ジョルジュ・ケルン
IWCで物語を軸にしたブランドづくりを進め、ブライトリングを株主兼CEOとして再編した、ハウス・オブ・ブランズの構想者
- BORN
- 1965年
- DIED
- 存命
- BRANDS
- アイ・ダブリュー・シー / ブライトリング / ユニバーサル・ジュネーブ
概要
ジョルジュ・ケルン(Georges Kern、1965-)は、ドイツ・デュッセルドルフ出身の時計業界の経営者である。消費財メーカーとタグ・ホイヤーを経てリシュモン・グループに入り、2002年にIWCのCEOに就いた。2017年にはブライトリングのCEOに転じ、株主として経営に加わった。同社を空・陸・海の3領域と「モダン・レトロ」の作法で組み直した。2026年5月からは、ユニバーサル・ジュネーブとガレを含むハウス・オブ・ブランズのCEOを務める。製品と広告、販売網を一体で組み替える手法で知られる。
生涯
01消費財から時計へ
ジョルジュ・ケルン(Georges Kern)は1965年、ドイツのデュッセルドルフで宝飾商の家に生まれた。ただし幼いころから時計に惹かれていたわけではないと、本人は後に語っている。
フランスのストラスブールで政治学を学び、スイスのザンクト・ガレン大学で経営学の学位を得た。1989年からクラフト・フーズのスイス法人で消費財の販売を経験し、1992年にタグ・ホイヤーへ移って時計業界に入った。消費財の世界で身につけた市場の見方は、のちの経営にも引き継がれていく。
02リシュモンとIWC
2000年、ケルンはリシュモン・グループに加わった。同グループが取得したIWC、ジャガー・ルクルト、A.ランゲ&ゾーネの3ブランドを、グループに組み込む作業に携わった。
2002年初め、36歳でIWCのCEOに就任する。当時のリシュモンでは最年少のブランドCEOだった。以後の十数年で、IWCはグループ内で最大の時計専業ブランドに育ったと報じられている。2017年には、リシュモンの時計・マーケティング・デジタル部門の責任者に昇格した。グループの時計ブランド全体を統括する職である。
03ブライトリングへの転身
その職に就いて数か月後の2017年夏、ケルンはリシュモンを辞し、ブライトリングのCEOに就いた。同社は同じ年、シュナイダー家から投資会社CVCキャピタル・パートナーズへ売却されたばかりだった。大手グループの時計部門の頂点から、規模の小さい独立系ブランドへ移ったこの人事は、業界に驚きをもって受け止められた。
移籍にあたってケルンは同社の株式を取得し、雇われた経営者ではなく出資者として経営を担う立場を選んだ。2021年にはパートナーズ・グループが株主に加わり、2022年末には同社が筆頭株主となった。その後も経営はケルンと既存の経営陣に委ねられた。
時計業界の外では、映画の製作にも携わっている。
04ハウス・オブ・ブランズへ
2023年末、ブライトリングはユニバーサル・ジュネーブを取得し、2025年にはガレがこれに続いた。いずれも長く休眠していた19世紀創業の名門である。2025年11月のドバイ・ウォッチ・ウィークで、ケルンは3ブランドを並べた「ハウス・オブ・ブランズ」を初めて公に示した。
2026年5月、パネライのCEOを務めたジャン=マルク・ポントルエがブライトリングのCEOに就いた。ケルンは新設されたハウス・オブ・ブランズのCEOに移り、3ブランド全体の戦略に専念する立場となった。
業績・代表作
01時計に物語を与える
ケルンの経営を貫くのは、時計を機能の束としてではなく、物語として届けるという考え方である。誰が時計を必要とするのか、だから一本ごとに物語を作らなければならない、と彼は2025年の取材で語っている。
IWCではこの考えを、ブランドを取り巻く環境づくりとして実行した。俳優のケイト・ブランシェットやサッカーのジネディーヌ・ジダンらを「IWCの友人」として迎えた。チャールズ・ダーウィン財団への支援など、環境保護への関与も打ち出している。技術志向で知られたシャフハウゼンの工房に、映画やスポーツ、環境保護という文脈を重ねたのである。IWCのカーボンニュートラル認証も、彼が推し進めた取り組みである。
02ブライトリングの再定義
ブライトリングでは、大ぶりのパイロットウォッチに偏っていた製品群の整理から着手した。体制下で最初の新コレクションは、2018年のナビタイマー 8 である。名は1938年に設けられた航空計器部門「ユイット」に由来する。同じ時期に、ロゴからは翼の意匠が外された。
続いて1940年代の名を継ぐエレガンス路線のプルミエを復活させ、2022年には誕生70周年に合わせてナビタイマーを刷新した。製品群は空・陸・海の3領域に整理され、過去の意匠を現代の寸法と仕上げで読み替える「モダン・レトロ」が共通の作法となった。
