設計思想
キャリバー1887亡き後のクラシックカレラ
2018年のバーゼルワールドは、カレラにとって誕生55周年の節目だった。しかし当時のカレラの主役は、ホイヤー01やホイヤー02を積んだ43〜45mmのモジュラー系であり、スケルトンダイヤルと角張ったラグがコレクションの顔になりつつあった。一方で、自社製キャリバー1887を搭載したクラシック路線のカレラ(CAR2110、青文字盤のCAR2115など)はこの頃までに生産を終え、伝統的な意匠を求める層の受け皿が空白になっていた。
CBK2110(黒)とCBK2112(青)から成るキャリバー16クロノグラフは、この空白を埋めるために投入された。本機CBK2112.FC6292は、その青文字盤に青アリゲーターストラップを合わせた仕様である。
1887からの継承と置き換え
新作は一見するとキャリバー1887世代の焼き直しに映るが、細部は意図的に整理された。タキミーター入りだったインナーフランジはミニッツトラックに置き換えられ、12時と6時のカウンターを囲っていたシルバーリングは廃止。日付は6時位置から3時位置へ移り、ブレスレット仕様では5列リンクに代わって3列のHリンクが採用された。装飾を減らし、ダイヤルの情報を均す方向の変更である。
最大の転換はムーブメントだ。自社製キャリバー1887ではなく、ETA 7750またはセリタSW500をベースとする汎用機のキャリバー16が選ばれた。自社製ムーブメントをモジュラー系の上位モデルに集約し、クラシック路線は価格で勝負するという役割分担であり、発表時の想定価格は約4,000スイスフランと伝えられた。これは2010年のキャリバー1887搭載機の発売価格とほぼ同水準である。また、同じキャリバー16でも43mmでデイデイト表示だった従来機(CV2A10系)に対し、本機は41mm・デイト表示のみへと整理された。
青×革という構成の位置
CBK世代は黒と青の2文字盤に、ブレスレット(BA0715)とアリゲーター(黒はFC6266、青は本機FC6292)を組み合わせた計4型で展開された。中でも青サンレイ文字盤と青アリゲーターの組み合わせは、スポーツクロノグラフというより端正なドレスクロノ寄りの性格を与えられた仕様である。2019年にはセラミックベゼルのスポーツ版CBM2110/CBM2112が加わり、CBK系は「ヘリテージ側」を担う構図が明確になった。2023年に登場したガラスボックス風防の新世代カレラ・クロノグラフ(CBS2210系)へと続く流れの中で、本機はクラシックカレラの命脈をつないだ世代として位置づけられる。
意匠分析
ケースは41mmのスチール製で、全面をポリッシュで仕上げる。固定ベゼルは細く絞られ、視線が文字盤に集中するよう設計されている。厚さは公式表記で15.95mm。7750系ムーブメントを積むクロノグラフとしては標準的だが、薄くはなく、装着時にはそれなりの存在感がある。ラグ幅は20mmで、ラグ内側を削ぎ落とす造形は1960年代カレラ以来の文法を踏襲する。
青文字盤はサンレイ(放射)仕上げで、光の角度によって明度が大きく変わる。12時の30分計と6時の12時間計は一段沈み込み、同心円状のアズラージュ仕上げが施される。9時のスモールセコンドは外周のフランジとともに青で統一され、フランジにはタキミーターではなくミニッツトラックが刷られる。インデックスはロジウムプレートの植字で、針とともに夜光が施される。発表時の各誌レビューでは、ベージュ調に焼けた色味のヴィンテージ風夜光と紹介された。3時位置の日付窓は銀色の枠で縁取られ、白地のデイトディスクが青地に浮かぶ。
プッシャーは円筒形のポンプ型で、キャリバー1887世代の角型から改められた点のひとつである。ケースバックにはサファイアの開口が設けられ、キャリバー16のローターが見える。従来のキャリバー16搭載カレラの多くがソリッドバックだったことを踏まえると、これは本世代での明確な改良点といえる。
FC6292のストラップは型押しではない青アリゲーターで、キャリバー1887時代のCAR2115に用いられたものと同系である。バックルはダブルセーフティプッシュボタン付きのスチール製フォールディングクラスプ。同型の青文字盤にはHリンクブレスのBA0715も用意されたが、革仕様の本機は青の濃淡を腕元でそろえる構成であり、ポリッシュケースの光沢と相まって、スポーツクロノグラフよりも落ち着いた印象にまとまっている。
系譜と歴史
2018年3月のバーゼルワールドで、カレラ誕生55周年に合わせて発表された。黒文字盤のCBK2110と青文字盤のCBK2112の2種で、それぞれにスチールブレスレット仕様(BA0715)とアリゲーターストラップ仕様(黒はFC6266、青は本機FC6292)が設定され、世代全体では計4型の構成だった。販売は2018年から2019年にかけてのレンジとして始まり、発表時の想定価格は約4,000スイスフラン、英国では3,500ポンド前後と報じられた。
2019年には、同じ41mmケースにセラミック製タキミーターベゼルを組み合わせたスポーツ版のCBM2110/CBM2112が追加され、CBK系はコレクション内でヘリテージ寄りの選択肢として併売された。生産期間中、本機の外装仕様に大きな変更は確認されていないが、公式製品ページのパワーリザーブ表記は、発表当初に各誌が伝えた42時間から、後年には56時間へと改められている。ベースムーブメントの仕様更新を反映したものとみられる。
2023年、ウォッチズ&ワンダーズでガラスボックス風防と自社製キャリバーTH20-00を備えた新世代カレラ・クロノグラフが発表されると、キャリバー16系のカレラは段階的にカタログから姿を消した。本機CBK2112.FC6292も現在は生産を終了しており、タグ・ホイヤー公式サイトの製品ページには生産終了(discontinued)の表記がある。明確な生産終了年月は公表されていない。