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AUDEMARS PIGUET · SERIES

Royal Oak

ロイヤルオーク

鋼を高級素材に変え、ラグジュアリースポーツウォッチという分野そのものを切り拓いた1972年の意匠革命

39 mm – 41 mm
01 — 概要 / SUMMARY

ロイヤルオーク (Royal Oak) は、1972年にオーデマ ピゲがバーゼル・フェアで発表したステンレススチール製の高級時計である。ジェラルド・ジェンタが設計し、八角形ベゼルと露出した八本の六角形ネジ、ケースと一体化したブレスレットによって、「ラグジュアリースポーツウォッチ」という分野そのものを生み出した。現在は39mmのジャンボ・エクストラシン、41mmのセルフワインディング、クロノグラフ、37mm、永久カレンダーやトゥールビヨンに加え、派生コレクションのロイヤルオーク・オフショア、ロイヤルオーク・コンセプトをも擁する大規模ファミリーへと発展している。

02 — STORY · 物語

Royal Oak(ロイヤルオーク)、これまでの軌跡

The story of this series
01

1972年、危機の時代の賭け

1970年代初頭、スイス時計産業はクォーツ危機の渦中にあった。機械式時計の優位性は根本から問い直され、ドレスウォッチと複雑時計を主力としてきたオーデマ ピゲも、新しい市場を切り拓く必要に直面していた。

1971年バーゼル・フェアの前夜、取締役ジョルジュ・ゴレイ (Georges Golay) が若きデザイナーのジェラルド・ジェンタ (Gérald Genta, 1931–2011) に「前例のないステンレススチール製の時計」の設計を依頼したと伝わる。ただし「一夜の設計」というエピソードはしばしば誇張され、製品化までの実際の開発期間は約1年に及んでいる。ジェンタは深海潜水ヘルメットから着想を得たとされ、潜水服にヘルメットを固定する八角形フランジと六角ボルトが、八角形ベゼルと八本の六角形ネジへと翻案された。

1972年4月15日、バーゼル・フェアで発表されたRef. 5402STは、当時の業界常識を反転させていた。ケース径39mmは、男性用時計が35〜36mmを標準としていた時代には異例の大きさで、「ジャンボ (Jumbo)」の通称が早くから定着した。価格は資料により3,300〜3,750スイスフランと記録され、ロレックス サブマリーナーの約10倍に達した。スチール製ながら金無垢ドレスウォッチを上回るこの価格が、発表当初の最大の批判対象となった。

02

ジャンボの言語が定着するまで

最初の生産はAシリーズと呼ばれ、ケースバックに「A」と通し番号が刻印された。Aシリーズは2回に分けて生産され合計で約2,000本に達し、その後B、C、Dシリーズが続いた。

設計の技術的核心は薄さにあった。1967年にジャガー・ルクルトが主導し、オーデマ ピゲも開発に参画した自動巻キャリバー2120を母体に、日付機構を加えたキャリバー2121を搭載することで、ケース厚7.15mmを実現した。このムーブメントは後にパテック フィリップのノーチラスにも採用される、スイス高級時計界の共有資産だった。

文字盤は「タペストリー No. 21」(後年「プチ・タペストリー」と呼ばれる) の格子状凹凸装飾を施し、「ブルーニュイ・ニュアージュ50 (Bleu Nuit, Nuage 50)」と名づけられた漆黒に近い深い青で仕上げられた。APモノグラムは初期生産分では6時位置にあり「ロゴダウン・ダイヤル」と呼ばれて後年珍重される。1977年以降、モノグラムは12時位置へ移った。

販売は当初苦戦した。受容が先行したのはイタリア市場で、FIAT総帥ジャンニ・アニェッリ (Gianni Agnelli) の着用が初期の認知拡大に寄与したと伝えられる。1977年に貴金属モデル (Ref. 5402BA等) が追加され、1981年には世界最薄を謳う自社製ロイヤルオーク パーペチュアル カレンダー (キャリバー2120/2800) が発表されて、複雑機構をスポーツウォッチに収める方向性が確立された。

03

オフショア──設計言語の拡張

1989年、共同経営者スティーブン・ウルカール (Stephen Urquhart) は、若手デザイナーのエマニュエル・ゲ (Emmanuel Gueit) に20周年に向けた大型派生モデルの設計を依頼した。後年のオーデマ ピゲ自身のヘリテージ調査では、ドイツ市場担当ディアク・ヴェッテンゲル (Dierk Wettengel) の市場要望も企画に関与していたとされる。

1993年4月のバーゼル・フェアで発表されたRef. 25721ST、ロイヤルオーク オフショアは、ケース径42mm、厚さ約14mmの大型サイズで、業界内では「ザ・ビースト (The Beast)」の通称が広まった。ジェラルド・ジェンタはこの設計に強く反発し、公然と苦言を呈したと伝わる。初期100本ほどはケースバックに「Offshore」の刻印を欠き、商標の予防的保護のため「Royal Oak」のみが記された。オフショアの登場は、ロイヤルオークを単一モデルから派生を許容する設計言語へと拡張する転換点となった。

04

30周年──忠実な復刻と未来への分岐

2002年、30周年に二つの方向性が同時に示された。Ref. 15202 (ジャンボ・エクストラシン) はオリジナルRef. 5402のプロポーションに忠実な39mm復刻として登場し、もう一方のロイヤルオーク・コンセプト (Concept Watch 1) は44mmのアラクライト602製ケースに手巻きトゥールビヨンを収め、未来志向の素材実験を打ち出した (150本限定、2002〜2004年)。

Ref. 15202は以後20年にわたってジャンボの代名詞となる。2012年の40周年改訂では、文字盤がプチ・タペストリーに戻され、6時位置のAPモノグラムが復活した。Aシリーズのロゴダウン・ダイヤルへのオマージュであった。