復刻の考証には、ウィーンのコレクター、フレッド・マンデルバウムが助言者として加わった。1959年のナビタイマーRef.806を復刻した際には、マンデルバウムが試作を少なくとも5回差し戻したとケルンは語っている。
03出資する経営者
ブライトリングでの手法を特徴づけるのは、経営者自身が出資者である点だ。ケルンは自己資金で株式を取得し、幹部25人ほどにも出資の機会を広げたと述べている。専門誌SJXは、この立場をジャン=クロード・ビバーら少数の例と並べて論じた。
見本市への姿勢にも、この当事者意識が表れる。2018年、ケルンはナビタイマー 8 をバーゼルワールドに先立ってアジアの発表会で披露し、見本市より効率がよいと語った。2020年には、年1回の総合見本市は役目を終えたと述べている。代わりに、発表と同時に新作を店頭へ届ける自社イベント「サミット」を組んだと説明している。
販売では、工業ロフト風の直営店と電子商取引を広げ、ブランドの見せ方を自社で管理する方向へ進めた。業界推計では、ブライトリングは2022年にスイス時計ブランドの売上上位10社に入った。一方、その後は伸びが鈍り、直営店網の拡大にともなう費用も重荷になったと報じられている。
04複数ブランドの家
ハウス・オブ・ブランズは、価格帯の異なる3ブランドを一つの屋根の下に置く構想である。最上位にユニバーサル・ジュネーブ、中核にブライトリング、入口にガレを据える。ケルン自身は、スウォッチ・グループやリシュモンのような企業グループと同列に見られることを避けたいと語っている。
2026年9月に再始動したガレでは、ブライトリングが製造などの基盤を担った。製品と物語、販売の場を一体で設計し、複数の入口から顧客を迎える。IWC時代に形づくった方法を、ケルンはブランドの数を増やす形で押し広げている。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Corporate Social Responsibility Report 2015
- 02 公式 Partners Group to increase its stake in leading independent Swiss watchmaker Breitling
- 03 公式 Georges Kern
- 04 報道 Como a Breitling se reergueu com um fundo de private equity por trás
- 05 報道 Breitling Acquires Historic Swiss Watchmaker, Universal Genève
- 06 報道 Breitling Announces Jean-Marc Pontroué as its New CEO and Confirms its Strategy of Consolidation Around its “House of Brands”
- 07 報道 Breitling valuation slashed as CVC and Partners Group reassess strategy
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- 09 専門メディア A closer look at the Breitling Navitimer 8 Collection
- 10 専門メディア Georges Kern: “A dozen global brands, no more”
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- 13 専門メディア Breaking News: Richemont Watch Boss Georges Kern Resigns to Become Breitling CEO
- 14 専門メディア Breitling CEO Georges Kern Explains its “Legendary Future”
- 15 専門メディア Breitling’s Rebirth Begins with the Navitimer 8 Collection (with Prices & Availability)
- 16 専門メディア VIDEO: In Conversation with Georges Kern, CEO of IWC Schaffhausen
- 17 専門メディア House of Brands: New leadership at Breitling, Gallet and Universal Genève
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