設計思想
1. マスター クロノメーター移行の年に
2016年、オメガはSeamaster Planet Oceanを内外ともに刷新した。最大の転換は、コレクションの全モデルがスイス連邦計量・認定局(METAS)の試験を経た「マスター クロノメーター」へ移行したことである。オメガは前年にGlobemasterで初めてこの認定を導入しており、Planet Oceanはその基準を面で展開する最初の大型コレクションとなった。
本機は、その刷新のなかで用意されたGMT仕様の基幹Refである。600m防水のダイバーズに第2時間帯の表示を加えた構成は、前世代から引き継がれたものだ。変わったのは、同じ機能を支える中身と、それを見せる表情の側である。
2. 前任232.30.44.22.01.001からの連続と断絶
前任の232.30.44.22.01.001は、COSC認定のコーアクシャル・クロノメーターCal.8605を積んだGMTであった。43.5mmのケース径、600m防水、10時位置のヘリウムエスケープバルブ、ローカル時針を単独で動かせるタイムゾーン機能は、いずれも本機にそのまま受け継がれている。使い手が触れる操作系は、ほとんど変わっていないと言ってよい。
一方で、認定の水準は一段上がった。精度に加えて、15,000ガウスの耐磁性と防水性を完成品の状態で検査する方式へ移ったことは、この世代を前任から隔てる最も大きな線である。外観の変化も小さくない。単色だったベゼルと文字盤は、素材と色の構成を大きく改められた。その具体は設計の項に譲るが、変化の方向は「昼と夜」というひとつの主題に集約されている。
3. 昼と夜を読むためのベゼル
オメガは本機のベゼルを、夜と昼を分けるものと説明する。24時間目盛りの半分を白、半分を黒としたことで、GMT針が指す遠隔地の時刻が昼か夜かを、数字を読まずに判別できる。ダイバーズの回転ベゼルを、潜水時間の計測から時差の把握へと振り向けた設計である。
オメガはこれを「世界初のポリッシュ仕上げによる黒白のバイセラミック・ベゼル」と称した。2色のセラミックベゼル自体には、2013年のロレックスGMTマスターII(Ref. 116710BLNR)などの先例がある。オメガの「世界初」は、ポリッシュ仕上げと黒白の組み合わせという条件付きの表現として読むのが妥当だろう。黒白の配色は、後に愛好家の間で菓子になぞらえた「Oreo」の通称でも呼ばれるようになった。
4. 兄弟Refと、その後
同じケースと文字盤を持つ兄弟Refとして、ラバーライニング付きレザーストラップを組み合わせた215.33.44.22.01.001が同時に用意された。同じ2016年には、ケースまで黒セラミックで仕立てた45.5mmのDeep Black GMT(215.92.46.22.01.001)も登場している。同じ43.5mmケースには3針の215.30.44.21.01.001もあり、本機はその系列にGMTを加えた位置づけにある。
2025年に登場した第4世代のPlanet Oceanは、42mmの3針モデルから始まった。本機の直系にあたるGMTは、現時点で後継が示されていない。
意匠分析
ケース径43.5mmは前任の232.30.44.22.01.001から据え置かれた。この世代の変化は、ケースの輪郭よりも、ベゼルと文字盤という「面」に集中している。
最大の要素はベゼルインサートである。前任は単色の黒セラミックに24時間目盛りを配していたが、本機は昼にあたる側を白、夜にあたる側を黒とし、ひとつの酸化ジルコニウム(ZrO2)セラミックリングに焼き分けた。表面はポリッシュ仕上げで、目盛りと数字は地の色に対して反転した色で入る。ベゼルは両方向回転で、24クリックで1周する。黒と銀のアルミベゼルを持ったSeamaster Professional GMT(Ref. 2234)を想起させるとの指摘もある。
文字盤も素材を改めた。前任のラッカー仕上げに対し、本機はポリッシュ仕上げの黒セラミックを用い、中心軸の下に「ZrO2」の刻印を置く。前任まであった「Professional」の表記は外された。インデックスはロジウムメッキのアプライドで、アラビア数字と組み合わされる。GMT針も単色の仕立てとなり、前任より落ち着いた表情になったとされる。
夜光は2色を使い分ける。時針とインデックスは青、分針とベゼル12時位置のドットは緑に発光するSuper-LumiNovaである。潜水中に最も重要な経過時間を担う要素だけを別の色にし、暗所で取り違えにくくしている。
ケース側では、10時位置のヘリウムエスケープバルブを継承した。裏蓋はサファイアを嵌めた新設計の「アルヴェオル」スクリューバックで、蜂の巣を思わせる凹凸の意匠をもつ。ブレスレットはケースに接するエンドリンクと第1コマが改められ、腕への沿いが良くなったと評される。クラスプはダイバーエクステンションを備えたフォールドオーバー式である。
ムーブメントは自社製Cal.8900系のGMT版にあたるCal.8906で、コーアクシャル脱進機(摩擦を減らすオメガ独自の脱進機構)とSi14シリコンヒゲゼンマイを備える。直列に配した2つの香箱が60時間のパワーリザーブを支え、振動数は毎時25,200振動(3.5Hz)である。ローカル時針は1時間単位で単独に動かせるため、移動先で時針だけを合わせ替え、GMT針に出発地の時刻を残す使い方ができる。サファイア越しには、ロジウムメッキのローターとブリッジに施されたアラベスク状のジュネーブウェーブが見える。
系譜と歴史
2016年3月、スイス・バーゼルで開かれたBaselworld 2016において、Planet Oceanコレクションの刷新とともに発表された。この年、同コレクションの全モデルがマスター クロノメーター認定へ移行しており、本機はそのGMT仕様のうち、スチールブレスレットを組み合わせた構成にあたる。同時に、ラバーライニング付きの黒いレザーストラップを組み合わせた215.33.44.22.01.001も発表された。
同じBaselworld 2016では、ケースまで黒セラミックとした45.5mmのDeep Black GMT(215.92.46.22.01.001)も披露されている。
生産期間中に、文字盤やベゼル、ブレスレットの仕様を改めたという公式発表は、確認できる範囲では見当たらない。発表時の構成のまま、約10年にわたってカタログに並んだとみられる。
2025年11月、オメガはPlanet Oceanを第4世代へ移行させ、42mm・日付表示なしの3針モデル群を発表した。この第4世代にGMT仕様は含まれていない。2026年9月時点で、オメガ公式サイトの本機ページは「取り扱い終了」の表示となっている。生産終了の正確な時期について公式の告知は見当たらず、第4世代の登場と前後してカタログを外れたものとみられる。直接の後継にあたるGMTのRefは、現時点で確認できない。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Watches - Omega
- 02 専門メディア History of the Omega Seamaster Planet Ocean