設計思想
1. 三針のEscaleに届いた工芸の文字盤
2024年6月、ルイ・ヴィトンはEscale(エスカル)を時刻表示のみのドレスウォッチとして再出発させた。発足時の4作は、グレイン仕上げの金属、隕石、オニキスといった文字盤素材で性格を分けていた。いずれも、素材の質感そのものを見せる構成である。
同じ年、ルイ・ヴィトンは工芸技法を前面に出した作品も発表している。春のEscale Cabinet of Wondersは、彫金とエナメルで生き物の情景を描いた。ただしこれは秒針を持たない二針仕様で、文字盤を1枚の絵として扱う作品だった。
12月の本機は、工芸を別の形で三針の器に持ち込んだ。文字盤に描かれるのは具象の情景ではなく、ギョーシェの波とエナメルの青だけである。SJXは、2024年を職人の手による文字盤が目立った年と総括した。本機はその流れのなかで、年の瀬に加わった一作であった。
2. W3PT11との連続と非連続
本機に直接の前任Refはない。比較の軸となるのは、同じプラチナで先に登場したW3PT11である。ケースとCal. LFT023、ホワイトゴールドの時分針、チタンの秒針は共通する。変わったのは文字盤の中央部である。ストラップにも、文字盤の青に合わせたカーフが選ばれた。
W3PT11の隕石は、天然素材の模様を切り出して見せる。これに対し本機の文字盤は、4人の職人が工程を分担して1枚ずつ作る。ブランドは、この文字盤の複雑さを50本に限った理由に挙げた。2024年6月の4作は、いずれも本数を限っていない。公表資料で確認できる範囲では、三針のEscaleで最初の限定モデルである。
3. リベットを手放さなかった理由
新しいEscaleは、トランクの意匠をケースだけでなく文字盤にも持ち込んだ。四方のインデックスを実際のリベットで留める作りは、その代表例である。一方、焼成エナメルの文字盤では、目盛りを印刷とするのが通例だ。ガラス質の層は、通常の穴あけに耐えない。
本機は印刷に切り替えず、エナメルに穴を開ける工程を新たに組み込んだ。工芸の文字盤であっても、Escaleの文法は崩さない。この判断が本機の性格を決めている。SJXは本機を、巨大ブランドよりも独立時計師の作に近い印象を与えると評した。
4. 後に続くもの
2025年11月、Escaleにはマラカイトを用いたW3PTC1と、ターコイズを用いたW3PTB1が加わった。いずれも30本限定で、装飾の場を文字盤からケースの胴へ広げている。2026年1月のW3PT41では、ワールドタイムの24都市の旗が、同じシャンルベのグラン・フー・エナメルで焼かれた。本機は、Escaleが素材と工芸の幅を広げていく過程の初期に位置する。
意匠分析
ケースは、W3PT11と同じ39mm径の950プラチナ製である。風防を含む厚さも変わらず、ケースに本機固有の変更はない。幅の広いベゼルは鏡面、ケースサイドはサテンに仕上げる。トランクの角金具を写したラグは、鏡面とサテンを組み合わせる。本機の独自性は、ほぼ文字盤の中央部に集まっている。
その土台はホワイトゴールドの円盤である。まず縁をわずかに削り残し、エナメルをせき止める堤とする。内側は手動のローズエンジン(模様を彫る旋盤状の機械)で、放射状の波模様に彫る。彫りは堤の際まで届かせる必要があり、ブランドは熟練のギョーシェ職人にしかできない工程と説明する。
エナメル職人は、粉砕した色ガラスを水と油で練り、彫りの凹みに塗り込む。凹部を埋めるこの技法をシャンルベという。800℃以上での焼成を重ねると、透明な青の層を通して下の彫りが透ける。この見せ方はフランケと呼ばれる。最後にダイヤモンドペーストで研ぎ、鏡面に整える。
裏面には、焼成時の反りを防ぐ淡色のカウンターエナメル(裏打ちのエナメル)を施す。その下には「Guilloché Main, Émail Grand Feu」の刻印が読める。将来この時計を整備する時計師への、職人からの伝言とされる。
3・6・9・12時のインデックスは、18Kホワイトゴールドのバーである。これをエナメルに留めるため、精密なレーザーで1本につき3個、計12個の穴を開けた。SJXによれば、インデックスは金属の縁からエナメル面へ張り出して据えられる。
中央部を囲むフランジは、銀色のサテン仕上げで内側へ傾斜する。分目盛りの点は、トランクの枠に打たれた釘を写したものである。Monochromeなどによれば、時位置の点には青が差されている。
時分針は18Kホワイトゴールド、秒針はPVD処理を施したチタン製である。ブランドは、軽い秒針でゼンマイの負担を抑えるためと説明する。SJXは、細い秒針なら素材による差はごく小さいとの見方を示す。
裏蓋はサファイアクリスタルで、Cal. LFT023の22Kローズゴールド製マイクロローターが見える。「1 of 50」を刻むプレートもローズゴールド製である。ストラップは青のカーフに黒のカーフの裏地を合わせ、プラチナのピンバックルで留める。
系譜と歴史
W3PT21は、2024年12月に発表されたEscale(エスカル)の50本限定モデルである。専門誌のMonochrome WatchesとWatch I Loveは、12月12日にそろって本機を報じた。aBlogtoWatchが14日、SJX Watchesが19日に続いている。同年6月11日に三針のドレスウォッチとして再出発したEscaleにとって、半年後の追加であった。
国際的な発表資料での名称は「Escale Platinum Guilloché and Grand Feu Enamel Dial」である。日本では12月17日、ルイ・ヴィトン ジャパンが「エスカル オトマティック プラチナ ブルーエナメル」の名で発表した。国内の一般誌が本機を相次いで取り上げたのは、翌2025年1月である。
本機は発表時からW3PT21の番号で紹介されている。同じプラチナのW3PT31が発表時にW3PT3Yと表記されたのとは異なり、番号の改定は確認されていない。組み立てはジュネーブのLa Fabrique du Temps Louis Vuittonで行われる。
2025年11月には、マラカイトのW3PTC1とターコイズのW3PTB1が、それぞれ30本限定で発表された。本機の後に三針のEscaleへ加わった限定モデルとして、確認できる最初の例である。
2026年9月時点で、日本の公式サイトは本機を限定モデルとして掲載している。生産終了や完売の告知は確認できず、50本の生産や納品の進み具合も公表されていない。寸法や防水、ムーブメントの記載は発表資料と一致し、発表後の仕様変更は確認されていない。文字盤色や素材を変えた派生Refも発表されていない。
出典
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