設計思想
1. シードゥエラーの転換点に生まれた器
2008年、ロレックスは1967年以来のシードゥエラーの系譜に、もう一つの答えを用意した。1,220m防水のRef. 16600は同年にカタログを離れ、3,900m防水のディープシー 116660が後を継ぐ。ケース径は40mmから44mmへ拡大され、水圧を受け止める構造そのものが改められた。
黒文字盤の116660-0001は、耐圧性能を前面に押し出した道具としての性格が強い。6年後に加わるDブルー文字盤は、この同じケースに一つの出来事の記憶を重ねる試みとなる。
2. トリエステ号からディープシー チャレンジへ
ロレックスと海の最深部との関わりは、1960年のバチスカーフ「トリエステ」号に始まる。艇外に固定された実験機ディープシー スペシャルは、マリアナ海溝の底から作動を保ったまま戻った。
半世紀後の2012年、キャメロンの単独潜航に同行したのが実験機ディープシー チャレンジである。ロレックスによれば、この時計は116660のリングロックシステムを直接の下敷きに、数週間で開発された。径は51.4mmに拡大され、12,000m防水が保証された。量産機のために考案された構造が、そのまま海の最深部への拡張に耐えたことになる。
3. 文字盤だけで語るという選択
2014年は、シードゥエラーの再編の年でもあった。3月のバーゼルワールドで40mm径の116600が復活し、伝統的なシードゥエラー像はそちらが引き受ける形となる。ディープシーは、より深い領域を担う別系統として輪郭を明確にした。
同年夏に加わったDブルー文字盤は、潜航の記念をケースでも機構でもなく、色で表した。実験機との技術的な連続性は、リングロックを備えた量産ケースがすでに体現していたからである。発表の時期も、潜航を記録した映画の公開に合わせられた。
記念仕様でありながら、限定生産とはされなかった点も見逃せない。黒文字盤と並ぶ通常仕様としたことで、Dブルーはディープシーの2つ目の標準文字盤となった。一過性の記念品ではなく、世代を越えて受け継がれる前提がここで整えられた。
4. 後継世代への継承
2018年の126660は、新世代のCal.3235と見直されたラグを得たが、Dブルー文字盤はそのまま引き継いだ。2022年の136660でも、同じ文字盤が継続している。同年11月には、実験機を量産化したディープシー チャレンジ Ref. 126067がRLXチタン製で登場した。116660-0003は、キャメロンの潜航を起点とするこの系譜の最初の一本にあたる。
意匠分析
本仕様を黒文字盤の116660-0001から分けるのは、文字盤ただ一点である。12時側の鮮やかな青は、6時側へ向かうにつれて黒へと沈んでいく。ロレックスはこの配色を、海面の光が途絶える「トワイライトゾーン」になぞらえる。出来事を色の推移で図像化した文字盤は、実用本位の同社ダイバーズとしては異例と評された。
DEEPSEAの銘は、キャメロンの潜水艇の緑に着想を得たライムグリーンで刷られる。文字盤上の表記のうち、色分けされているのはこの一語のみである。三角・丸・長方形の大ぶりなインデックスと針には、青く光る独自の夜光クロマライトが充填される。夜光の配置は黒文字盤と同一で、グラデーションを導入しても視認性の設計は変えていない。
ケースは黒文字盤仕様と共通の44mm径で、厚みの大部分はリングロックシステムに由来する。水圧を受け止めるのは3つの部材である。5.5mm厚のドーム型サファイアクリスタル、窒素合金鋼のコンプレッションリング、チタン製ケースバックがそれにあたる。文字盤とベゼルの間に覗く「RING LOCK SYSTEM」刻印の内周リングが、このコンプレッションリングである。デイト窓にサイクロップレンズを持たない点は、同時代のサブマリーナ デイト 116610LNとの差異である。9時位置には、飽和潜水後の減圧時に内部のヘリウムを逃がすエスケープバルブを備える。
ラグ幅は21mmで、太いラグに対してブレスは細めに収まる。2018年の126660ではラグが細められ、ブレスは22mmへ拡幅された。分針と秒針も後継よりわずかに短く、外周のミニッツトラックに届き切らない。いずれも126660で手直しされた、この世代固有の特徴である。
ブレスレットはオイスターで、オイスターロック・クラスプに2種類の延長機構を備える。工具なしで2mm刻みに約20mmを調整できるグライドロックと、26mm延びるフリップロックである。フリップロックは、2022年の136660で省かれた。
ムーブメントは自社製のCal.3135で、毎時28,800振動 (4Hz)、パワーリザーブは約48時間である。磁気や温度変化に強い常磁性合金のブルーパラクロム・ヒゲゼンマイを備え、COSCのクロノメーター認定を受ける。後継の126660はCal.3235へ移行した。Dブルー文字盤と3135の組み合わせは、116660だけのものである。
系譜と歴史
116660は2008年のバーゼルワールドで、黒文字盤仕様として発表された。リングロックシステムとクロマライト夜光は、いずれもこのRefで初めて採用されたものである。
2012年3月26日、ジェームズ・キャメロンは潜水艇ディープシー・チャレンジャーに単身で乗り込んだ。マリアナ海溝チャレンジャー海淵への単独潜航で、到達水深は10,908mである。艇のマニピュレーターアームには、実験機ディープシー チャレンジが取り付けられていた。この遠征には、ロレックスとナショナル ジオグラフィック協会がパートナーとして参加していた。
Dブルー文字盤仕様の発表は、2014年8月4日である。ロレックスは新作を春のバーゼルワールドで披露するのが通例で、夏のオンライン発表は異例と受け止められた。4日後の8月8日には、潜航を記録した映画『DEEPSEA CHALLENGE 3D』が米国で公開されている。発表時の資料では、文字盤とDEEPSEA銘の色を除く仕様は既存の116660と同一とされた。
生産期間中に、ロレックスが公式に告知した仕様変更は確認されていない。2018年3月のバーゼルワールドで後継の126660が発表され、Dブルー文字盤もそちらへ移った。116660としての生産は同年に終わり、本仕様の製造期間は2014年から2018年までの約4年間となった。
出典
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