デイデイト
曜日と日付という二つの日常の指標を一つの文字盤にまとめた、機械式時計で広く普及した基本的な暦機構
デイデイト (day-date) は、曜日と日付を併せて表示する暦機構である。月の指示を持たないため、暦の複雑機構のなかでは基礎的な「単純カレンダー」に分類される。曜日の表示そのものは天文時計の時代から知られていた。だが、曜日を略さず綴り、日付と並べて窓に示す現代的な形式は、1956年発表のロレックス「デイデイト」によって定着したとされる。日付・曜日とも24時間に1回送られ、機械式・クオーツを問わず、身近な実用機構の一つとして広く採用されている。
仕組み・原理
1. 二つの暦を時計の歯車から取り出す
機械式時計の輪列は、12時間で1回転する時針の動きを基準に時刻を刻む。デイデイトは、この回転から「24時間に1回」という長い周期を取り出し、曜日と日付という二つの表示を駆動する機構である。
中心となるのは、文字盤の裏側に置かれた日送り車(24時間車)だ。時針の輪である筒車から中間車を介して減速され、24時間でちょうど1回転する。筒車は12時間で1回転するため、中間車がなければ駆動周期は半分になってしまう。この減速こそが、暦を1日に1回だけ進めるための土台である。
日送り車には送り爪が植えられている。1回転するたび、すなわち深夜の前後に一度だけ、この爪が日付の輪と曜日の星車を一段ずつ送る。曜日は7日で一巡し、日付は最大31日まで進む。
2. 日付の輪と曜日の星車
日付表示を担うのは、文字盤の外周に置かれた日付の輪である。内側に31枚の歯を持ち、1から31の数字が刷られる。送り爪が1歯ぶん回すと、窓に現れる数字が一つ進む。
曜日表示には、7枚の歯を持つ星車が用いられることが多い。星車の上に曜日の円板が重なり、表示が一週ごとに巡る。多くの実用時計では円板に2言語を交互に刷り、14のます目を設ける。装着者は好みの言語を窓に合わせて使う。ロレックスのデイデイトが多言語の曜日円板をそろえてきたことは、この機構の汎用性をよく示している。
日付の輪も曜日の円板も、送られていない間は位置を保つ必要がある。そのために、歯と歯の谷へばね仕掛けのジャンパー(位置決めばね)が噛み、表示が中途半端な位置で止まるのを防いでいる。
3. 切り替えの速さと日々の調整
送りの方式には大きく3つある。直接駆動式は、日送り車と暦が常時噛み合い、深夜の前後におよそ2時間かけて表示がゆっくり移る。半瞬時(セミインスタンタネオス)式は移行を短く詰め、瞬時(インスタンタネオス)式は、ばねに蓄えた力を深夜に一気に解放して表示を一瞬で切り替える。
日付と曜日を素早く合わせる早送り機構(クイックセット)を備える時計も多い。ただし、送りの歯車が噛み合う深夜前後の時間帯に早送りを行うと、機構を傷めるおそれがある。この時間帯を避けて操作するのが定石とされる。
そのうえで、デイデイトはあくまで単純カレンダーである。各月の長さを記憶しないため、31日に満たない月の翌日には、日付を手で送らねばならない。2月・4月・6月・9月・11月の末、すなわち年に5回の修正が欠かせない。一方、曜日は常に7日周期で正しく進むため、修正の対象とならない。年次カレンダーや永久カレンダーと隔てるのは、まさにこの点である。
歴史
1. 暦を指す時計の長い系譜
曜日や日付を指し示す試みは、機械式時計そのものと同じだけ古い。中世の天文時計はすでに曜日や月齢を表示しており、懐中時計の時代には、日付・曜日・月をまとめて示す暦時計が作られていた。
腕時計に日付の窓が一般化したのは、20世紀前半のことである。1930年代から1940年代にかけて、日付を一つの窓に示す実用時計が広まった。さらに、曜日・日付・月を同時に示すトリプルカレンダー(コンプリートカレンダー)の腕時計も、1940年代から1950年代に各社が手がけている。曜日の表示は、この時点ですでに腕時計に存在していた。
2. 1956年、形式としての「デイデイト」
現代に続く形式を決定づけたのは、1956年にロレックスが発表したオイスター パーペチュアル デイデイトである。最初の参照番号は6510(平ベゼル)と6511(フルーテッドベゼル)で、ケースは金とプラチナに限られた。
この時計の新しさは、曜日を略号ではなく単語として綴り、それを文字盤の窓に示した点にある。当時、曜日は小さな補助文字盤の針や略字で示されることが多く、完全表記の窓で曜日を見せる腕時計は前例に乏しかった。機構はロレックスの技術者マルク・ユグナンの特許に基づくと伝わる。発表に合わせて専用のプレジデント ブレスレットも用意され、のちにこのモデルは「プレジデント」の通称で知られていく。
12時位置に曜日窓、3時位置に日付窓を置くこの配置は、その後あらゆるメーカーのデイデイト時計が踏襲する基本形となった。
3. 普及と、現代の到達点
デイデイトの形式は、20世紀後半を通じて時計産業全体へ広がった。曜日と日付は実生活で参照する機会が多く、この機構は需要の大きい複雑機構の一つとなる。セイコーの「セイコー5」をはじめとする普及価格帯の時計が、2言語表記の曜日円板とともにデイデイトを世界へ行き渡らせた。
クオーツの登場は、暦送りに新しい課題をもたらした。トルクの小さなクオーツでは表示が緩慢に移ろいやすく、これを解くために、力を蓄えて深夜に放つ瞬時送りの機構が練り上げられている。
なお、デイデイトはあくまで単純カレンダーであり、月末の修正を不要にした年次カレンダー、うるう年まで記憶する永久カレンダーとは機構の階層を異にする。それでも、日常で参照する二つの暦をひとまとめにしたこの機構は、暦表示の出発点として揺るがぬ位置を占め続けている。
代表的な実装
デイデイトの形式を決定づけたのは、やはりロレックスのデイデイトである。曜日を略さず綴る窓表示、12時と3時に振り分けた配置は、後続のほぼすべての同種時計が参照する基準となった。曜日円板は多くの言語でそろえられ、現在は26言語に及ぶとされる。金とプラチナのみで仕立てられる点も、この機構が実用と格式の双方を担いうることを示している。
対照的に、この機構を世界の日常へ広げたのがセイコーの「セイコー5」である。堅牢な自動巻きに曜日・日付を備えた構成を普及価格で量産し、2言語を交互に刷った曜日円板を標準とした。装着者が母語と英語を選べるこの円板は、ロレックスが切り開いた多言語表示を、より広い層へ届けた実装といえる。
クオーツでの到達点を示すのが、グランドセイコーのキャリバー9Fである。トルクの小さなクオーツでは暦表示が緩慢に移りやすいが、9Fはカムとレバーに力を蓄え、深夜0時前後の5分以内に表示を一瞬で送る。9F83のように曜日表示を備える仕様もあり、機械式の瞬時送りに迫る切り替えを実現している。
表示の手法そのものにも幅がある。曜日・日付を窓で示すのが一般的だが、小さな針で指し示すポインター式の実装もある。また、日付側を大きく見せるビッグデイト(パノラマデイト)はドイツ時計が洗練させた変奏であり、同じ暦表示が設計思想によって異なる表情をとることを物語っている。デイデイトはドレスウォッチに限らず、ダイバーズやクロノグラフなど実用時計の幅広い領域で採用され続けている。