本文へ
CALIBER · Hermès

H1950

自動巻 Automatic Analog

2015年、ヴォーシェのVMF 5401を基に厚さ2.6mmへ収めた、エルメスの極薄マイクロローター自動巻キャリバー

振動数
21,600 vph · 3 Hz
パワーリザーブ
42 時間
石数
29 石
ムーブメント径
30 mm
Cal. H1950
movement · H1950 図: ムーブメント — WatchBase
01 — OVERVIEW

概要

Cal. H1950は、エルメスが2015年にSlim d'Hermèsとともに発表した極薄の自動巻きキャリバーである。製造を担うのは、エルメスが出資するヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエ。同社のVMF 5401を基に、受けと装飾をエルメス向けに改めた。直径30mm、厚さ2.6mmの機械を小径のマイクロローターで巻き上げる。毎時21,600振動 (3Hz)、29石、パワーリザーブ42時間を備える。時分とスモールセコンドの基本形のほか、永久カレンダーやGMTのモジュールを重ねる土台としても使われてきた。

02 — SPECIFICATIONS

仕様

MakerHermès
ReferenceH1950
TypeAutomatic(自動巻)
DisplayAnalog
Frequency21,600 vph (3 Hz)
Jewels29 石
Power reserve42 h
Movement ⌀30 mm
HandsHours, Minutes, Small Seconds
03 — EDITORIAL

系譜と歴史

Genealogy & history

1. 開発の背景

エルメスの機械式時計づくりで転機となったのは2006年である。この年エルメスは、フルリエのヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエの株式25%を取得した。ヴォーシェはサンド・ファミリー財団傘下のムーブメント専業メーカーである。パルミジャーニ・フルリエなど、限られたブランドに機械を供給してきた。

この関係から生まれた機械の一つがCal. H1950である。新しいドレスウォッチの構想は、当初から極薄であることを前提にしていた。計画を率いたのはクリエイティブディレクターのフィリップ・デロタルで、薄いケースに収まる自動巻が求められた。

2. 2015年の登場と出自

H1950は、2015年のバーゼルワールドでSlim d'Hermèsとともに発表された。エルメスはこれを「マニュファクチュール・エルメス」の機械と呼ぶ。

ただし基になったのは、ヴォーシェが他社にも供給する極薄マイクロローター機VMF 5401である。ヴォーシェは一定数以上の注文に対し、受けの形と装飾を顧客ごとに変える仕立てを用意している。H1950では、直線的で幾何学的な受けの輪郭がエルメス向けに改められたとされる。同じヴォーシェのマイクロローター機は、パルミジャーニ・フルリエの薄型モデルにも使われてきた。

H1950は、設計の骨格を共有しながら仕上げと意匠で固有の顔を持つ機械である。エルメスの資本が入った専業メーカーが、エルメス専用に仕立てた形と言い換えられる。

3. モジュールの土台として

H1950は発表の年から、複雑機構を重ねる土台を兼ねた。2015年の永久カレンダーは、H1950にアジュノール(Agenhor)のモジュールを重ねた構成である。アジュノールは、ジャン=マルク・ヴィドゥレクが率いる工房である。永久カレンダーに加え、ムーンフェイズ、第二時間帯、昼夜表示を備える。このモデルは2015年のジュネーブ時計グランプリ(GPHG)でカレンダー部門賞を受けた。

2018年には、同じくアジュノール製のモジュールを重ねたGMTモデルが続いた。日付と第二時間帯、二つの時間帯それぞれの昼夜表示を持つ。現行のカタログでも、永久カレンダーはH1950にモジュールを重ねる構成のままである。

4. 業界での位置

ヴォーシェはH1950のほかにも、複数の高級ブランドへ機械を供給している。H1950は、専業メーカーの共通設計とブランド固有の仕立てを組み合わせる、スイス時計産業の分業の一例である。

2026年には、ヴォーシェがVMF 5400系の後継としてVMF 5500を発表したとされる。寸法と取り付け位置を保ち、従来機と入れ替えられる設計だという。H1950への影響は、本稿の時点では明らかでない。

04 — MECHANISM

技術解説

Technical breakdown

マイクロローターと厚さ2.6mm

H1950の厚さは2.6mm、直径は30mm(13¼リーニュ)である。表示は時分と、6時位置のスモールセコンドである。薄さを支えるのが、小径の回転錘であるマイクロローターだ。

一般的な自動巻は、機械の背面全体を覆う中央ローターを持つ。ローターが受けの上に重なるため、その分だけ厚くなる。マイクロローターは回転錘を受けと同じ高さに組み込むので、この重なりが生じない。ベースのVMF 5401は、回転錘が一方向に回るときだけ巻き上げる方式とされる。

