324 S C
2004年、Cal.315を継ぎパテック・フィリップの主力自動巻として現代を担うキャリバー
パテック・フィリップが2004年に発表した自社製自動巻キャリバー。先代Cal. 315 Sの後継として振動数を21,600vphから28,800vph (4Hz) へ高速化し、新世代Gyromaxテンプを組み合わせて精度向上を図った。直径27mm、厚さ3.3mm、213部品、29石、パワーリザーブ約35〜45時間、21Kゴールド製センターローターを備える。2009年以降は自社制定のパテック・フィリップ・シールを刻印する。基本のCal. 324 S Cに加え、複雑機構モジュールを組み合わせた派生群を擁し、Nautilus 5711/1AやAquanaut 5167を担った現代パテックの基幹ムーブメントである。
| Maker | Patek Philippe |
|---|---|
| Reference | 324 S C |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 29 石 |
| Power reserve | 45 h |
| Movement ⌀ | 27 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Seconds |
| Date | Date |
系譜と歴史
1. Cal. 315からの世代交代
1984年に登場したCal. 315 Sは、Cal. 310およびCal. 335の課題を解決し、20年以上にわたりパテック・フィリップのセンターローター自動巻の中核を担ってきた。しかし2000年代に入り業界はクロノメーター精度を巡る競争を加速させ、21,600vphという振動数は時代の要請に対して見直しを迫られるに至る。
パテック・フィリップは2004年、後継となるCal. 324を導入した。アーキテクチャは先代から多くを継承しつつ、振動数を28,800vphへ引き上げ、テンプ設計を刷新し、輪列の歯形を改良している。独自の中央秒針機構は先代から維持され、抜本的な刷新ではなく要素ごとの精緻化によって精度と耐久性を引き上げる選択が取られた。
2. Gyromaxテンプの再設計
Cal. 324の精度面の進化は、Gyromaxテンプの世代交代に表れる。Gyromaxはパテック・フィリップが1949年に特許を取得し、1951年から自社製ムーブメントに搭載されてきた可変慣性テンプで、緩急針を持たないフリースプラング方式により長期安定性を実現してきた機構である。
Cal. 324が搭載するGyromaxは、8つの調整錘・2本スポーク構造から、4本スポーク・4錘へと簡素化された新世代となる。錘はリム外周上に配置され、空力的損失を抑えつつ調整精度の向上が狙われた。緩急針の不在ゆえに調整は錘の回転のみで行われ、ヒゲゼンマイの有効長を変えないため長期的な精度の安定が得られる。
3. Advanced Researchとの結節
2005年に発足したパテック・フィリップのAdvanced Research部門は、シリコン技術の応用研究を担い、Cal. 324系を実証台として段階的な革新を世に問うてきた。2006年には限定300本のRef. 5350(Cal. 324 S IRM QA LU)に、シリコン製ヒゲゼンマイ「Spiromax」が初搭載される。Spiromaxは特許化された外端の膨らみ「パテック・フィリップ・ターミナルカーブ」を備え、オーバーコイル構造を持たない平ヒゲでありながら同心円的な呼吸を実現する。
2008年のRef. 5450では、シリコン製のアンクルとガンギ車を組み合わせた脱進機「Pulsomax」が登場した。ルビーパレットを廃した一体成形のアンクルにより、接触時間の短縮とエネルギー効率の向上が図られている。2017年のRef. 5650では、第二世代Spiromaxと、12部品で構成される「可撓性メカニズム」式タイムゾーン補正機構が披露された。これらは当初限定モデルでの実証にとどまったが、Spiromaxヒゲゼンマイについては段階的に量産Cal. 324系へも展開されている。
4. Cal. 26-330への系譜継承
2019年、パテック・フィリップはCal. 324を直接的に進化させた新キャリバーCal. 26-330 S Cを発表した。寸法を踏襲しつつ、ハッキング秒、改良された単方向巻上機構、LIGAエッチングによるニッケル燐合金製の秒車を新たに採用する。最初の搭載はCalatrava Weekly Calendar Ref. 5212Aで、同年内にNautilus Ref. 5711の搭載キャリバーもCal. 26-330へ更新された。ただしCal. 324系は廃止されたわけではなく、複雑機構を伴う派生(QA LU系、IRM系等)は継続的に生産されている。両者は同じ設計言語の上に並走する関係にあり、Cal. 324は引き続き現代パテック・フィリップの基幹ムーブメントの位置にある。
