設計思想
高価な復刻のあとに置かれた、現実的な現代版
セイコーが二代目ダイバーズ6105-8110を現代仕様で公式に再構成する動きは、2019年のSLA033から始まった。SLA033はバーゼルワールド2019で発表された限定2,500本の忠実な復刻で、グランドセイコー系の8L35ムーブメントを搭載し、4,250米ドルという価格帯で世に出ている。仕上げや機構の妥協は少ない一方、所有しうる層は限られた。
SPB151と姉妹機SPB153は、その翌2020年に発表された、いわば「より広い読者へ向けた手紙」である。価格はSLA033のおよそ四分の一に抑えられ、限定ではない通常生産モデルとして提示された。バーゼルワールド2020が新型コロナウイルス感染症の影響で中止された年でもあり、製品情報はブランドから直接配信される形となった。
6105-8110から、何を運び、何を置いてきたか
オリジナルの6105-8110は1970年から1977年まで生産された約44mm径のクッションケース機で、4時位置に独特のロック付きリュウズ、150m防水、Cal.6105Bを備えていた。ベトナム戦争期に米兵が私物として持ち込み、冒険家・植村直己の北極圏での行動にも随伴し、1979年公開の『地獄の黙示録』でマーティン・シーン演じるベンジャミン・ウィラード大尉の手元に映ったことで、後年「キャプテン・ウィラード」と呼ばれるようになった。
SPB151は、この6105-8110の意匠的骨格、つまり非対称なクッション型ケース、4時位置の張り出したクラウンガード、外周にせり出したベゼル、四角形のアプライドインデックスを、ほぼそのまま運び込んでいる。一方で、ケース径は44mmから42.7mmへ縮められ、ラグ幅は19mmから20mmへ広げられた。防水は200mへ、ムーブメントは自動巻Cal.6R35(パワーリザーブ約70時間)、風防はサファイアへ更新される。オリジナルのバヨネット式ロックリュウズは継承されず、通常のねじ込み式に置き換わった。
SPB153との対、SPB237への布石
SPB151と同時に発表されたSPB153は、シリコンストラップでオリーブグリーンの文字盤・ベゼルを纏う姉妹機である。SPB151が黒文字盤・ブレスの基準色仕様、SPB153が色違いという関係にある。
翌2021年5月、セイコーはこの系譜にSPB237(グレーのテクスチャー文字盤)とSPB239(62MAS系)を「Re-Interpretation」として加えた。SPB237はSPB151と同じクッションケースを共有しつつ、ヴィンテージライクな色味と、日本の伝統技法に由来する「精中(セイチュウ)」織りのファブリックストラップを採用している。SPB151は、その後数年にわたって流通したのち、2024年後半にセイコー日本公式サイトから外れたと愛好家コミュニティで報告されている。
意匠分析
SPB151のケースは、6105-8110から受け継いだクッション型(枕型)を基本とする。直径42.7mm、厚み13.2mm、ラグ間距離は46.6mmに収まる。径の割にラグが短く、内側へ曲がり込むため、装着感は数値が示すほど大柄ではない。素材はステンレススチールで、表面にはセイコー独自のDiaShield硬化処理が施され、傷への耐性が引き上げられている。
最大の意匠的特徴は、4時位置のリュウズとそれを覆う一体型のクラウンガードである。ガードは右側面が大きく張り出し、ケースに非対称のシルエットを与える。手の甲側への当たりを抑える機能設計であると同時に、6105-8110を「ウィラード」たらしめている造形そのものでもある。オリジナルのバヨネット式ロックリュウズは継承されず、通常のねじ込み式に置き換えられた。
ベゼルはアルミインサートを用いた一方向回転式で、外周がケースから一段せり出す形状を取る。歯はオリジナルよりも太く深く切り込まれ、グローブ越しでも操作しやすい。文字盤はマットブラックで、四角形のアプライドインデックスにはルミブライトが厚く塗布される。秒針の先端には赤いストップライト型のチップが残されており、視認性と1970年代風の意匠を同時に担う。ロゴまわりのレイアウトは現代版で整理され、12時上部に「Seiko」、6時上部に「Automatic / Diver's 200m」と置く構成となる。
風防はドーム状のサファイアで、内面に反射防止コーティングが施される。ケースバックはねじ込み式の無垢仕様で、中央にプロスペックスの波ロゴが彫り込まれる。ブレスはラグ幅20mmで、三つ折りクラスプにセキュアロックとプッシュボタン式エクステンダーを備える。バックル単体の存在感はヴィンテージ系のオリジナルよりも明確に大きく、現代的なボリュームを持つ。
系譜と歴史
SPB151は2020年4月にセイコーから発表された。同年はバーゼルワールドが新型コロナウイルス感染症の影響で中止となった年で、新作の情報は各ブランドから直接配信される形を取った。発売は同年6月以降に各市場へ順次広がり、米国市場では希望小売価格1,300米ドルで提示されている。日本市場ではJDM(日本国内向け)型番としてSBDC109が割り当てられ、グローバル型番SPB151J1と並走して流通した。
同時発表として、オリーブグリーンの文字盤・ベゼルにシリコンストラップを組み合わせた姉妹機SPB153(JDM型番SBDC111)が並ぶ形で展開された。両者は通常生産モデルとして位置づけられ、限定生産ではない。
翌2021年5月には、同じクッションケースを共有しつつグレーのテクスチャー文字盤と精中織りファブリックストラップを採用したSPB237(JDM型番SBDC143)が「Re-Interpretation」として追加された。同日、62MASライン側からSPB239も発表されており、ヴィンテージダイバー再解釈の流れがプロスペックス内で広がっていく。
SPB151本体は数年にわたって流通したのち、2024年後半にはセイコー日本公式サイトのプロスペックスダイバーズ・ラインアップから外れたことが愛好家フォーラムで報告された。2026年時点では新規流通は限定的で、後継ナンバーは公式には公表されていない。