設計思想
1. 三針のEscaleに用意された宝飾の一本
2024年、ルイ・ヴィトンはEscaleを旅の複雑機構の器から、時刻だけを示すドレスウォッチへと改めた。前年のTambour刷新で、同社は高級時計の領域で評価を得る方針を打ち出している。Escaleの再定義は、その方針に続く第2の段階であった。
新しいEscaleは4作で始まり、ローズゴールドの2作とプラチナの2作で構成された。プラチナの2作は、希少な素材で文字盤やケースを飾る役を担う。1本はギベオン隕石を文字盤に用いたW3PT11、もう1本が本機である。ブランドは本機を、時刻表示のみのハイジュエリー・ウォッチと位置づける。三針という簡素な表示の上で、発足時から宝飾の領域までを示しておく狙いがあったと読める。
2. 39mmの兄弟との連続と非連続
本機に直接の前任Refはない。比較の軸となるのは、同じ日に生まれたW3PT11である。両者は950プラチナのケース、ホワイトゴールドの針とインデックス、Cal. LFT023を共有する。光と影だけで組み立てたモノトーンの色調も共通している。
異なるのはケースと文字盤の素材である。本機はベゼルとケースサイドに石を留め、径は39mmから40.5mmへ広がった。文字盤の中央は、隕石の不規則な模様に代えて、磨き上げたオニキスの均質な黒とした。インデックスにはダイヤモンドが加わり、留め具はピンバックルから折りたたみ式に改められた。
こうした作り分けを支えたのが、文字盤の構造である。SJXによれば、新しいEscaleの文字盤は中央部と外周の2部品を主体とし、針とインデックスも組み替えられる。同じ設計の上で、素材の選び方がどこまで性格を変えうるか。W3PT11と本機の対は、その振れ幅を示す組み合わせになっている。
3. 宝飾の構成を受け継ぐRef
その後のEscaleは、素材の探求を段階的に広げていく。2025年11月のW3PTC1は、マラカイトの一体リングでケースの側面そのものを石に置き換えた。本機が金属の側面に宝石を留めたのに対し、W3PTC1は側面を石で作っている。ケースの側面を装飾の場とする発想の、次の段階と見ることもできる。
2026年1月のLVMH Watch Weekでは、ツインゾーン機構を載せたW3PT61が加わった。プラチナのケースとベゼルに170石のバゲットカット・ダイヤモンドを留めるモデルである。リューズに留めたローズカット1石(約0.15ct)は、本機と同じ構成である。折りたたみ式バックルの11石(約0.58ct)も一致する。2024年に三針の本機で組み立てられた宝飾の文法は、複雑機構のEscaleにも引き継がれた。
意匠分析
950プラチナのケースは径40.5mmで、W3PT11など39mmの3作に対し1.5mm広い。風防を除く厚さも9.30mmと、39mmモデルの8.97mmをわずかに上回る。拡大はケースサイドに石を留めるためと報じられている。ベゼルとケースサイドには計161石、約5.65ctのバゲットカット・ダイヤモンドが並ぶ。ブランドはその幾何学的な輝きを、黒い文字盤へ視線を導く光の輪と説明している。
八角形のリューズは、トランクのリベットを模した丸い頭を持つ。本機ではその頂に、約0.15ctのローズカット・ダイヤモンドを1石留める。ローズカットは底面が平らで、上面を三角形の小面でドーム状に構成するカットである。リベットの丸みと、形の上で呼応する選択と読める。
文字盤は、中央部と傾斜を付けたサテン仕上げのフランジからなる。本機は中央部に研磨したオニキスを用いる。オニキスは、石英の仲間である玉髄(カルセドニー)の一種である。W3PT11の隕石が模様の変化で見せるのに対し、本機は模様のない黒で周囲の石の輝きを受け止める。四方のインデックスは18Kホワイトゴールド製で、計16石、約0.03ctのブリリアントカット・ダイヤモンドを留める。
時分針は18Kホワイトゴールド、秒針はPVD(物理蒸着)処理を施したチタン製である。秒針の先端は文字盤の反りに沿って曲げられ、視差(針と目盛りの高さの差による読み取りの誤差)を抑える。
ストラップは黒のカーフレザーで、留め具にはプラチナの折りたたみ式バックルを用いる。バックルには11石、約0.58ctのバゲットカット・ダイヤモンドが並ぶ。同時発表の3作はピンバックルで、これは本機だけの仕様である。ストラップを穴から抜かずに着脱でき、時計を落とす危険を減らす実用上の意味もあると考えられる。
裏蓋はサファイアクリスタルで、Cal. LFT023を見せる。マイクロローター(ムーブメント内に組み込む小型の回転錘)は22Kローズゴールド製である。シリアルナンバーはローズゴールドのプレートに刻まれる。プラチナに色の異なる金を当て、トランクの銘板に倣う。防水は50mで、39mmモデルと変わらない。石のリングを組んだ後年のW3PTC1は30m防水であり、宝石を金属に留める本機の構成は防水性能を削っていない。
系譜と歴史
W3PT31は、2024年6月11日に発表されたEscale(エスカル)三針コレクションの1本である。同時発表はローズゴールドのW3PG11とW3PG21、ギベオン隕石の文字盤を持つプラチナのW3PT11である。本機はこの4作のうち、ケースにダイヤモンドを留めた唯一の仕様として並んだ。2014年のEscale誕生から10周年にあたる年の発表であった。
発表時の資料や各誌の記事では、本機はW3PT3Yの番号で紹介された。日本でも同月に発売が告知され、ルイ・ヴィトン ジャパンは「エスカル オトマティック プラチナ ダイヤモンド」の名を用いた。限定数の告知はなく、生産本数も公表されていない。組み立ては、ジュネーブのLa Fabrique du Temps Louis Vuittonで行われる。
2026年9月時点の公式サイト(米国など)では、本機はW3PT31として掲載されている。番号が改められた時期と理由は、公表資料からは確認できない。記載される石の内訳は、発表時と変わらない。ケースの161石、リューズの1石、文字盤の16石、バックルの11石である。合計は、発表時に報じられた189石、約6.41ctと一致する。
同時点までに生産終了の告知はなく、公式サイトへの掲載が続いている。本機を基にした色違いや素材違いの派生Refも、発表されていない。
出典
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