設計思想
7002の後継として生まれた廉価ISOダイバー
セイコーは1965年の国産初ダイバーズ以来、実用に耐える防水時計を量産する技術を磨いてきた。1996年、同社は普及価格帯ダイバーの主力だった7002系を置き換える形でSKXシリーズを発売する。新シリーズの核は、同年に登場した自動巻Cal.7S26と、ISO 6425(JIS規格に相当する潜水時計の国際規格)への準拠だった。検査項目の多いISO準拠を維持しながら量産効率を徹底的に追求した点に、このシリーズの設計思想が表れている。
SKX009は、その中で黒文字盤・黒ベゼルのSKX007と対をなす存在として企画された。濃紺の文字盤に、0から20分までを赤、残りを青で塗り分けたベゼルを組み合わせる配色は、1950年代以来のGMT時計に由来する通称「ペプシ」の系譜に連なる。ケース、ムーブメント、針、インデックスはSKX007と完全に共通であり、両者の違いは配色のみである。
K2という仕様の意味
SKXシリーズの型番末尾は、生産地と装着仕様を示す。Jは日本国内組立(文字盤に21 JEWELS表記とMADE IN JAPAN刻印が入る)、Kは海外工場での組立を意味し、続く数字がブレスレットかストラップかを区別する。SKX009K2は、5連のジュブリータイプブレスレットを標準装備した海外生産仕様であり、ラバーストラップのSKX009K1、日本組立のSKX009J1と並行して流通した。北米市場では同型機がSKX175の型番で販売されており、流通網ごとに型番が分かれる当時のセイコーの販売体制を映している。
変わらないことの価値と、その終焉
SKX009は約23年間、文字盤の刷りもケース形状もほぼ変えずに生産され続けた。手巻きもハック機構も持たないCal.7S26は機能面では簡素だが、その単純さゆえの堅牢さと部品供給の容易さが、世界中の使用者と改造愛好家の支持を集めた。互換部品が豊富なSKXは「モッディング」文化の母体となり、結果としてシリーズの寿命をさらに延ばした。
2019年頃にSKXシリーズは生産を終え、同年発表のセイコー5スポーツSRPD系が事実上の後継となった。SRPD系は外装デザインをSKXから受け継ぎつつ、防水を100mに下げ、ISO準拠のダイバーズ表記を外している。つまりSKX009K2は、この価格帯でISO準拠の200mダイバーを名乗った最後の世代のひとつであり、その立ち位置こそが今日まで語られる理由である。
意匠分析
SKX009K2の外装は、SKX007と共通のケース(ケース番号7S26-0020)を基盤とする。直径42.5mm・厚さ13.25mmという数値はカタログ上では大柄だが、ラグからラグまでが46mmと短く、ラグが強く下方へ湾曲するため、数値の印象より小さく収まる。リューズは4時位置に置かれ、ガードと一体化した張り出しの中に沈む。手首の甲に当たらないこの配置は、セイコーダイバーの伝統的な意匠である。
ベゼルは逆回転防止の120クリックで、30秒単位の操作ができる。インサートは20分までを赤、以降を青とする塗り分けで、白い目盛りが両色に対して強いコントラストを作る。文字盤は光によって黒に見えるほど深い紺で、植字された円形インデックスにルミブライト夜光をたっぷりと盛る。12時は三角、6時と9時は長円形として方向認識を助け、3時には曜日・日付の二重表示窓を置く。針は時針がシリンジ型、分針が幅広の矢型、秒針が円形カウンターウェイト付きという構成で、暗所での判読を最優先した設計である。
K2仕様を特徴づけるのが、22mm幅の5連ジュブリータイプブレスレットである。中空コマ構造のため軽く、しなやかに手首へ沿う一方、コマ同士が触れ合う金属音は質感面での割り切りを示す。プレス成形のフォールドオーバークラスプも同様で、コストを外装の防水構造とムーブメントの信頼性に集中させる配分が読み取れる。風防はサファイアではなくハードレックスを採用し、割れにくさと交換コストの低さを優先した。
Cal.7S26は毎時21,600振動 (3Hz)、21石、約41時間のパワーリザーブを持つ。手巻きとハック機構を省略し、マジックレバー式の巻上げと自動組立を前提とした構造で量産性を最大化した。精度仕様は日差-20〜+49秒と控えめだが、過酷な使用に耐える耐久性がこの機械の本領である。
系譜と歴史
SKX009は1996年、7002系ダイバーの後継となるSKXシリーズの初期モデル群として発表された。ケース番号7S26-0020を持つSKX007と同時に展開され、以後、生産終了まで外装の基本仕様は変更されていない。発表当初から、ラバーストラップのK1仕様とジュブリータイプブレスレットのK2仕様、さらに日本組立のJ1仕様が地域ごとに並行して流通した。北米市場では同一設計の時計がSKX175として販売され、黒ベゼルのSKX007に対応するSKX173も同様の関係にあった。
生産期間中の変更は、外装ではなくムーブメント側で行われた。Cal.7S26は初期の7S26Aから、2006年頃に7S26B、2011年頃に7S26Cへと改良されたと伝わる。いずれも部品レベルの最適化が中心で、振動数や石数などの基本仕様は変わっていない。文字盤・ベゼル・ケースの意匠は約23年間維持され、製造時期はケースバックのシリアル刻印から推定する以外にない。
2019年頃、SKXシリーズは生産を終了した。終了時期について公式の明確な発表はなく、2018年とする資料も存在する。同じ1996年型の設計を持つ姉妹機SKX007、小径のSKX013、橙文字盤のSKX011なども前後して姿を消し、2019年8月に発表されたセイコー5スポーツSRPD系へと市場上の役割が引き継がれた。SKX009K2は現在、新品流通の終了したディスコンティニュードモデルである。