設計思想
1. 完成した構造を磨き直す世代
ディープシーは2008年の116660でリングロックシステムを確立し、2018年の126660でCal.3235と幅広のブレスレットを得た。2022年の時点で、基本構造はほぼ固まっていたといえる。3,900m防水という性能目標も初代から変わっていない。
第3世代の136660に課されたのは、性能の上積みではなかった。完成した構造を、日常の視点から磨き直すことである。136660-0004はその黒文字盤仕様である。2008年以来ディープシーの基本形であり続けた黒い文字盤を、第3世代で受け継いだ。
2. 変えたもの、変えなかったもの
44mmのケース径、3,900m防水、リングロックシステム、ヘリウムエスケープバルブ、Cal.3235。性能を規定する要素は、126660からそのまま引き継がれた。
変更はベゼル、日付窓、ケースバック、クラスプに集中する。いずれも水中での性能ではなく、見え方と着け心地に関わる部分である。とりわけフリップロック延長リンクの廃止は、潜水用の装備を一つ手放す判断であった。ディープシーが陸上で着けられる時間の長さを、設計の前提に組み込み始めたことの表れと読める。
3. 深さの役割分担が変わった年
136660が登場した2022年の秋、ロレックスは11,000m防水のディープシー チャレンジ(126067)を製品化した。トリエステ号(1960年)とジェームズ・キャメロン(2012年)の潜航に同行した実験機の系譜を、市販品に落とし込んだモデルである。
これにより、深さの限界に挑む役割はチャレンジが担うことになった。136660は、ロレックスの量産ダイバーズで3,900m防水を受け持つ標準機として位置づけ直されたといえる。本機の穏当な改良は、この役割分担とも整合する。
4. SEA-DWELLERの銘を刷った最後の黒文字盤
2024年、ディープシーがシードゥエラーから独立したコレクションとなったことで、本機の文字盤にある「SEA-DWELLER」の銘は過去の仕様となった。後継の136660-0006はRef番号を変えず、この表記を外した文字盤を備える。
ディープシーは2008年から16年間、シードゥエラー・ファミリーの一員として展開された。136660-0004は、その時代の最後の黒文字盤となった。同時期のD-Blue仕様136660-0003も同じ表記を持つ。青から黒へ移るグラデーション文字盤で、キャメロンの潜航を記念して2014年に116660へ加わった系譜を継ぐ。文字盤以外の仕様を本機と共有する兄弟機である。
意匠分析
本機の外装は、前任126660で整えられた44mmケースとラグの造形を土台にしている。変化が集まるのはベゼルである。ベゼルが薄型化され、厚さ5.5mmのドーム型サファイアクリスタルがより前に出て見えるようになった。クリスタルの外周には面取りが施され、低くなったベゼルとの段差を整えているとされる。
60分目盛りの逆回転防止ベゼルには、黒のセラクロム(ロレックス製セラミック)インサートを組む。目盛りと数字はPVDでプラチナを被膜し、ゼロ位置の三角マーカーには夜光カプセルを埋め込む。
マットな黒文字盤は、三角・丸・長方形のインデックスと太い針で構成され、クロマライト夜光が青く発光する。3時の日付窓は前任比で約8%拡大されたと伝わる。本機はサイクロップレンズを持たない。窓そのものを広げて読み取りやすさを補った格好である。文字盤外周の見返しには「RINGLOCK SYSTEM」「ORIGINAL GAS ESCAPE VALVE」の刻印が入る。文字盤に刷られた「SEA-DWELLER」の銘は、後継136660-0006との外観上の相違点となった。
防水構造はリングロックシステムに拠る。クリスタル、水圧を受け止める圧縮リング、チタン製ケースバックの3要素を重ね、ケースバックはねじ込み式のリングで押さえる。本機の圧縮リングは金属製で、窒素合金鋼とされる。ケースバックは意匠が改められ、RLXチタンの名を刻むようになった。
ブレスレットは3連のオイスターである。オイスターロック・クラスプにグライドロックを内蔵し、約2mm刻みで約20mmまで工具なしで長さを調整できる。前任のフリップロックは廃され、クラスプは短く軽くなった。理由は公表されていないが、陸上での装着感を優先した選択と読む向きが多い。
ムーブメントは2015年に登場した自社製Cal.3235で、ディープシーには2018年から載る。脱進機はニッケル・リン合金製で耐磁性を持つクロナジー・エスケープメントである。ヒゲゼンマイは常磁性合金製のブルーパラクロムで、毎時28,800振動 (4Hz)、パワーリザーブは約70時間となる。
系譜と歴史
Ref.136660は2022年春、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ2022の時期にロレックスのカタログへ加わったとされる。前任126660を継ぐ第3世代のディープシーである。黒文字盤の本機136660-0004と、D-Blue文字盤の136660-0003の2仕様で展開された。
同年11月には、RLXチタン製50mmケースで11,000m防水のディープシー チャレンジ(126067)が発表された。
生産期間中、外装に目立った仕様変更は確認されていない。なお公式資料によれば、ディープシーのCal.3235は2023年以降、自動巻きローターに改良型ボールベアリングを用いる。
2024年4月のウォッチズ&ワンダーズでは、初の18Kイエローゴールド製ディープシー136668LBが発表された。リングロックシステムの圧縮リングに、ブルーセラミックが初めて用いられたモデルである。同年、ディープシーはシードゥエラーから独立したコレクションとなり、文字盤から「SEA-DWELLER」の表記が外れた。これに伴い、黒文字盤は136660-0006へ、D-Blueは136660-0005へカタログ番号が切り替わった。表記変更の時期は、同年4月の見本市以前とする説と年央とする説があり、正確な月は定まっていない。
こうして136660-0004は、約2年でカタログから外れた。2026年9月時点で公式サイトに本機の掲載はなく、黒文字盤のRef.136660としては136660-0006が現行である。本機に限定版や地域限定仕様の存在は確認されていない。