設計思想
50周年が求めた「外胴」の刷新
セイコーは1965年、国産初のダイバーズウオッチ62MAS(Ref.6217)を世に出した。その発売50周年にあたる2015年、同社は記念の集大成として、ダイバーズの象徴である外胴プロテクター付きモデル群を一斉に刷新した。同年3月19日のプレスリリースで発表された陣容には、通常品のSBDX014のほか、限定の機械式1000mモデルSBDX016、クオーツ限定SBBN029、そしてハイビートCal.8L55を積む限定SBEX001が並ぶ。SBDX014はこの記念年の中核を担う、数量限定ではないレギュラーモデルとして位置づけられた。海外市場へはSBDX014Gの品番で展開され、ツナ缶の愛称で知られるこの系統が国際的に正規流通する契機ともなった。
SBDX011からの世代交代
直接の前任は、2009年に登場した初の自動巻1000mツナ、SBDX011である。黒い硬質コーティングを施したチタン外装から「エンペラーツナ」の異名を得たこの機種に対し、SBDX014は構造を継承しつつ外装を作り直した。外胴プロテクターの素材はコーティングチタンからジルコニアセラミックスへ改められ、耐傷性が大きく向上した。日付表示は3時位置から4時と5時の間へ移され、インデックスの配列が対称に整理された。夜光は残光時間を従来比で約60%延ばした新世代ルミブライトに変わり、バンドは引張強度を高めた強化シリコンとなった。りゅうずには新設のプロスペックスのXマークが刻まれ、ブランド再編後の世代であることを示している。
金色が呼び起こす系譜
このRefを特徴づける金色には出典がある。1978年の世界初クオーツ飽和潜水用防水モデル7549-7009は、窒化チタン処理に由来する金色の外装から「ゴールデンツナ」と呼ばれた。SBDX014の金色めっきはその記憶を装飾として再現したものであり、処理の副産物だった色を意匠として選び直した点に、記念モデルとしての性格が表れている。1975年の6159-7010が築いた自動巻とチタンワンピース構造、1986年以降の1000m防水、そしてゴールデンツナの色彩。半世紀の要素をひとつの現行機にまとめた構成が、このRefの本質である。
兄弟機と後継
同じ2015年の刷新では、金色装飾を持たない黒一色の自動巻1000mモデルSBDX013も登場しており、SBDX014とは意匠違いの関係にある。世代交代は2020年に訪れた。国産ダイバーズ55周年にあたり、エバーブリリアントスチール製ベゼルやアロー型分針を採用したSBDX038(海外名SLA042)が8月8日に発売され、自動巻1000mツナの系譜はそちらへ引き継がれた。SBDX014は、外胴シリーズが現代素材へ移行する転換点に立った世代として記憶される。
意匠分析
SBDX014Gの根幹は、裏ぶたを持たないチタン製ワンピースケースにある。ムーブメントを文字盤側から収める一体構造に独自のL字パッキンを組み合わせ、飽和潜水時のヘリウムガス侵入そのものを遮断するため、ヘリウムエスケープバルブを必要としない。この構造の外側を覆うのがジルコニアセラミックス製の外胴プロテクターで、衝撃からケースを守ると同時に、回転ベゼルの誤操作を防ぐ。前任SBDX011ではコーティングチタンだった部位であり、素材変更によって日常的な擦り傷への耐性が一段と高まった。
公式値でケース外径52.4mm、厚さ17.2mmと数字は大きいが、ラグを持たず、バンドがケース下面に取り付く構造のため、装着時は腕に載る塊として安定する。りゅうずは伝統の4時位置で、手の甲への干渉を避ける。文字盤はつや消しの黒。丸ドットに3・6・9時の長円、12時の三角を組み合わせたインデックスは、暗中での形状識別を前提とした配置である。日付は4時と5時の間に置かれ、黒い日車が地色に溶け込む。
金色は回転ベゼル、りゅうず、外胴を留めるビス、針の縁取りに及び、黒いセラミックとの対比で輪郭を引き締めている。風防は防曇処理を施したサファイアガラス。夜光は2015年世代の新ルミブライトで、残光時間は従来品から約60%延びたとされる。バンドは蛇腹状の強化シリコンで、ウェットスーツの収縮に追従する伸縮構造を持ち、尾錠はチタン製である。
ムーブメントのCal.8L35は、グランドセイコーの9S55を母体に装飾と調整を簡素化したダイバーズ専用機で、雫石高級時計工房が組み立てる。毎時28,800振動 (4Hz)、約50時間パワーリザーブ、日差+15秒〜-10秒。JIS1種の耐磁性能(4,800A/m)も備え、外装と同じく実用本位の設計思想で貫かれている。
系譜と歴史
SBDX014は2015年3月19日、国産ダイバーズウオッチ発売50周年を記念する外胴シリーズ刷新の一環として発表された。バーゼルワールド2015の会期に合わせた発表であり、海外専門誌も同会場で実機を報じている。国内発売は2015年8月8日。先行して同年7月10日には、50周年記念限定の機械式1000mモデルSBDX016とクオーツ限定SBBN029が発売されており、SBDX014はこれらに続く通常生産品として市場に出た。海外市場へは品番SBDX014Gとして展開され、日本国内専売だった前任SBDX011とは異なり、欧米でも正規流通した。
生産期間中に公式発表を伴う仕様変更は確認されていない。文字盤表記は一貫して「MARINEMASTER PROFESSIONAL」で、プロスペックスのXマークは文字盤には載らず、りゅうずへの刻印にとどまる。この表記は2015年世代の識別点として、後継世代との区別に用いられる。
2020年8月8日、国産ダイバーズ55周年を機にリニューアルされたSBDX038(海外名SLA042)が発売され、自動巻1000mモデルの現行機はそちらへ移行した。SBDX014の販売はこの世代交代の前後に終了したとされるが、生産終了の正確な時期は公式に告知されていない。発表から終売まで約5年、限定品が並ぶ記念年にあって通常品として供給され続けた点が、このRefの生産史の特徴である。