設計思想
1. CODE 11.59 の影で告げられた世代刷新
2019年1月、ジュネーブのSIHHでAudemars Piguetが大きく打ち出したのは、新コレクション「CODE 11.59」であった。新形状ケースと一連の新型自社製ムーブメントを携えた発表は賛否を呼び、業界の関心を独占したと言ってよい。ロイヤルオーク・セルフワインディング41mm Ref. 15500STはその陰で告知され、必ずしも目立つ立ち位置には置かれなかった。
だがロイヤルオーク・コレクションの内側で見れば、本RefはCODE 11.59のために開発された新世代キャリバー4302を受け入れた、41mmセルフワインディングの世代刷新であった。2012年に登場した前任Ref. 15400STから、ちょうど7年が経過していた。
2. 15400STが抱えていた「ずれ」と、その解消
前任の15400STは、長年使われた自動巻Cal.3120を継承していた。Cal.3120はもともと39mmの15300ST向けに設計された比較的小径のムーブメントであり、41mm化された15400STのケースに対しては相対的に小ぶりだった。結果として3時位置の日付窓は文字盤中央寄りに位置し、その外側にもう1本の短い補助インデックスを置いて視覚的バランスを取る処理がなされていた。コレクター層からは「ムーブメントが小さすぎる」「日付位置に違和感がある」と評されてきた設計上の妥協である。
15500STは32mm径まで拡大されたCal.4302を搭載することで、この長く指摘されてきた点を解消する。日付窓は文字盤外周近くへ移され、補助インデックスは廃された。15500ST.OO.1220ST.01のブルー文字盤においても、その再構成は明確に視認できる。
3. ブティック専売のブルー、そして15510STへ
発表当初、15500ST.OO.1220ST.01のブルー文字盤はAudemars Piguet直営ブティックでのみ取り扱われるブティック・エクスクルーシブとして位置づけられていた。同時発表のグレー (.02)、ブラック (.03) が正規販売店にも流通したのに対し、ブルーだけが限定的な経路で扱われていたことになる。翌2020年にはシルバートーン文字盤の.04が加わり、ステンレス・ブレス仕様は4色構成へ広がっている。
15500ST世代は2022年、ロイヤルオーク誕生50周年に合わせて世代交代を迎える。後継のRef. 15510STは同じCal.4302を継承しつつ、ケースとブレスの仕上げ、ダイヤルのグランタピスリーをさらに磨き直したものである。15500STの生産期間はおよそ3年半。前任15400STの7年に比べれば短いが、その存在はロイヤルオーク・セルフワインディング41mmの現代化における過渡期の標識として記憶される。
意匠分析
ケースは41mm径、厚みは10.40mm。前任15400STの9.80mmから0.60mm厚くなった。新ムーブメントCal.4302の直径が32mmまで拡張されたことに合わせた寸法であり、装着時の体感差は限定的ながら、サイドプロファイルにはわずかな存在感の増しが見て取れる。シルエットを構成する八角形ベゼルは8本のホワイトゴールド製ヘックススクリュー(六角穴付きねじ)で留められ、ケース表面のヘアライン仕上げと面取りエッジの鏡面仕上げの切り分けも踏襲されている。
文字盤は「Grande Tapisserie」のギヨシェ柄を基に、いくつかの微細な改訂を受けた。第一に、外周の分目盛りが模様の上に印刷される従来仕様から、無地の独立した周縁部に印刷される形へと改められた。第二に、6時位置の「Automatic」表記は省かれ、自動巻きロイヤルオークとしては1972年の初代以降初めて、文字盤からこの語が消えた。第三に、3時の日付窓は外周方向へ移動し、隣接していた補助インデックスが廃止された。APのアプライドロゴはわずかに大型化し、インデックスと針も幅を増している。秒針のカウンターウェイトはスケルトナイズされ、針列全体に共通する開口処理へ揃えられた。スーパールミノヴァは、インデックスとロイヤルオーク・ハンドの双方に充填される。
ムーブメントには新世代の自社製Cal.4302が搭載される。CODE 11.59 セルフワインディング用に開発されたものを共有する自動巻きキャリバーで、毎時28,800振動 (4Hz)、70時間のパワーリザーブを備える。22Kゴールド製のローターはスケルトナイズされ、地板や受けにはコート・ド・ジュネーブ装飾とアングラージュが施されている。サファイアクリスタル製のシースルーバックを通して観察できる仕上げは、それ自体が15400ST時代のCal.3120とは異なる新世代の表現になっている。
ブレスは一体型ステンレススチール製の伝統的な仕様を継承し、APロゴをあしらったフォールディングクラスプで留める。15500ST.OO.1220ST.01では、ブルー文字盤と無垢ステンレスとの対比が、ケースとブレスの仕上げ切り分けをより鮮明に見せている。
系譜と歴史
2019年1月、ジュネーブで開催されたSIHH(現Watches and Wonders Geneva)において、Audemars Piguetはロイヤルオーク・セルフワインディング41mm Ref. 15500STを発表した。新コレクションCODE 11.59と同時のローンチであり、新自社製ムーブメントCal.4302を共有する形で送り出された。ステンレススチール・ブレス仕様は当初、ブルー (15500ST.OO.1220ST.01)、スレートグレー (.02)、ブラック (.03) の3色構成として案内された。同時に18Kピンクゴールド製のブレス仕様 (15500OR.OO.1220OR.01、ブラック文字盤) とレザーストラップ仕様 (15500OR.OO.D002CR.01、同じくブラック文字盤) も展開されている。
このうちブルー文字盤の15500ST.OO.1220ST.01は、Audemars Piguet直営ブティックでのみ販売されるブティック・エクスクルーシブとして位置づけられ、正規販売店ルートには流通しなかったと伝わる。発表時のスイス参考価格はステンレス・ブレス仕様で19,300スイスフランであった。2020年にはシルバートーン文字盤の15500ST.OO.1220ST.04が追加され、ステンレス・ブレス仕様は4色構成となる。
ロイヤルオーク誕生から50周年を迎えた2022年、Audemars Piguetはロイヤルオーク・コレクション全体を世代刷新する。41mmセルフワインディングは後継のRef. 15510STへと移行し、15500STシリーズは本Refを含めて生産終了となった。生産期間はおよそ3年半である。