系譜と歴史
1. Cal. 315からの世代交代
1984年に登場したCal. 315 Sは、Cal. 310およびCal. 335の課題を解決し、20年以上にわたりパテック・フィリップのセンターローター自動巻の中核を担ってきた。しかし2000年代に入り業界はクロノメーター精度を巡る競争を加速させ、21,600vphという振動数は時代の要請に対して見直しを迫られるに至る。
パテック・フィリップは2004年、後継となるCal. 324を導入した。アーキテクチャは先代から多くを継承しつつ、振動数を28,800vphへ引き上げ、テンプ設計を刷新し、輪列の歯形を改良している。独自の中央秒針機構は先代から維持され、抜本的な刷新ではなく要素ごとの精緻化によって精度と耐久性を引き上げる選択が取られた。
2. Gyromaxテンプの再設計
Cal. 324の精度面の進化は、Gyromaxテンプの世代交代に表れる。Gyromaxはパテック・フィリップが1949年に特許を取得し、1951年から自社製ムーブメントに搭載されてきた可変慣性テンプで、緩急針を持たないフリースプラング方式により長期安定性を実現してきた機構である。
Cal. 324が搭載するGyromaxは、8つの調整錘・2本スポーク構造から、4本スポーク・4錘へと簡素化された新世代となる。錘はリム外周上に配置され、空力的損失を抑えつつ調整精度の向上が狙われた。緩急針の不在ゆえに調整は錘の回転のみで行われ、ヒゲゼンマイの有効長を変えないため長期的な精度の安定が得られる。
3. Advanced Researchとの結節
2005年に発足したパテック・フィリップのAdvanced Research部門は、シリコン技術の応用研究を担い、Cal. 324系を実証台として段階的な革新を世に問うてきた。2006年には限定300本のRef. 5350(Cal. 324 S IRM QA LU)に、シリコン製ヒゲゼンマイ「Spiromax」が初搭載される。Spiromaxは特許化された外端の膨らみ「パテック・フィリップ・ターミナルカーブ」を備え、オーバーコイル構造を持たない平ヒゲでありながら同心円的な呼吸を実現する。
2008年のRef. 5450では、シリコン製のアンクルとガンギ車を組み合わせた脱進機「Pulsomax」が登場した。ルビーパレットを廃した一体成形のアンクルにより、接触時間の短縮とエネルギー効率の向上が図られている。2017年のRef. 5650では、第二世代Spiromaxと、12部品で構成される「可撓性メカニズム」式タイムゾーン補正機構が披露された。これらは当初限定モデルでの実証にとどまったが、Spiromaxヒゲゼンマイについては段階的に量産Cal. 324系へも展開されている。
4. Cal. 26-330への系譜継承
2019年、パテック・フィリップはCal. 324を直接的に進化させた新キャリバーCal. 26-330 S Cを発表した。寸法を踏襲しつつ、ハッキング秒、改良された単方向巻上機構、LIGAエッチングによるニッケル燐合金製の秒車を新たに採用する。最初の搭載はCalatrava Weekly Calendar Ref. 5212Aで、同年内にNautilus Ref. 5711の搭載キャリバーもCal. 26-330へ更新された。ただしCal. 324系は廃止されたわけではなく、複雑機構を伴う派生(QA LU系、IRM系等)は継続的に生産されている。両者は同じ設計言語の上に並走する関係にあり、Cal. 324は引き続き現代パテック・フィリップの基幹ムーブメントの位置にある。