その転換を分かりやすく示す例といえる。
スチール版の軽快さと、金無垢の華やぎ。素材の上で両者のあいだに立つ本機は、その中間を求める装いに向けた選択肢と読める。
4. 後続に残した手法
2025年2月、ルイ・ヴィトンはブラウンセラミックと18Kローズゴールドを組み合わせたW1CR10を発表した。ベゼルと竜頭はセラミックとされ、金の配分は本機と異なる。それでもブレスレットには、主素材のリンクの間にローズゴールドの中間リンクを挟む構成が採られた。
主素材を保ち、中間リンクで金を差す。本機で示されたこの手法は、素材を替えて再び用いられたことになる。本機は単独のバイカラー仕様にとどまらず、2023年世代のタンブールが素材を組み合わせる際の一つの型を示したと読める。
意匠分析
W1SP10の設計は、スチール版W1ST10の造形を受け継ぎ、金を置く場所だけを選び直したものである。公式仕様と発表資料でローズゴールドとされる部品は、外装の3か所と文字盤の3種に限られる。
ケースでは、金はドラム型の胴の上端に一本の輪として載る。裾広がりに膨らむ側面、つまりタンブールを特徴づける部分はスチールが担う。横から見ればスチールの輪郭が保たれ、正面からは文字盤を縁取る金の輪が現れる。ベゼル周縁の「LOUIS VUITTON」の12文字も、本機ではローズゴールドの浮き彫りとなる。LVのロゴを配した竜頭も同じ金で、ベゼルと竜頭が一組の差し色として働く。
文字盤は、公式にはグレーとされる。専門誌は、W1ST10のシルバーグレーの文字盤と意匠は基本的に同じだと評した。変わったのは、その上に載る金属である。W1ST10は時字、数字、針をホワイトゴールドとし、ブランドは同系色でまとめた仕様と説明していた。本機ではそれらが18Kローズゴールドに置き換わる。冷たい灰色の地に暖色の金属が立ち、文字盤は明暗の差だけでなく色の差でも読まれるようになった。専門誌の中には、本機の文字盤を2トーンのグレーと記すものもある。縦方向のブラッシュ仕上げの中央部と梨地のリングが、異なる明度の灰色を見せるためと考えられる。夜光塗料は針と数字に施される。
ブレスレットでは、ブラッシュ仕上げのスチールの幅広リンクの間に、鏡面仕上げの小さな中間リンクが挟まる。本機ではこの中間リンクが金となる。中間リンクは小ぶりなスタジアム形であるため、金は帯ではなく、ブレスの中心線に沿って並ぶ点の連なりとして現れる。一般にバイカラーは、金の面積が増えるほど華やかさが前に出る。本機は金を最小の部品に限り、スチールの印象を主役に据えたと読める。ベゼルから続く金の点列は、ケースとブレスを一本の軸でつなぐ役割も果たす。
裏側のサファイアクリスタル越しには、22K(916/1000)ローズゴールドのマイクロローターが見える。W1ST10では、暖色の金が現れるのはローターをはじめ裏側に限られていた。本機はその色を表側へ引き出した構成とも読める。外装の金は18K(750/1000)で純度は異なるが、表と裏で金の色の系統はそろう。Cal. LFT023の機構はスチール版と同一であり、詳細はキャリバー記事に譲る。
系譜と歴史
本機が初めて言及されたのは、2023年7月の新しいタンブールの発表時である。このとき販売の先陣を切ったのは、スチールのW1ST10とW1ST20である。ただし米国の専門誌は、スチールと18Kローズゴールドのバイカラーも年内に続くと報じていた。同年10月初旬に掲載された別の専門誌の記事も、7月の発表を全5仕様の構成として紹介している。
正式な追加は同年10月である。10月中旬には、シンガポールの専門誌が新しいタンブールのレビューで、展開仕様の一つとして本機を挙げた。10月24日には英国の業界誌が、金を用いた3仕様の追加を報じている。グレー文字盤の本機、ブラウン文字盤のローズゴールド製W1PG10、白文字盤のイエローゴールド製W1YG10である。翌11月5日には、オランダの専門誌が本機を単独で取り上げた実機レビューを掲載している。
2025年2月、ブラウンセラミックと18Kローズゴールドを組み合わせたW1CR10がコレクションに加わった。同時に、プラチナのW1PT10とイエローゴールドのW1YG20という2本の限定モデルも発表された。いずれも本機と同じ径40mm・厚さ8.3mmのケースを用いる。
2026年9月の時点でも、本機は米国の公式サイトに掲載が続いている。公表されている寸法、防水性能、キャリバーは、2023年の報道から変わっていない。生産期間中の仕様変更は、確認できる範囲では公表されていない。公式サイトとWatchBaseで確認できる限り、スチールとローズゴールドを組み合わせた2023年世代のRefは本機のみである。
出典
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