設計思想
1. 実験機から10年後の発表
2012年3月26日、映画監督で探検家のジェームズ・キャメロンがマリアナ海溝の最深部に到達した。乗っていたのは単独潜水艇ディープシー・チャレンジャーである。艇外のマニピュレーターアームには、ロレックスが製作した実験機「ロレックス ディープシー チャレンジ」が固定されていた。時計は水圧に耐え、正常に作動したまま浮上したと公式は記録している。
126067-0001は、その10年後にあたる2022年に発表された。ロレックスは1960年のバチスカーフ「トリエステ」による潜航にも、実験機を同行させている。本機の裏蓋に刻まれた「Mariana Trench」の文字と2つの日付は、この2度の潜航を記念するものである。
2. 実験機から受け継いだもの、変えたもの
2012年の実験機は904Lスチール製で、径51.4mm、厚さ28.5mmに及んだ。耐圧性能は十分でも、重さが腕時計としての装着を阻んでいたと公式は説明する。量産化の要は素材の変更にあった。ケースとブレスレットをRLXチタンに置き換え、重量を実験機比で30%削っている。径は50mmに収まり、風防も14.3mmとされる実験機から9.5mmへ薄くなった。
防水の保証値は、実験機の12,000mから11,000mに定め直された。マリアナ海溝の最深部をなお上回る水深を、量産品として保証する値である。その裏付けとして、ロレックスは仏コメックス社と超高圧タンクを共同開発した。各個体は25%の余裕を見込み、13,750m相当の水圧で検査される。
3. シードゥエラー系譜の中での位置
ロレックスの深海用ダイバーズは、段階的に耐圧を高めてきた。1967年のシードゥエラーは、飽和潜水を背景にヘリウムエスケープバルブを備えた。2008年のディープシーは、リングロックシステムで3,900m防水に達している。ディープシー以降の防水値は、潜水士が実際に到達する水深を大きく超えており、技術的な実証の色合いが濃い。本機はその延長にあり、潜水艇の外に固定された実験機の性能を、腕に着けられる時計として量産化した存在である。
もう一つの意味は素材にある。本機はケースとブレスレットの全体をRLXチタンで構成した初のロレックスとなった。翌年のヨットマスター 42 226627へと続く、チタン製モデル展開の起点である。
4. -0001という初期仕様
本機には色や素材を変えた派生モデルが存在しない。同じ126067のまま、枝番が-0002へ移ったことが唯一の変化とされる。背景には、ディープシーのシードゥエラーからの独立と、文字盤からの「SEA-DWELLER」表記の削除があると伝わる。発表時にシードゥエラーの名を掲げた-0001は、ディープシー系列が独立する直前の区分を記録した仕様といえる。
意匠分析
ケースはRLXチタンの無垢材から削り出したモノブロック構造である。RLXチタンはロレックスがグレード5チタン合金に与えた呼称で、スチールより暗く沈んだ色調を見せる。ケースとブレスレットは粒子の目立つサテン仕上げで統一し、リューズガードのみを例外とする。ラグ上端のエッジには面取りとポリッシュを施し、湾曲した輪郭を際立たせた。
径50mm、厚さ23mmという寸法は、11,000m防水を成立させるための帰結である。耐圧を担うのはリングロックシステムで、ドーム型サファイアクリスタル、窒素合金スチール製リング、RLXチタン製裏蓋の3層からなる。風防の厚みは9.5mmに達する。リングは冷間加工で体積を約10%圧縮し、変形への耐性を高めた。公式資料は、本機では裏蓋がミドルケースへ直接ねじ込まれる点を特記する。ヘリウムエスケープバルブまでRLXチタンで作られている。
ベゼルは黒のセラクロム(ロレックス製セラミック)インサートを備えた逆回転防止式である。成形した凹部の数字と目盛りにはPVDでプラチナを被せ、ゼロ位置の三角マーカーには夜光カプセルを埋め込む。縁のローレットは手袋越しの操作を想定する。
文字盤は日付を持たない。ノンデイトのCal.3230を選んだことで、3時位置の窓とサイクロップレンズが省かれ、左右対称の構成となった。三角、円、長方形のインデックスと、形状と長さで明確に区別された針には、青く発光するクロマライト夜光を充填する。
ブレスレットもRLXチタン製の3連オイスターである。リンク内部のピン周りには特許取得のセラミックインサートを組み込み、摩耗を抑えつつしなやかさを確保した。クラスプは不意の開放を防ぐオイスターロックである。工具なしで約20mm伸縮するグライドロックと、約26mm伸びる折り畳み式のフリップロックを併載する。同じ2022年に更新されたディープシー 136660はフリップロックを外した。本機は両方を残し、7mm厚のダイビングスーツ上での装着を想定する。
ムーブメントは、2020年にサブマリーナー 124060で登場した自社製Cal.3230である。脱進機は高効率で耐磁性に優れるクロナジー・エスケープメント、ヒゲゼンマイは常磁性合金のブルーパラクロムである。毎時28,800振動 (4Hz)で約70時間駆動する。全体の重量は約251gとされる。
系譜と歴史
126067-0001は、2022年11月1日に発表された。ロレックスが例年春のWatches and Wondersで新作を披露するなか、会期外での公開だった。同年春にはディープシーが136660へ更新されたばかりで、その半年余り後に上位の深度帯を担うモデルが加わった形である。発表当初、ロレックス公式サイトは本機をシードゥエラーのコレクション内に掲載していた。限定数の設定は公表されていない。
2023年からは、ロレックス全体の変更としてムーブメントの刻印が改められた。ローターに「Chronometer Perpetual」、ブリッジに「Superlative Adjusted」の文字が入る。公式資料はこの変更を本機にも明記している。ただし裏蓋はRLXチタンのソリッドバックであり、外観から判別できる変化ではない。同年4月には、RLXチタン製の第2作としてヨットマスター 42 226627が発表された。
2024年4月、18Kイエローゴールドのディープシー 136668LBが発表された。同じ年、ディープシーはシードゥエラーから独立したコレクションとして扱われるようになった。同年半ば以降、ディープシー系列の文字盤から「SEA-DWELLER」の表記が外されたと伝わる。本機も同じ流れの中で、枝番を-0002へ改めたとされる。切り替えについて公式の告知はなく、時期は2024年から2025年にかけてと見られる。WatchBaseは-0001の生産期間を2022年から2025年とする。2025年春には、正規販売店の商品情報に-0002が掲載されている。
2026年現在、ロレックス公式サイトのディープシーのページには126067-0002が掲載され、-0001は生産を終えている。ケース径、防水性能、ムーブメントといった公式スペックに変更は見られない。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Watches - Rolex
- 02 専門メディア Rolex Movements Explained