設計思想
55周年記念イヤーの最終章
2020年は、セイコーが1965年に国産初のダイバーズウオッチ(通称62MAS)を世に出してから55年の節目だった。この年のセイコーは記念モデルを段階的に投入しており、3月にはヒストリカルモデル3機種の復刻、7月には62MAS現代デザインをマリンブルーで仕立てた限定SPB149(国内Ref. SBDC107)を発売している。そして10月1日、記念イヤーを締めくくるラインアップとして発表されたのが、1965年初代の復刻SBDX039と、本機SPB183(国内Ref. SBDC123)である。両者を貫くのは、南極の海を想起させるマリンブルーという主題だった。62MASは1966年からの南極地域観測隊で過酷な環境に耐え、セイコーダイバーズの信頼性を最初に実証した。55周年の最後に原点の海の色へ立ち返るという構成である。
ベースとなった「1970 メカニカルダイバーズ 現代デザイン」
SPB183の土台は、2020年夏に発売されたばかりのSPB151/SPB153(国内Ref. SBDC109/SBDC111)である。原型は1970年の150mダイバーズ6105-8110。リューズを包み込む流線型のクッションケースと4時位置リューズを特徴とし、冒険家・植村直己が1974〜76年の北極圏12,000km犬ぞり単独行に携行したことで「植村ダイバー」と呼ばれる。海外では映画『地獄の黙示録』(1979年)で主人公が着用したことから「キャプテン・ウィラード」の愛称を持つ。2019年にはSLA033として上位ムーブメント8L35による忠実復刻が行われたが、限定かつ高価格であり、より広い層に向けた恒常モデルとして6R35搭載の現代デザイン版が2020年に投入された。SPB183は、登場から数ヵ月しか経っていないこの新世代ケースを、いち早く記念限定の器として用いた一本である。
青い限定が担った役割
SPB183の固有性は、機構ではなく色と数にある。ブラックのSPB151、オリーブグリーンのSPB153に続く第3の色として明るいマリンブルーを与えられ、5,500本の限定数と裏蓋のシリアルナンバーで恒常モデルと区別された。販路も特別で、国内ではセイコーグローバルブランドコアショップ専売とされた。仕様面ではSPB151の色違いに過ぎないが、55周年の物語を背負う点で単なるカラーバリエーションを超えた位置づけを持つ。この1970現代デザインの系譜はその後、2021年の植村直己生誕80周年記念モデル(国内Ref. SBDX045/SBDX047)で上位キャリバー8L35搭載へと広がっており、SPB183は拡張の起点近くで「記念年の青」を担った一本として残る。
意匠分析
SPB183の出発点は、原型6105-8110の造形をどう現代の寸法へ翻訳するかにある。ケース径は原型の44mmから42.7mmへ縮小され、厚さ13.2mm、縦46.6mmに収められた。リューズを包み込む非対称のクッションケースという要素は保ちながら、ラグを短くまとめることで、数字の印象より装着しやすいプロポーションになっている。リューズは原型と同じ4時位置で、ねじロック式である。ケース上面はヘアライン、側面はポリッシュと仕上げを切り分け、表面には硬質コーティングを施して日常の擦り傷に備える。
ガラスは内面無反射コーティング付きのカーブサファイア。縁の立ち上がりに原型のプロファイルの記憶を残しつつ、素材は現代の水準に置き換えられている。逆回転防止ベゼルはダイヤルと同じマリンブルーで統一され、針・インデックスに加えベゼルにもルミブライトが施される。明るめの発色を持つ青は、ブラックのSPB151ともオリーブのSPB153とも異なる本機だけの識別点で、セイコーはこれを南極の海になぞらえた。
ムーブメントは6R35。自動巻(手巻つき)、毎時21,600振動(3Hz)、24石で、パワーリザーブは約70時間。前世代6R15の約50時間から大きく延び、週末に止まりにくい実用性を得た。精度仕様は日差+25秒〜−15秒である。ブレスレットは3連で、ワンプッシュ三つ折れ中留にダイバーエクステンダーを備え、ラグ幅は20mm。総重量は180gとなる。付属のブルーの強化シリコン製替えバンドは限定仕様の一部で、裏蓋にはLIMITED EDITIONの文字と個体ごとのシリアルナンバーが刻まれる。
系譜と歴史
SPB183は2020年10月1日、セイコーウオッチ株式会社のプレスリリースで発表された。1965年初代ダイバーズの復刻SBDX039、「男はつらいよ」ビームスコラボのSBDX041とともに、「セイコーダイバーズウオッチ55周年記念」ヒストリカルコレクションの最終ラインアップを構成する発表だった。日本国内での発売は2020年11月7日。国内品番はSBDC123で、セイコーグローバルブランドコアショップ専売、価格は165,000円(税込)と告知された。海外市場ではSPB183J1として展開され、限定数は国内外合わせて世界5,500本。各個体の裏蓋にシリアルナンバーが入る。海外での店頭投入は2021年初頭にかけて順次進んだとされる。
一度限りの限定生産であり、生産期間中の仕様変更は確認されていない。文字盤・ベゼルの仕様も単一で、派生は存在しない。ベースのSPB151/SPB153はレギュラーモデルとして継続生産され、2021年7月9日には同じ1970現代デザインの系譜から、植村直己生誕80周年記念の限定SBDX045(世界限定1,200本)とレギュラーのSBDX047が8L35搭載・44mmケースで発売された。SPB183自体は限定数の販売終了をもって流通を終えており、現在は公式サイトのアーカイブにスペックが残るのみである。