技術解説
機構の全体像
Cal. 324 S Cは、直径27mm、厚さ3.3mmの自動巻キャリバーである。28,800vph (4Hz) の振動数で213部品・29石を擁し、Cal. 315系のセンターローター・アーキテクチャを継承する。型番末尾の「S C」は「Seconde Centrale(中央秒)」を意味し、中央秒針を中心とした三針+日付という最も標準的な構成を担う。
振動数とその意味
振動数28,800vphは半振動数表記による業界慣行の数値で、1秒間に8回のティック、すなわち4Hzに相当する。先代Cal. 315の21,600vph (3Hz) からの引き上げは、振動回数の増加によりテンプの外乱への復元力を高め、姿勢差や衝撃に対する精度を向上させる効果を持つ。同時に巻トルクの消費が増えるため、香箱とゼンマイの設計にはバランスが要求される。Cal. 324のパワーリザーブが35〜45時間にとどまる背景には、4Hz化に伴うエネルギー消費の増加が一因として存在する。
センターセコンド機構
Cal. 324が継承するのは、Cal. 330系から続く独特なセンターセコンド方式である。一般的な中央秒針機構では四番車を中央に配置するか追加のピニオン列を介して秒針を導くが、Cal. 324系では三番車が中央のピニオンを直接駆動し、追加のギア列を介さずに中央秒針を実現する。この設計はムーブメントの薄型化に寄与し、3.3mmという厚みを可能としている。一方で針の動きを滑らかに保つには高い加工精度が要求される。
Gyromaxテンプ
精度を司るのはGyromaxテンプである。緩急針を持たないフリースプラング方式で、リム外周の4つの調整錘を回転させることにより慣性モーメントを微調整し、進み・遅れを補正する。緩急針による有効長変更を伴わないため、ヒゲゼンマイは常に全長で動作し、長期的に等時性が保たれる。Cal. 324世代では8錘・2スポークから4錘・4スポークへと簡素化され、エネルギー効率と調整工数が最適化された。
Spiromaxヒゲゼンマイ
量産Cal. 324系の多くで採用されるのが、Advanced Research部門が開発したシリコン製ヒゲゼンマイSpiromaxである。母材のSilinvarはシリコンを基にした単結晶素材で、反磁性、温度補償、軽量性を併せ持つ。外端には特許化された膨らみ「Patek Philippe terminal curve」が設けられ、オーバーコイル構造を持たない平ヒゲでありながら同心円的な呼吸を実現する。2017年以降の改良版では内側にも膨らみを追加し、重心の最適化を進めた。耐磁性、潤滑不要、ショック耐性の改善を一括して達成し、Cal. 324系の精度耐久に寄与する。
21K自動巻ローター
巻上げを担うのは、21Kゴールド製のセンターローターである。単方向巻上げ方式で、ローターの慣性を高めることで効率を確保する。21Kは18Kよりも密度が大きいため、同寸法でより高い慣性モーメントが得られる。ローター下面にはコート・ド・ジュネーブが施される。
仕上げとパテック・フィリップ・シール
ブリッジとプレートにはコート・ド・ジュネーブが施され、角部のアングラージュ(面取り)は手仕上げで艶出しされる。地板にはペルラージュが入る。当初Cal. 324にはジュネーブシール(Poinçon de Genève)が刻まれていたが、2009年にパテック・フィリップは自社制定の「パテック・フィリップ・シール」を導入し、以降は同シールが刻印される。同シールは精度面で「-3/+2秒/日(全姿勢)」を要求し、これはCOSCクロノメーター(-4/+6秒/日)を上回る厳格な水準となる。さらにケース、ダイヤル、生涯保守までを含めた全体品質を対象とする点で、業界における自社認定の典型例となった。
モジュール展開
ベースのCal. 324 S Cに対し、複雑機構を担うモジュールが多様に組み合わされる。デュアルタイムのCal. 324 S C FUS、アニュアルカレンダーと月相のCal. 324 S QA LU、これにパワーリザーブ表示を加えたCal. 324 S IRM QA LU、永久カレンダーのCal. 324 S Q等、機能ごとに直径と厚みを変えた派生が用意される。いずれも基本機構を共有し、上面のモジュールのみが異なるモジュラー設計である。