設計思想
1. 素材の実験が深海へ向かった年
2016年のオメガは、プラネットオーシャンを大きく作り替えていた。同年3月のバーゼルワールドで、シリーズ全体がMETAS認定のマスター クロノメーター ムーブメントへ移行した。43.5mmのステンレス製GMT、215.30.44.22.01.001が白黒2色のセラミックベゼルを得たのもこのときである。
その約3か月後、独立した発表として登場したのが「ディープブラック」だった。下地には、2013年のスピードマスター「ダークサイド オブ ザ ムーン」311.92.44.51.01.007で示したブラックセラミックケースの手応えがある。オメガは同じ素材を、クロノグラフから600m防水のダイバーズウォッチへ持ち込んだ。
2. 受け継いだもの、改めたもの
本Refには、同じ素材で作られた直接の前任Refが存在しない。比較の軸となるのは、ステンレスケースのプラネットオーシャンGMTである。ヘリウムエスケープバルブ、600m防水、GMT機能という骨格はそのまま引き継がれた。
一方でケース径は43.5mmから45.5mmへ拡大した。ベゼルも、ステンレス版の24時間目盛りを持つ両方向回転から、潜水時間を測る逆回転防止の分目盛りへ戻されている。24時間表示は文字盤内周のリングへ移された。GMTを備えながら、ダイバーズウォッチとしての作法を優先した構成である。
3. 「水深300m」の黒
公式は本Refの黒を、水深300mの海の色になぞらえている。同時に発表された4本は、深海の暗がりを差し色の有無と色味で描き分けた一組だった。
その中で本Refは、色による差し色をまったく持たない唯一の仕様である。プラネットオーシャンはオレンジを象徴色として育ってきたシリーズだ。その文脈に置くと、色彩を削ぎ落とした本Refは、道具としての機能を保ったままシリーズの別の顔を示した存在といえる。
4. 本Refから始まった系譜
2017年のバーゼルワールドでは、同じ45.5mmの構成をブルーセラミックで仕立てた「ビッグブルー」215.92.46.22.03.001が加わった。2025年に登場したワールドタイマーも、ディープブラックの外観を受け継いでいる。現在の公式カタログには、窒化ケイ素セラミックによる45.5mmの「グレー GMT」も並ぶ。セラミックの45.5mmケースは、本Refを起点にプラネットオーシャンの一系統として定着したと見てよい。
意匠分析
ケースはブラックセラミックの一塊から削り出される。オメガは2013年にスピードマスターでセラミックケースを実用化していた。ただし600m防水とヘリウムエスケープバルブを備えるダイバーズケースへの適用は、このディープブラックが初めてとされる。公式はケースの仕上げを光沢面とサテン面の組み合わせと記述する。艶消しで統一された青・赤仕様に対し、本Refは光の当たり方で黒の階調が変わる。
逆回転防止ベゼルもセラミック製で、ダイビングスケールと竜頭のロゴにはリキッドメタルが用いられる。リキッドメタルはチタン、ジルコニウム、銅からなるアモルファス合金で、セラミックに接合することで硬質なグレーの目盛りをつくる。青・赤仕様はベゼルの最初の15分にラバーを埋め込むが、本Refではその区間も黒のままである。色で区切らないことが、名前に最も忠実な選択となっている。
文字盤もセラミックで、6時・9時・12時にアラビア数字を置き、3時に日付窓を持つ。内周には24時間のGMTリングが新設された。針とインデックスは18Kホワイトゴールド製で、白のスーパールミノヴァを塗布する。黒地に対し、夜光の白と金属の反射だけで視認性を組み立てている。
裏蓋には特許取得の「ナイアード ロック」が採用された。ねじ込み式でありながら、締め終えた位置で刻印の向きが揃う機構である。裏蓋には蜂の巣状のアルヴェオール模様も刻まれる。
ムーブメントはCal.8900系の自社製自動巻き、Cal.8906である。コーアクシャル脱進機(摩擦を抑えるオメガ独自の脱進機構)とシリコン製ヒゲゼンマイを備え、15,000ガウスの耐磁性を持つ。GMT機能は時針を単独で動かす方式で、渡航先で現地時刻へ合わせる操作に向く。
公式のケース厚は17.38mmで、厚みは避けられていない。一方、セラミックはステンレスの約半分の重さとされ、総重量は138g前後とされる。径の大きさに比べて軽い装着感は、素材選択の直接の帰結である。ストラップはファブリック調に成形したラバーで、対照色のステッチを持ち、セラミックの折り畳み式クラスプで留める。
系譜と歴史
2016年6月、オメガはシーマスター プラネットオーシャン「ディープブラック」を発表した。同年3月のバーゼルワールドとは別の、独立した発表である。本Refは黒一色の基本仕様にあたり、青の215.92.46.22.01.002、赤の215.92.46.22.01.003、18Kセドナゴールドを組み合わせた215.63.46.22.01.001と同時に登場した。4本は45.5mmのセラミックケースとCal.8906を共有し、色の差し方と仕上げで描き分けられる。店頭への供給は2016年10月からとされる。
2017年のバーゼルワールドでは、同じ構成をブルーセラミックで仕立てた「ビッグブルー」215.92.46.22.03.001が加わった。ケース素材の色を替えながら45.5mmのGMTダイバーを展開する流れは、ここで明確になる。
生産期間中の仕様変更について、公式からの告知は確認できていない。2024年の日付を持つ保証書付きの新品個体も流通しており、少なくともこの頃までは正規販売網で扱われていたとされる。現在、オメガ公式サイトの本Refのページには、すでに販売していないモデルである旨が表示されている。生産終了の正確な時期は公表されていない。
2025年には、ディープブラックの外観を受け継ぐプラネットオーシャン ワールドタイマーが登場した。ブラックセラミックの45.5mmケースに、ターコイズの215.92.46.22.01.006とグレーの215.92.46.22.01.007が用意される。本Refと同じ番号の系列に連なる後続である。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 専門メディア New Release: Omega Seamaster Planet Ocean "Deep Black", with Price and Technical Specification
- 02 専門メディア Seamaster Planet Ocean Worldtimer Black Ceramic
- 03 専門メディア Omega 215.92.46.22.01.001 Planet Ocean Deep Black
- 04 専門メディア Introducing the Omega Seamaster Planet Ocean Deep Black Entirely in Ceramic
- 05 専門メディア Omega Introduces the Seamaster Planet Ocean GMT “Dark Grey”