05

50周年と現在地

2022年、ロイヤルオークは50周年を迎え、節目に合わせて世代交代が行われた。ジャンボはキャリバー2121搭載のRef. 15202から、新型キャリバー7121搭載のRef. 16202へと移行した。自社設計の自動巻7121は毎時28,800振動 (4Hz)、パワーリザーブ55時間で、ケース径39mm・厚さ8.1mmという先代のプロポーションを継承した。1967年設計のキャリバー2121は、半世紀ジャンボの薄さを支えた末に役目を終えた。

同年、41mmのRef. 15500はRef. 15510へ刷新され、クロノグラフはキャリバー4401搭載のRef. 26240へ移行、新たに37mmのRef. 15550も加わった。

50年を経て、ロイヤルオークはジャンボ、セルフワインディング、クロノグラフ、永久カレンダー、トゥールビヨンまで派生群を広げ、セラミックや新素材の採用も進んでいる。Ref. 5402が確立した「鋼の高級スポーツウォッチ」というカテゴリーはいまや業界標準となったが、八角形ベゼルと露出した六角形ネジを核とする意匠言語は、1972年の原型をほぼそのまま現行コレクションの中心に留めている。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

ロイヤルオークの設計思想は、高級時計の慣習に対する一連の反転として読み解ける。

まず、構造を隠さず、見せる。ベゼル外周に並ぶ八本の六角形ネジは、本来であればケース内部からボルトで固定される機構を、あえて表面に露出させたものである。視認されるべきでないとされてきた防水ガスケットも、ベゼル下に挟まれた状態で外周から見える。機械的構造の可視化は、当時の高級時計界では奇異と受け取られたが、これがロイヤルオークの設計言語の根幹となった。

次に、素材の意味を反転させる。ステンレススチールは長らく実用時計の素材であり、貴金属より格下とみなされていた。ロイヤルオークはこれを、加工難度の高い意匠的素材として再定義した。光沢面とサテン仕上げを微細に切り替えるベベル (面取り) 処理は、軟らかい金よりも硬い鋼に施す方が遥かに困難であり、その難度こそが価値の源泉となった。価格が同時代の金無垢ドレスウォッチを上回ったのは、希少素材ではなく工芸的労力に対する対価という新しい価格論の宣言でもあった。

数字の「8」は、シリーズ全体を貫く幾何学的アンカーとして機能する。八角形ベゼル、八本の固定ネジ、それらが生む視覚的反復。深海潜水ヘルメットの構造から導かれた帰結だが、結果として、構造的安定性と装飾的リズムを兼ね備えた設計言語となった。

ケースとブレスレットの一体性も核心的特徴である。ブレスレットはケースの「外側」に取り付けられるのではなく、ケース構造の延長として設計されている。テーパード加工されたリンクの精緻な比例と、サテンと鏡面仕上げの交互配置は、手首に沿って流れる連続体としての腕時計を生み出した。文字盤の「プチ・タペストリー」 (Petite Tapisserie) は、隅々まで精緻な格子状の凹凸を施した装飾で、平板になりがちな単色文字盤に光の奥行きを与える役割を担う。

そして、薄さに対する執着がある。1972年のRef. 5402は、ケース厚7.15mmでありながら自動巻ムーブメントを内蔵していた。裏蓋を別体とせず一体成型としたモノブロック構造と、ジャガー・ルクルト由来のキャリバー2120/2121の極薄構造によって達成された薄さである。50周年で2121を置き換えた新型キャリバー7121は、3倍のエネルギー量を確保しながら、ケース径39mm・厚さ8.1mmというジャンボのプロポーションをほぼ維持している。設計言語の継承は、寸法の維持と機構の刷新を両立させることで成立してきた。

変えなかったのは、プロポーション、八角形ベゼル、ブレスレットとの統合、タペストリー文字盤、そして露出した八本のネジ。変えてきたのは、ムーブメント、素材技術、文字盤の色彩と密度、ケースの装飾度合い。何を保ち何を更新するかの線引きが半世紀にわたって明確であった点こそ、ロイヤルオークの設計思想の本質である。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1972-2022
Cal. 2121
JLC 920ベースの薄型自動巻。ジャンボの根幹キャリバー。
1990s-2000s
Cal. 2225 / 2325
JLC 889ベース。中型・センターセコンド搭載モデル向け。
1997-2022
Cal. 2385
F.ピゲ 1185ベース、長期にわたるクロノグラフの主力。
2005-2019
Cal. 3120
初の本格自社設計、モジュラー構造で複雑機構の土台。
2019-現在
Cal. 4302
70時間PR、現代3針機の中核。Code 11.59と共用。
2022-現在
Cal. 7121 / 4401
50周年で投入。7121はジャンボ用、4401は自社クロノ。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1972-1990

初代ジャンボ

5402
ジェンタ設計の原典。Cal.2121搭載、ステンレス高級時計の起点。
1992-1999

20周年復活機

14802 15002
5402廃番後の復活シリーズ。シースルーバック導入、現代化の橋渡し。
2000-2022

現代ジャンボ確立

15202
22年にわたり生産。5402の意匠を継承しつつ近代化、ジャンボの基準形。
2005-2019

センターセコンド化

15300 15400
自社製ムーブメント初投入。センターセコンド付き、39mm/41mmへ拡大。
2019-2022

Cal.4302導入

15500
Cal.4302へ移行、70時間PRに延長。意匠は15400を踏襲した41mm。
2022-現在

50周年世代刷新

16202 15510
Cal.7121/4302で全面刷新。50年の節目に意匠と機構を再構築。
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 8 モデル

8 references in archive