設計思想
2015年、300mツナの世代交代
2015年7月、セイコーはマリーンマスター プロフェッショナル 300mダイバーズの中核を入れ替える。1986年に登場した初代モノコック7C46搭載モデルSSBS018の系譜を引く300mツナの最新世代として、SBBN031・SBBN033・SBBN035・SBBN037・SBBN039の5本が同時発表された。長らく現役だったSBBN015とSBBN017を一斉に置き換える刷新で、SBBN035はこの兄弟群のうちオールブラック仕様を担う立ち位置だった。
世代交代に際して目立った変更は、文字盤と針の意匠である。それまでのダイヤ型インデックスとペンシル型針に代わり、太い矢じり型針と立体的なアプライドインデックスが採用された。2013年に発表されたスプリングドライブツナの意匠言語を300mクォーツツナへ持ち込んだ格好で、視認性を高める一方で長年のファンの評価は割れた。
黒一色という機能的選択
SBBN035は、この新世代の中で唯一ケース全体を黒で統一したRefである。ベゼル、リューズ、外胴プロテクターまでステンレススチールに硬質コーティングを施し、文字盤やストラップを含めて文字通り全身黒で覆われている。
セイコーは公式説明の中で、深海では赤系の光から順に吸収されて金属の金色が色褪せて見えること、黒は深度を変えても色彩がほとんど変化しないことを挙げ、地上と水中で同じ視覚情報を得るための選択だと位置づけている。装飾的なブラックPVDではなく、潜水時の視認体験を平準化するための仕様であるという理屈である。
一代限りの「ニンジャ・ツナ」
SBBN031からSBBN039までの2015年世代は、いずれも2020年初頭までに生産を終えた。後継のSBBN045・SBBN047・SBBN049は風防がデュアルカーブ・ハードレックスからサファイアに替わり、針もかつてのSBBN015系に近い形状へ戻された。
公式の後継ラインに、SBBN035と同じ「コーティングによる全身黒」の300mツナは引き継がれなかった。結果としてSBBN035は、5年弱で生産を終えた一代限りの黒い300mツナとして、海外コレクターから「ニンジャ・ツナ」あるいは「ブラック・ツナ」「ニュー・ダース・ツナ」と呼ばれることになった。
意匠分析
黒一色で統一されたツナ缶のシルエット
SBBN035のケース径は47.7mm、厚さは14.7mmと、数字だけ見れば堂々たる寸法である。しかし1975年に始まる「ツナ缶」設計を継承し、ラグを持たず外胴プロテクター(シュラウド)が直接ストラップを受ける構造を採るため、ラグ・トゥ・ラグはケース径とほぼ同じに収まる。手首の内側へ張り出さず、視覚的なボリュームほどには嵩張らない。
ステンレススチール製の本体と外胴プロテクターには、セイコーが超硬質コーティング(ダイヤシールド系)と呼ぶ黒塗装が施されている。仕上げはマット寄りで、外胴プロテクターの側面は粗めのサテン、上面はわずかに均された質感となっており、艶を抑えた処理に統一されている。
視認性に振った文字盤と針
文字盤はマット仕上げの黒。バー型のアプライドインデックスがわずかに浮き上がり、12時にはダブルバー、その他の時刻位置にはシングルバーが配される。3時位置にはデイ・デイト窓が開き、英語と漢字の曜日表示を切り替えられる。
針はSBBN015世代から大きく変わった点である。時針は太い矢じり型、分針はファセットの効いた幅広のバトン、秒針の先端には円形のルミブライト。インデックスから針先まで広い面積にLumiBrite夜光が塗布され、低照度下での視認距離を最優先した設計となっている。一方で、夜光と針面のコントラストが強く、ヴィンテージ寄りの繊細さを好む層には賛否が分かれた意匠でもある。
風防、ベゼル、ストラップ
風防はデュアルカーブのハードレックス。中央が緩やかに盛り上がり、縁で再びカーブする独特の形状で、サファイアへ移行する前の300mツナを象徴するパーツである。逆回転防止のダイバーズベゼルはステンレススチール製で、黒のコーティングと白の数字・インデックスの対比で構成され、外胴プロテクターの開口部から操作する。
リューズは4時位置のねじロック式、外胴プロテクターの裾に守られ誤操作を防ぐ。ストラップは黒のシリコン製、長さ調整用のエクステンションを備える。バックルはステンレス製のシングルプッシュ式で、こちらも黒塗装で統一されている。
搭載されるCal.7C46は7石、月差±15秒、電池寿命約5年。1980年代後半に300mツナ向けに開発された高トルク・クォーツの末裔である。
系譜と歴史
SBBN035は、2015年7月にSBBN031・SBBN033・SBBN037とともに発表された。同じ7C46プラットフォーム上の300mマリーンマスター プロフェッショナルの新世代として、海外市場ではDarth Tunaに対する「Ninja Tuna」「Black Tuna」の通称が定着していった。少し遅れて、2015年内にはPADIコラボレーションのSBBN039が同シリーズに加わっている。
ケース型番は7C46-0AG0で、発表後の生産期間中に大きな仕様変更は確認されていない。文字盤、針、外胴プロテクター、シリコンストラップのいずれもデビュー時の構成で生産を継続したと伝わる。
国内の発表時定価は税抜120,000円。マリーンマスター プロフェッショナルとしては最も手の届きやすい価格帯に位置していた。
2020年初頭、SBBN031・SBBN033・SBBN035・SBBN037・SBBN039のいわゆる2015年世代は揃って生産終了となる。後継としてサファイア風防に切り替えたSBBN043(ブルーダイヤル)、SBBN045(黒ダイヤル/黒ベゼル/ラバー)、SBBN047(黒ダイヤル/シルバーベゼル/ブレスレット)が登場し、後にSBBN049も加わって300mツナのラインアップは継承された。ただしオールブラックの硬質コーティング仕様は、後継ラインに直接的な引き継ぎ先を持たず、SBBN035は5年弱の生産期間で完結したRefとなった。