設計思想
1. 2017年、リイシューの潮流のなかで
2010年代半ば、機械式時計の市場ではヴィンテージ復刻が主要な潮流の一つとなっていた。各社がアーカイブを掘り起こし、過去の意匠を現代の素材と機構で再現する動きが続くなか、Seikoもまた自社の起点であるダイバーズウォッチに目を向ける。2017年3月のBaselworldで発表されたのが、SLA017である。日本国内向けにはSBDX019の型番が与えられ、内容は同一の時計として扱われる。原器は1965年に登場した62MAS、すなわちSeikoが、そして日本の時計産業が初めて手がけたダイバーズウォッチ(Ref.6217-8000/8001)である。
2. 「Re-creation」と「Re-interpretation」の二層構成
このBaselworldで62MASを軸にSeikoが提示したのは、単一のモデルではなく三本一組のコレクションだった。SLA017は最も原器に忠実な「Re-creation」と位置づけられ、Grand Seikoの9S55ムーブメントを源流に持つ高グレードCal.8L35を搭載する。これに対し、より広い価格帯向けに「Re-interpretation」として用意されたのがSPB051とSPB053(Cal.6R15)であり、両者は意匠を現代化したうえで日常域に下りてくる兄弟関係にある。SLA017は、原器の輪郭を最も尊重した上位機としての役割を担う。
3. 62MAS系譜における位置
62MASの「現代再構築」という発想は、2020年に発表55周年を記念するSLA037(Cal.8L55)へと引き継がれる。その意味で、SLA017は復刻シリーズの最初の到達点であり、Cal.8L35という4Hz世代の機構と、原器に近い39.9mmのスチールケースを併せ持つRefとして、シリーズ史のなかで独自の位置を占める。後年のSLA037がハイビートの振動数とエバーブリリアントスチールへとケース素材を更新するなか、SLA017は4Hzで原器の質感を残した世代として記録されることになる。
意匠分析
ケース径は39.9mmで、原器の37mmから1.9mm拡大されている。当時の縮尺をほぼ維持しつつ、現代の手首にも収まる寸法へと再設定された。ケース厚は14.1mm、ステンレススチール製で、表面にはスーパーハードコーティングが施される。形状はクッション型と短いラグを継承し、平面部のサーキュラーブラッシュ仕上げも原器を踏襲する。リューズはガード無しの大型タイプで、3時位置にむき出しのまま立つ。
風防はAR(無反射)コーティングを施したボックス型サファイアクリスタルへと更新された。これは原器のアクリル風防が持つ厚みと膨らみを、傷耐性のあるサファイアで再現するための選択である。回転ベゼルは細幅で、12時位置に夜光ドットのみを置く設計が継承される。
ダイヤルはダークチャコールグレーで、控えめなサンレイ仕上げが入る。3D刻印の時字はダイヤル本体と一体で立ち上がる構造を採り、後年の植字方式とは異なるアプローチを取る。針と時字にはルミブライトが充填され、暗所視認性を担保する。日付窓は3時位置、白地のディスクで明度差を取る。
ケースバックには原器と同じドルフィンエンブレムがエングレービングで残され、2,000本のシリアル、「Made in Japan」「Air Diver's 200m」の刻印が周囲を囲む。ムーブメントCal.8L35は岩手県の雫石高級時計工房で組み立てられる、無装飾ながら高耐久を志向した自動巻機構である。納品時にはダイヤパターンのシリコンストラップとステンレスブレスレットの二本が付属する。
系譜と歴史
SLA017J1の発表は2017年3月、スイス・バーゼルで開催されたBaselworld 2017のSeikoブースで行われた。同時にSPB051とSPB053の現代再解釈モデルを含む、三本一組の62MASインスパイアコレクションとして公開された。日本国内向けの型番はSBDX019が割り当てられ、SLA017J1は国際市場向けの型番として展開された。世界2,000本限定で、両型番は実質的に同一個体として扱われる。
一般販売は2017年7月から各国の正規販売網を通じて順次開始され、国際市場での参考小売価格はEUR 3,800、米国市場では3,400 USD前後で設定された。生産は岩手県盛岡市の雫石高級時計工房で行われた。2,000本という供給量は当初から完売が予測されており、発売開始からほどなく正規流通からは姿を消した。
2020年には62MAS発表55周年を記念するSLA037(Cal.8L55、エバーブリリアントスチール製、1,100本限定)が発表され、Seikoの「62MAS復刻」というテーマは新世代の機構と素材へと移行した。SLA017J1はその意味で、復刻シリーズの起点となった限定Refとして位置づけられる。