設計思想
1. 20周年への回答として
1997年、パテック フィリップは若い世代へのスポーツウォッチとしてアクアノート Ref. 5060Aを世に問うた。35.6mmのスチールケースにラバーストラップを組み合わせた当初の構成は、メゾンにとって異質な挑戦であり、市場の反応も最初は静かなものだった。それから20年を経た2017年、コレクションが節目を迎えた年に、ブランドはこのラインに二つの記念モデルを投じた。一つはアドバンスト リサーチによる限定500本のRef. 5650G、もう一つが本稿のRef. 5168G-001である。後者は単独で見ても、シリーズの設計言語に三つの新要素――白金ケース、42.2mmという拡大寸法、グラデーションの効いた青文字盤――を持ち込んだ意欲的な構成だった。
2. Ref. 5167系との分業
5168G-001は、40.8mmの基幹モデルRef. 5167を置き換えるための後継ではない。5167と5168はサイズと素材を分担して併存する関係として設計されている。5167が現代アクアノートの基準寸法を担う一方、5168Gはケース径を拡大し、白金という素材を初めて持ち込むことで、シリーズの上位に位置する派生として独自の役割を担う。42.2mmという寸法は、1976年に登場した最初のノーチラス Ref. 3700の愛称『ジャンボ』に通じる選択であり、ライン内で意図的に大ぶりな存在を作る決断であった。
3. その後の展開
2019年バーゼルワールドでは、同じケース構成にカーキグリーンの文字盤を載せたRef. 5168G-010が追加され、5168Gは色違いを持つ派生グループへと拡張した。ムーブメントの世代交代も静かに進み、発表時に搭載されていたCal.324 S Cは、2019年に登場した新世代のCal.26-330 S Cへと切り替えられた。後者はCal.324系統の改良型として、ストップ・セカンド機構や巻き上げ機構の刷新が盛り込まれた後継機である。2026年現在も5168G-001は正規カタログに残る現行モデルとして位置づけられている。
意匠分析
ケースは18Kホワイトゴールド、10-4時方向で計測した直径42.2mm、厚さは8.25mm。アクアノート伝統の角丸八角形ベゼルはサテン仕上げの上面と研磨されたフランクの組み合わせで構成され、白金の冷ややかな光沢の中でハイライトとサテン面のコントラストが立ち上がる。リューズはスクリュー式で、カラトラバ十字の刻印が施される。バックはサファイアクリスタル仕様で、自動巻き機構を見せる構成となっている。
文字盤は、シリーズのアイデンティティであるエンボス加工の格子模様『グルナード(手榴弾)パターン』を継承しつつ、中央から外周にかけて明るいブルーから黒へと沈むグラデーション仕上げを施す。インデックスは18Kホワイトゴールドのアプライド アラビア数字に夜光塗料を充填、5分刻みのマーカーも同様に白金パーツに夜光処理を加えて手で植え込まれる。ハンドはホワイトゴールドのバトン型に夜光コーティング。日付は3時位置に開口する。
ストラップは『トロピカル』と呼ばれるコンポジット ラバー製で、文字盤と揃いのミッドナイトブルー、表面には文字盤と同じエンボス模様が施される。ケース統合型の形状でラグへと滑らかに繋がり、白金製のフォールディング クラスプには四つの独立した爪が組み込まれている。
ムーブメントは現在Cal.26-330 S C。直径27mm・厚さ3.32mmという2000年代後半以降のパテック自動巻きの寸法を踏襲し、毎時28,800振動(4Hz)、パワーリザーブは最少35時間〜最大45時間。Gyromax®テンプとSpiromax®ヒゲゼンマイを備え、パテック フィリップ シールの基準に従い日差-3〜+2秒の精度規格を満たす。21Kゴールド製のミニローターが文字盤裏で透ける。
系譜と歴史
2017年3月、バーゼルワールド2017でRef. 5168G-001は発表された。1997年に始まったアクアノートの20周年を記念する新作として、Ref. 5650G アドバンスト リサーチ トラベルタイムと並ぶ二大ノヴェルティの一角を成した。発表時の参考価格はCHF 34,000、約USD 38,500、約EUR 35,000とされ、白金製のレギュラー アクアノートとしての位置づけが示された。
ローンチ時に搭載されたムーブメントは、2000年代から続く基幹自動巻きCal.324 S Cであった。2019年バーゼルワールドにおいて、パテック フィリップはCal.324系統の後継となるCal.26-330を発表する。初出はCalatrava Weekly Calendar Ref. 5212Aと、刷新された数本のNautilus Ref. 5711で、その後段階的に他リファレンスへ展開されたと伝わる。5168G-001のムーブメントも、その後の生産分からCal.26-330 S Cに切り替わったとされる。公式に切替時期は明示されていないが、現行の公式仕様書には新世代キャリバーが記載されている。
派生として、2019年にはバーゼルワールドで同じケース構成にカーキグリーンのバーニッシュ仕上げ文字盤と同色ストラップを組み合わせたRef. 5168G-010が追加され、Ref. 5168G-001は色違いを持つペアの一方となった。2026年5月時点、Ref. 5168G-001は引き続きパテック フィリップの公式カタログに残る現行モデルである。