設計思想
SBDX001から二代目への移行
セイコーのSBDX001は、2000年にプロスペックス・ラインの日本国内向け上位ダイバーとして登場した。1960年代の6215-7000・6159-7000の意匠を継ぐ44mm径のワンピース構造ケースと、グランドセイコーCal.9S55を基にしたCal.8L35を組み合わせ、ヘリウムエスケープバルブを持たずに300m飽和潜水対応をうたう独特の設計で、JDM限定モデルでありながら国際的なコレクター層を獲得していった。
このSBDX001は15年にわたり、目立った仕様変更を経ずに生産が続いた。2015年、セイコーはプロスペックス・ブランドの体系整理(全モデルへのXロゴ展開)と、自社ダイバーズウォッチ生産50周年(1965年の62MASを起点とする)というふたつの節目を迎える。長らく変わらなかったマリンマスター300にもようやく手が入り、SBDX001の後継として登場したのが本機SBDX017である。
変わったもの、変わらなかったもの
SBDX017は前任の意匠と機構の大部分を踏襲している。ケース寸法・形状、ムーブメントの基本仕様、4時位置リューズ、文字盤レイアウト、ハードレックス風防、ワンピース構造はそのまま継承された。
刷新は主に3点に集中する。ひとつ、ケースとブレス外面にセイコー独自の表面硬化処理「ダイヤシールド」が施された。耐傷性が向上し、ステンレス本来の色味よりわずかに暗いトーンを帯びる。ふたつ、リューズに「X」をかたどったプロスペックスのロゴがレーザーで刻印された。これは2014年以降進められたプロスペックス・ブランディング統一の一環である。みっつ、文字盤の夜光塗料「ルミブライト」が改良され、発光輝度と持続性が前任から底上げされた。これに加え、Cal.8L35内部部品にMEMS(微小電子機械システム)加工技術が導入されたとも伝わるが、公式の明示的な言及は限定的である。
シリーズ史におけるSBDX017の位置
SBDX017は、文字盤に「Marinemaster」の名を冠した最後の世代である。2018年に発表された後継SLA019(国内Ref. SBDX021)は、グリーン文字盤とセラミックベゼル、サファイア風防を備えた1,968本の限定生産であり、文字盤からマリンマスターの表記が消えてプロスペックスXロゴへと置き換えられた。翌2019年の通常後継SLA021(国内Ref. SBDX023)以降も、この命名方針が引き継がれている。
加えてSBDX017以降のマリンマスター系譜は段階的に国際展開へ向かい、SBDX(JDM)単独の流通という性格は薄れていく。本機は、四半世紀続いた「Marinemaster 300」というプロダクト名と、SBDXリファレンス時代の双方の終わりに位置するRefでもあった。
意匠分析
SBDX017の設計上の選択を、前任SBDX001との差分を軸に観察する。
ケースは直径44.3mm、厚さ14.6mm、ラグ間20mmのワンピース構造である。ミッドケースとケースバックを一体で削り出すモノブロック工法で、構造上ケースバック側からムーブメントにアクセスできない。風防、文字盤、針を外してフロント側からのみ整備する設計で、ヘリウムエスケープバルブを持たずに300m飽和潜水適性を確保する根拠となっている。フランクにはセイコーが磨き上げの代名詞とする「ザラツ研磨」が施され、面の歪みを抑えた鏡面が太い面取りに沿って走る。
前任との最も視覚的な差分は、ケースとブレス外面に施されたダイヤシールド処理である。セイコーが展開する表面硬化技術で、薄い被膜によりステンレス素地よりも傷が付きにくい層を形成する。視覚上は、前任のステンレス地よりわずかに暗く、グレー寄りのトーンになる。
リューズは4時位置のねじ込み式で、その天面に「X」をかたどったプロスペックスのロゴがレーザーで刻まれている。前任のリューズが無刻印だったため、識別性の高い差分となっている。
ベゼルは一方向回転のアルミインサート式で、表面はラッカー塗装で仕上げられている。後継世代以降はインサートのセラミック化が進んだため、ラッカー塗装のアルミインサートはSBDX001/017世代に共通する物質感である。
文字盤はマットブラックで、12時にダブルバー、6時・9時にバーインデックス、その他の位置にはドット状のインデックスを配する。インデックスと針には改良されたルミブライトが厚塗りされ、暗所での発光輝度は前任より向上したとされる。
風防は内面に反射防止コーティングを施したデュアルカーブのハードレックスで、サファイアより硬度では劣るものの、衝撃耐性を優先する選択が継承された。
ブレスは3連の中駒可動式で、留め具にはダイバーズエクステンションを備える。標準でブラックの「ワッフル」型ウレタンストラップが付属する。
系譜と歴史
SBDX017は2015年にセイコーがJDM(日本市場)向けRefとして発表・発売した。前任SBDX001は同年に生産を終え、ほぼ切れ目なく本機が引き継いだ形となる。
並行して2015年には、自社ダイバーズウォッチ生産50周年を記念する限定モデルSBDX012(1,000本限定、文字盤とベゼルに金色アクセントを加えたゴールド・ブラック仕様)が発売されている。SBDX012はSBDX001の意匠を踏襲した記念モデルで、ダイヤシールドを伴うSBDX017とは別系統の派生にあたる。
2016年、欧州限定200本のSLA015が発表された。ライトブルーのサンバースト文字盤に独自の針セットを与えた派生で、欧州市場向けに国際リファレンス「SLA」が当てられた点が、後のJDM/国際ライン統合の流れを示唆している。
2018年3月、セイコーはSBDX017を含む数本のJDM人気モデルの生産終了を販売代理店経由で告知した。後任となる通常生産モデルは同時には用意されず、ファンの間に空白期間への動揺が広がった。
同年のバーゼルワールドで発表されたSLA019(国内Ref. SBDX021)は、6159-7000登場から50年を冠する1,968本限定のグリーン文字盤モデルで、サファイア風防とセラミックベゼルを備えた事実上の世代後継機とされた。ただしこの時点で文字盤の「Marinemaster」表記は消え、プロスペックスXロゴへと置き換えられている。
通常生産の後継機は2019年のSLA021(国内Ref. SBDX023)として登場し、SBDX017の意匠と寸法を保ちつつ、セラミックベゼル・サファイア風防への更新を受けた。SBDX017はこのSLA021の登場をもって、Refとしても市場供給からも姿を消した。