設計思想
40周年という編集機会
2012年は、ロイヤル オーク誕生から40年の節目だった。1972年バーゼル フェアで発表されたRef. 5402を起点に、Audemars Piguetはこの記念年を「ジャンボの原点への回帰」と位置づけ、複数の特別作と並走させて15202の意匠改訂を行った。本Refはその改訂の中核である。
2000年のSIHHで発表された当時の15202は、5402の血脈を継ぐ「ジャンボ」の現行機としてすでに12年間流通していた。しかし文字盤の意匠は1972年当時のAシリーズとは異なる方向に進んでおり、APロゴは12時位置、タペストリー模様は粗めの「グランド タペストリー」、デイト窓には白い枠が回り、ブレスのクラスプはシングル フォールディングだった。これらを一度ほどき、1972年に近づけ直すのが本改訂の主眼であった。Ref. 番号自体は据え置き、サフィックスと細部仕様だけを刷新する手法が選ばれている。
「ジャンボ」から「エクストラシン」へ
呼称も同時に変わった。1970年代、39mmのスチール製スポーツ ウォッチは「ジャンボ(大型)」と呼ぶに値する寸法だった。しかし2012年の時計市場は、1993年に登場したロイヤル オーク オフショアが42mm超で隣に並び、ダイバー、パイロット、クロノグラフ各分野で44mm超のケースが日常化していた。同じ39mmが「ジャンボ」ではなく「エクストラシン(超薄型)」と呼ばれるべき時代に入っていたのである。本Refから公式名称が「Extra-Thin」に切り替わったことには、時計市場全体のサイズ感が大型へ振れたあとの、ブランドの再定義が刻まれている。
二針プラス デイトという潔さ
ロイヤル オーク シリーズには、本Refとは別系統の「セルフワインディング」ラインが存在する。中央秒針を備え、Cal. 3120系を搭載するRef. 15300、15400、15500、現行15510がそれにあたる。両者は同じ39〜41mm のスポーツ ウォッチでありながら、ムーブメント構成と全体厚が異なる。
15202系統は秒針を持たず、ケース厚を8.1mmに抑える。これはCal. 2121(直径28mm × 厚さ3.05mm)という極薄ムーブメントが許す構造であり、1972年のRef. 5402が本来持っていた性格——華奢でもなく、厚みでもない、ぎりぎりの均衡——を最も忠実に継いだラインなのである。本Refはその系統の、Cal. 2121を搭載する最終世代に位置する。
バトンタッチ
2021年3月、当時のCEOフランソワ=アンリ・ベナミアスはAP Social Clubのオンライン発表会で本Refの2022年廃番を予告した。翌2022年1月、ロイヤル オーク50周年の節目に、外寸はそのままに新世代の自社ムーブメントCal. 7121を搭載した後継Ref. 16202ST.OO.1240ST.01が発表され、本Refは約10年の生産期間を経てカタログから退いた。1972年の意匠を最も濃く呼び戻した10年として、シリーズ史の節目に立つRefとなった。
意匠分析
39mmという径と8.1mmという厚みは、本Refの根幹である。1972年に「ジャンボ」と呼ばれた寸法は、現在の感覚ではむしろ控えめだが、Ref. 16202と外寸を共有するこの数字に、半世紀近く動かないデザインの非妥協性が宿る。サファイアクリスタル製ケースバックを備える構造上、原点の5402(モノコック ケースで約7mm厚と伝わる)よりわずかに厚いが、それでも8.1mmという数字は自動巻ロイヤル オークの中で最薄の部類に属する。
文字盤は深い青の「プチ タペストリー」仕上げである。15202系統でも2012年以前の世代は格子の粗い「グランド タペストリー」を採用していたが、本Refではマス目を細密にし直されている。タペストリー彫りに用いるのは、テンプレートから真鍮素材の文字盤ブランクへ模様を転写する旧来のパントグラフ装置で、2012年からこの工程はAudemars Piguet自社内へ移管された。
時針・分針および12個のアプライド アワーマーカーは、すべてホワイトゴールド製。表面に夜光塗料が塗布されるが、青文字盤との対比は端正で、ダイバーズ的な誇張がない。デイト窓は3時位置、印字色は文字盤と同調する黒で、白い縁取りは設けられていない。12時位置のAPロゴは廃され、6時位置にアプライド ロゴとして据え置かれる。これは1972年のRef. 5402のうち初期生産分(Aシリーズ)に見られた配置への回帰であり、本Refを2012年以前の15202と視覚的に隔てる最大のサインである。
ベゼル外周には8本の六角形ボルトが配される。ベゼル上面、ラグ側面、ブレスレットのリンクは、ジュー渓谷で培われたサテンとポリッシュの組み合わせ——面はサテン、エッジは面取りポリッシュ——で仕上げられ、光の角度ごとに表情が切り替わる。ブレスレットは2012年改訂で従来より厚みを増し、留め金もシングル フォールディングからダブル フォールディング クラスプへ更新された。
ケースバックはサファイアクリスタル。背面からはCal. 2121の22Kゴールド製スケルトン ローターが、外周のルビー ランナー上を回る独自構造とともに観察できる。コート・ド・ジュネーブ、面取り研磨、ペルラージュという伝統的な仕上げが、ムーブメント厚3.05mmという数字を意匠の側から支えている。
系譜と歴史
本Refは2012年1月、ジュネーブで開催されたSIHH(国際高級時計サロン)にて発表された。ロイヤル オーク誕生40周年を記念し、すでに2000年から流通していたRef. 15202の意匠を、原点の1972年Ref. 5402に近づけ直す改訂として投入されている。Ref. 番号自体は据え置かれ、ブレスレットおよび文字盤仕様を示すサフィックスと細部だけが刷新された。
変更点は文字盤に集中する。APロゴが12時位置から6時位置へ移され、Aシリーズ初期の5402に倣う配置に戻った。タペストリー模様は従来の「グランド タペストリー」よりマス目の細かい「プチ タペストリー」に変更され、白い縁取りを伴っていたデイト窓は同色の枠なし仕様に改められた。文字盤の刷り(タペストリー彫りの工程)は、同じ2012年からStern Frèresによる外部供給からAudemars Piguet自社内製へ移行している。外装側ではブレスレットの厚みが増し、留め金が従来のシングル フォールディングからダブル フォールディング クラスプへ更新された。一方、ケース径39mm、ケース厚8.1mm、50m防水、Cal. 2121搭載という構造は据え置かれている。
発表に合わせて、本機の呼称は従来の「ジャンボ」から「エクストラシン(超薄型)」へと改められている。
2021年3月29日、当時のCEOフランソワ=アンリ・ベナミアスはAP Social Clubのオンライン発表会で、本Refを2022年に廃番とする方針を明らかにした。翌2022年1月、ロイヤル オーク誕生50周年を機に、外寸を据え置いたまま新型自社ムーブメントCal. 7121を搭載する後継Ref. 16202ST.OO.1240ST.01が発表され、本Refは約10年の生産期間を経てカタログから外れた。