小径の錘は慣性が小さく、巻き上げ効率では不利になりやすい。H1950は、この不利を抱えながら薄さを優先した設計である。直径30mmという比較的大きな径は、部品を平面方向に配する余地にもなる。

調速機構

振動数は毎時21,600振動 (3Hz)である。テンプが1秒間に3往復し、時計は1秒を6つに刻む。毎時28,800振動 (4Hz)の機械に比べ、テンプの往復は少ない。一般に、その分だけ香箱のエネルギーの消費は緩やかになる。

ベースのVMF 5401は、慣性可変テンプを採用する。テンプの外周に金の慣性ブロックを置き、これを回して慣性モーメントを変えることで歩度を整える。緩急針でヒゲゼンマイの有効長を変える方式と異なり、ヒゲゼンマイに触れずに調整できる。調速機構は、サンド・ファミリー財団傘下のアトカルパが手がけるとされる。

輪列とパワーリザーブ

石数は29石である。ベースのVMF 5401の部品数は、ヴォーシェの仕様書で160とされる。パワーリザーブは42時間である。極薄の機械では香箱を厚くできず、ゼンマイの幅と長さに限りがある。駆動時間は、高さの制約と釣り合いを取って決まる値である。

仕上げ

H1950の受けは、手作業で面取り(アングラージュ)される。受けの縁を斜めに削って磨く仕上げで、機械加工の面では得にくい光の線が輪郭を際立たせる。受けの表面には、エルメスの頭文字Hを散らした装飾が施される。英語の資料では「sprinkling of Hs」と紹介される意匠で、シースルーバックから見える。

モジュールとの組み合わせ

H1950は、厚さ1.4mmの追加モジュールを重ねる前提でも使われる。永久カレンダーとGMTのどちらの構成でも、機械全体の厚さは4mmにとどまる。基本機の2.6mmが、複雑機構を載せても薄いケースに収めるための余地を生んでいる。モジュールは、ジュネーブの複雑機構の専門工房アジュノールが開発した。

05 — CARRIERS

このキャリバーを搭載する 5 本のリファレンス

This caliber appears in 5 references
06 — SOURCES

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

  1. 01 公式 Slim d'Hermes Quantieme Perpetuel watch, 39.5 mm 公式 · Hermès · 2026.10.16 閲覧 Hermès · 2026.10.16
  2. 02 公式 SEED VMF 5401 公式 · Vaucher Manufacture Fleurier · 2026.10.16 閲覧 Vaucher Manufacture Fleurier · 2026.10.16
  3. 03 報道 Hermès pays $19.8 million for 25 percent of Swiss watch parts maker 報道 · JCK · 2026.10.16 閲覧 JCK · 2026.10.16
  4. 04 専門メディア Hermès - Major Investment In Switzerland 専門メディア · Fédération de l'industrie horlogère suisse FH · 2026.10.16 閲覧 Fédération de l'industrie horlogère suisse FH · 2026.10.16
  5. 05 専門メディア The Slim d'Hermès Quantième Perpétuel Platine watch - A confluence of watchmaking skills 専門メディア · La Cote des Montres · 2026.10.16 閲覧 La Cote des Montres · 2026.10.16
  6. 06 専門メディア Vaucher Manufacture Fleurier Unveils the VMF 5500, Its Upgraded Micro-Rotor Movement 専門メディア · Monochrome Watches · 2026.10.16 閲覧 Monochrome Watches · 2026.10.16
  7. 07 専門メディア Slim d'Hermès GMT: 'Let's Play' With This Useful, Attractive Travel Companion 専門メディア · Quill & Pad · 2026.10.16 閲覧 Quill & Pad · 2026.10.16
  8. 08 専門メディア Hermès Introduces the Slim d'Hermès GMT 専門メディア · SJX Watches · 2026.10.16 閲覧 SJX Watches · 2026.10.16
  9. 09 専門メディア Up Close With The Slim d'Hermes – Simple, Original And Affordable 専門メディア · SJX Watches · 2026.10.16 閲覧 SJX Watches · 2026.10.16
  10. 10 専門メディア Hermès Celebrates The Slim d'Hermès Anniversary With a New Perpetual Calendar 専門メディア · Swisswatches Magazine · 2026.10.16 閲覧 Swisswatches Magazine · 2026.10.16
  11. 11 専門メディア Hermès caliber H1950 専門メディア · WatchBase · 2026.10.16 閲覧 WatchBase · 2026.10.16
  12. 12 専門メディア Hermès Turns a New Calendar Page with Slim d'Hermès Quantième Perpétuel in Titanium 専門メディア · WatchTime · 2026.10.16 閲覧 WatchTime · 2026.10.16
  13. 13 専門メディア Hermès Slim D'Hermès Quantième Perpétuel Platine Watch 専門メディア · aBlogtoWatch · 2026.10.16 閲覧 aBlogtoWatch · 2026.10.16