設計思想
1. 10周年を迎えたアクアノートの再起動
1997年に5060Aで産声を上げたアクアノートは、翌1998年に「ジャンボ」と呼ばれた5065A(38mm)、開放型裏蓋の5066A(35.6mm)へと展開された。これら第一世代は2006年末まで生産され、コレクションは2007年、誕生10周年を機に第二世代へと刷新される。発表の場は同年のバーゼルワールド。同時に投入された5165A(38mm、5065Aの後継)と、本稿の主題である「エクストラ・ラージ」5167A-001(40.8mm)の二本立てだった。
2007年は前年に新生ノーティラス5711が登場した直後でもあり、ステンレススチール製ラグジュアリースポーツの需要が静かに加速し始めていた時期にあたる。アクアノート再起動の狙いは、若年層向けの実験的シリーズという初代の出自を脱し、ノーティラスと並ぶブランドの基幹コレクションへと格上げすることにあった。
2. 5065Aから5167A-001へ:変わったもの、変わらなかったもの
ケース径は38mmから40.8mmへと2.8mm拡大されたが、ケース厚8.1mmは前任と同値で据え置かれた。直径だけが膨らみ、薄さは保持される——この比率の変更こそが、5167Aを「2000年代後半以降のスポーツウォッチ」として定義した。
意匠面で最も明確に変わったのはダイヤルである。第一世代のグレネード状深溝パターンは浅く、丸みを帯びた現在の意匠へと再描画された。3時位置のアラビア数字は省かれ、その場所には拡大された日付窓が据え置かれている。一方で、ラウンデッド・オクタゴン形状、「トロピカル」と称される黒の複合ラバーストラップ、サテン仕上げを基調としたケース表情は、アクアノートのアイデンティティとして継承された。
3. ファミリーの基幹を担うリファレンスとして
5167A-001は単独のモデルではなく、5167系列の出発点として位置づけられる。翌年以降、スチールブレスレット仕様の5167/1A-001、ローズゴールド仕様の5167R-001が加わり、さらに2011年には初の複雑機構搭載モデルとなるトラベルタイム5164A、2017年には20周年記念の42.2mmジャンボ5168G-001、2018年にはコレクション初のクロノグラフ5968Aが展開されていく。これらすべての派生は、5167A-001が確立した40.8mmという基幹寸法を起点に組み上げられている。
2024年にトラベルタイム5164Aの鋼製モデル、2025年にはブレスレット仕様の5167/1A-001が相次いで生産終了となったことで、5167A-001は2026年現在、3針デイト+スチールという最も純粋な構成を維持する唯一のアクアノートとなった。シリーズの基幹にして、現存する原点である。
意匠分析
ケースとプロポーション
ラウンデッド・オクタゴン形状のスチールケースは、10時から4時方向の最大径が40.8mm、厚みは8.1mm。直径に対して薄いこの比率は、5167Aを単なる「大型化したアクアノート」ではなく、現代的な日常着用機としての性格を決定づけた要素である。ベゼル上面と側面のサテン仕上げに対し、ベゼル外周の面取りや側面の段差部分はポリッシュで切り分けられ、光を受けたときの濃淡が立体感を生む。
ダイヤルと針
ダイヤルはエンボス加工のアクアノート・パターンを持ち、現行のパテック フィリップ公式仕様では「サンバースト・チャコールグレー、外縁に向かって黒へグラデーションする」と表現される。実視ではほぼ黒に見える深い色調だが、光線が当たると微細な放射状ヘアラインが浮かび上がる。アプライドの数字とバトン型針はホワイトゴールド製で、ホワイトの蓄光塗料が充填される。
ストラップとクラスプ
純正の「トロピカル」コンポジット・ラバーストラップは、ダイヤルと同じエンボス・パターンを纏う。耐塩水・耐紫外線・耐摩耗性能を備える素材で、パテック フィリップ史上初のラバーストラップ採用は1997年の初代に遡る系譜である。2021年以降は新世代の特許折り畳み式クラスプが組み合わされ、サイズ調整は依然としてストラップ自体の切断を要する仕様が踏襲されている。
ムーブメント
サファイアクリスタルの裏蓋越しに見えるムーブメントは、2022年頃を境にキャリバー324 S Cから26-330 S Cへと世代交代した。直径27mm・厚み3.32mm、毎時28,800振動 (4Hz)、最大45時間のパワーリザーブ。21Kゴールド製センターローター、ジャイロマックステンプ、スピロマックスひげゼンマイを備え、パテック フィリップ・シールの認定を受ける。先代324 S Cからの主要な実用面の変化は、ストップセコンド機構の追加である。
系譜と歴史
5167A-001は2007年4月、バーゼルワールドで発表された。アクアノート誕生10周年の節目に合わせた第二世代刷新の中核として、38mmの5165Aと並んで投入されている。
発売初期の2007年生産分には、前世代5065A後期から引き継がれたキャリバー315 S C(毎時21,600振動、48時間パワーリザーブ、ジュネーブ・シール認定)が搭載された。2008年、ムーブメントはキャリバー324 S Cへと刷新され、毎時28,800振動 (4Hz)、最大45時間パワーリザーブの仕様に切り替わる。本機は2009年にパテック フィリップが自社認定の「パテック フィリップ・シール」を新設して以降、同シールの対象となった。
2008年から2009年頃にかけて、スチールブレスレット仕様の5167/1A-001、ローズゴールド仕様の5167R-001が派生として加わり、5167系列はファミリー化していく。生産期間中には地域限定・流通限定モデルも複数登場した。代表的な例としては、カーキ系ダイヤルとストラップを纏う5167A-010、2019年のパテック フィリップ・ウォッチアート・グランド・エキシビション・シンガポール開催に合わせた赤いストラップの特別仕様5167A-012が挙げられる。
2021年頃には、二重折り畳み構造の新世代特許クラスプが標準装備となった。続く2022年中盤から後半にかけて、ムーブメントが最新世代のキャリバー26-330 S Cへと更新され、ストップセコンド機構が追加された。同時期、ダイヤルの仕上げも従来のフラットな黒からサンバースト・チャコールグレーの放射仕上げへと改められたと伝わる。
2024年にトラベルタイム5164Aの鋼製モデル、2025年にブレスレット仕様の5167/1A-001が相次いで生産終了となり、2026年5月現在、5167A-001は鋼製アクアノート3針デイトの唯一の現行モデルとして製造が継続されている。